2001年3月23日(金)「しんぶん赤旗」

「不良債権の早期処理」――政府のやり方では倒産、失業、国民負担増をひどくする

志位委員長の会見 (大要)


 日本共産党の志位和夫委員長が二十二日に国会内で行った記者会見での発言(大要)は、つぎの通りです。


「不良債権の早期処理」という対米公約は重大

 一、銀行の不良債権処理にかかわる問題について、わが党の立場についてのべたい。

 日米首脳会談で、森首相が日本の銀行の不良債権の処理について、早期処理を約束した。「半年で方針を決める」ということを約束したと伝えられ、政府関係者からは、それを否定する発言があったようだが、いずれにせよ、「不良債権の早期処理」を対米公約にしたことは間違いない。これは重大な動きだ。

 「不良債権の早期処理」ということは、柳沢伯夫金融相がかねてから主張してきたように、不良債権を銀行のバランスシートから切り離す「直接償却」というやり方をすすめるということを意味する。これを急いでどんどんすすめるということにかかわって、三つの大きな問題が出てくる。

ゼネコン・大企業――借金棒引きとひきかえにリストラ計画を推進

 一、第一に、乱脈・投機的な経営で、危うくなったゼネコンや大企業に対しては債権放棄を行う、つまり借金の棒引きを行うという形での「直接償却」がはかられるという動きが強まるだろう。

 昨日(二十一日)、経済産業省は、「産業再生法」の適用対象を金融機関から債権放棄をうけて再建をはかる企業にも拡大するという方針を決定した。すなわち、銀行がゼネコンや大企業の債権放棄を行う。その企業に対し「産業再生法」を適用し、減税の措置をとってやる。その条件としてリストラ計画を出させて、実行させる。その結果がどうなるかといえば、大量の失業と中小企業への深刻な犠牲のしわよせが起こってくる。

中小企業――強引な融資回収の危険

 一、第二に、まじめに働いているが、不況のなかで苦境におちいり、赤字経営におちいって、資金繰りがつかないで苦しんでいる中小企業がたくさんあるが、こういう中小企業にとっては、「直接償却」をどんどんすすめるということは、「不良債権」として扱われ、強引に融資が回収され、倒産に追い込まれる危険が生ずることになる。

 きょうの報道によると、日商の稲葉会頭は、今度のやり方について非常に強い危ぐと批判を表明している。「不良債権処理を集中して行うのは危険だ。とくに中小企業への影響が大きい」とのべているが、これは当然の声だ。

 これも、中小企業の倒産の激増、失業のよりいっそうの深刻化という事態を招くという結果になる。

七十兆円の税金がとめどもなく使われる

 一、第三は、大銀行の不良債権処理のコストはすべて国民の税金であるという問題だ。すでに七十兆円の公的資金で大銀行を応援する仕組みがつくられ、二十数兆円のお金が注がれている。これを使いたい放題使って、国民の税金で、不良債権の後始末を進めるという流れも加速するだろう。もともと不良債権というのは、銀行が自らの責任でつくったものだから、銀行業界の共同のコストで処理するというのが、当たり前の原則だった。この原則を踏み外して七十兆円の仕組みがつくられたが、今度の方針が進めば、税金がとめどなく使われ、途方もない国民負担になってかえってくることになる。

 こういう三つの大きな問題がある。

 もちろん不良債権の処理という場合、住専のように、乱脈経営、投機的な経営で破たんにおちいった企業の不良債権を処理することは、当然のことだ。

 しかし、いま、進められようとしているやり方では、結果として、たいへんな失業と倒産と国民負担増という、国民にとってふんだりけったりの結果となるということを強く批判したい。

個人消費をあたためることを中心に
実体経済をよくすることこそ緊急中心課題

 一、さらに、もっと大きな角度からみると、景気対策の中心が銀行の不良債権処理だという対策そのものが、逆立ちした考えだ。不良債権問題をただしく解決するということは、必要なことだが、いまの不良債権問題がなぜおこっているかといえば、実体経済が十年間にわたって、冷え込みつづけていることが土台にある。とりわけ、九七年以来、個人消費が冷え込んでいることを中心にひどい実体経済の落ち込みがある。そのために、企業も収益があがらずに、赤字経営におちいっていく。そこから、不良債権がじわじわと広がった。だから、実体経済をよくする本格的なテコ入れをやることこそ、政治の責務だ。

 私たちは、とりわけ実体経済のなかでも六割をしめている個人消費、家計消費を直接あたためる消費税の減税を行うこと、社会保障の負担増を凍結し、将来に安心がもてる社会保障制度の体系をつくること、そして雇用拡大に本格的にとりくむこと――こういう総合的な経済対策が緊急に求められていると考えている。実体経済をよくする、とりわけ家計消費を応援する。これがいまやるべき景気対策だ。それをやってこそ、不良債権の問題もただしく解決できる。実体経済がよくなれば、いま、資金繰りに困っている中小業者も赤字経営から脱して、正常な経営に復帰するということも可能になる。その大本を解決するというのが私たちの主張だ。

 それをやらないで、大銀行・ゼネコン応援の景気対策しかだしてこない。そして、国民にふんだりけったりという結末を押しつけるというやり方は、本当に許されないやり方だ。私たちは、景気対策として、従来型の大銀行とゼネコンを応援する「景気対策」――失敗がすでに証明されている「対策」を続けるのか、それともこれを転換して、国民のくらしを応援する、個人消費・家計消費をあたためる景気対策に転換するのか。これが、いま問われている一番の中心問題だということを訴えていきたい。


政権問題についての日本共産党の立場

質問にこたえて

 志位委員長が政権問題について、記者団からの質問に答えてのべた発言(大要)は、つぎの通りです。

 

民主連合政府が政権目標――
それ以前にも条件がうまれれば政権協議参加の用意がある

 一、私たちの政権の目標は、二十一世紀の早い時期に、外交、経済などすべての分野で、民主的改革を実行する政府――民主連合政府を樹立することにある。この政府は、外交では安保条約をなくして独立・中立の日本をつくること、経済では大企業中心から国民生活向上を何よりも重視する改革をおこなうことなど、抜本的な日本改革を実行することを、課題とする政府だ。

 同時に、それにいたる以前にも、野党が全体として国会の多数をしめるなどの条件が生まれたら、わが党は、野党間で政権協議をおこなう用意があるし、自民党政治を変える「よりまし」の一致点が確認されれば、野党連立政権(暫定政権)に参加する用意がある。これもすでにのべてきたことだが、変わらない方針だ。

「自民党政治をこう変える」という政治の中身こそ肝心――細川内閣失敗の国民的教訓

 一、私がここで、強調したいのは、自民党政治を倒すというさいに、担い手は変えたが中身は変わらなかったということではだめだということだ。

 この点では、「非自民」といいながら、「自民党政治の継承」が実態だった細川内閣の失敗という国民的体験が非常に大事だと思う。細川内閣は発足当時には国民の期待を集めたが、やったことは消費税を七%にひきあげる案を突然もちだして増税の道筋をつけたり、小選挙区制や政党助成法など政治改悪を強行したり、あげくは佐川急便事件という金権腐敗問題で政権を放り投げるということだった。国民に深刻な失望をあたえ、政治をより悪くする結果に終わった。この二の舞いになってはならない。

 自民党政治を倒すというのだったら、「自民党政治をこう変える」という政治の中身こそが問題であることを強調しておきたい

政治の中身の合意ぬきに
政権合意をむすぶのは責任ある態度ではない

 一、それでは現状はどうか。現状では、野党間に「自民党政治をこう変える」という政治の中身での合意があるわけではない。たとえば、当面すぐに迫られる経済危機打開の緊急の対応についても、野党間で、わが党と、他の野党には大きな立場の違いがあることは、事実だ。

 先日の野党党首会談で、野党の暫定政権構想が提案された時に、私が「条件がない」といったのは、政治の中身での合意ぬきに政権合意を形だけ結ぶのは、国民にたいして責任ある政党のとるべき態度ではないし、相手側に攻撃の材料をあたえるだけだからだ。

 一九七〇年代には、安保条約廃棄をふくむ革新三目標で、日本共産党と社会党の政策的一致があった。公明党まで一時はこの目標に近い立場をとったこともある。しかし、いまは残念ながら、野党間にそういう状況が存在しているわけではない。他方で、自民党政治の危機ははるかに深刻になり、早くこの政治に終止符をうってほしいという国民の願いは、たいへん切実なものとなっている。

野党のそれぞれが「こう変える」という中身を示し、
自公保に審判をくだすことが大切

 一、いま大切なことは、各野党が、「自民党政治をこう変える」というそれぞれの政策の中身をしめすこと、それぞれなりに自民党政治を追いつめ、参議院選挙できびしい審判をくだすことだ。

 野党のそれぞれが、「こう変える」という政治の中身をしめせば、それを土台にどこが一致するかの具体的な議論をすることができるはずだ。そういうなかでこそ、しっかりした根をもった野党協力ができる。これが私たちの考えだ。

 わが党は、あらゆる分野で、「自民党政治をこう変える」という展望を、さししめしている。それを堂々と訴えて、参院選での躍進をめざしたい。




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