志位和夫 日本共産党

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インタビュー・対談

2023年5月13日(土)

日中関係の前向きの打開を
――日本共産党の「提言」について

志位委員長に聞く


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(写真)インタビューに答える志位和夫委員長

 日本共産党の志位和夫委員長は、3月30日に「日中両国関係の前向きの打開のために」と題する「提言」を発表し、同日、岸田文雄首相と会談し、「提言」の内容を申し入れました。さらに、5月4日、中国の呉江浩大使と会談し、「提言」の内容を申し入れました。「提言」の意義、特徴、今後の課題などについて、志位委員長に聞きました。(赤旗編集局)

今回こういう行動をとった理由は

 ――今回、こうした行動をとった理由からお話しください。

 志位 日中両国関係は、政治、経済、文化、歴史など、どの分野をとっても深い結びつきがあり、双方にとって最も重要な2国間関係の一つであることは、論をまちません。ところが現在、両国間には、さまざまな紛争・緊張・対立があります。多くの国民のみなさんも、両国関係の悪化に対して、懸念や心配をお持ちだと思います。

 この事態を何としても打開したい。とりわけ緊張と対立をエスカレートさせ、万が一にも戦争になるようなことは絶対に避けなければならない。「脅威」を過剰にあおりたてて軍事力強化で対応するということになれば、「軍事対軍事」の悪循環に陥り、一番危険なことになります。この現状を打開する道は道理に立った外交しかない。そういう思いで「日中両国政府に呼びかける」という形で「提言」をまとめました。

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(写真)岸田文雄首相(右)に申し入れる志位和夫委員長=3月30日、国会内

三つの「共通の土台」に着目し、生かそうという提起をした意味は

 ――「提言」では、日中両国政府の間に、三つの点で「平和と友好に向けた共通の土台」が存在することに着目し、それを生かして事態を打開することを訴えています。こういう提起をした意味をお話しください。

 志位 政党として両国政府に提案するといった場合に、私たちが頭の中で考えたあれこれの主張を行っても力を持ちません。日中両国政府が、1972年の国交正常化以来の50年余に交わしてきたさまざまな合意、両国政府の外交政策の接点のなかから、事態を打開するうえで力になりうるものは何か。それらを明確にし、着目し、「共通の土台」に位置づけて、事態打開のための外交努力を求める。こういう提起の仕方をして初めて、意味のある訴えになってくると考えました。

 そういう目で見てみますと、三つの点で「共通の土台」が存在しているということが見えてきます。

 第一は、2008年の日中首脳会談で交わされた「日中共同声明」で、「双方は、互いに協力のパートナーであり、互いに脅威とならない」と合意していることです。「中国脅威論」が当たり前のように流布されていますが、「互いに脅威とならない」が両国政府の合意なのです。

 第二は、尖閣諸島の問題について、2014年の日中合意で、「尖閣諸島等東シナ海の海域において近年緊張状態が生じていること」について、日中が「異なる見解を有している」と認識し、「対話と協議」を通じて問題を解決していくと確認していることです。

 第三は、日中双方が参加するこの地域の多国間の平和の枠組みについて、東南アジア諸国連合(ASEAN)が提唱している「ASEANインド太平洋構想」(AOIP)――「東アジアサミット」(EAS)を平和の枠組みとして発展させ、ゆくゆくは東アジア規模の友好協力条約を展望するという構想に対して、日中両国政府がどちらも賛意を表明していることです。

 こういう三つの点で「共通の土台」が現にあるのだから、そこに光をあて、それを生かして、日中両国関係の前向きの打開のための外交努力をはかろう。これが「提言」の呼びかけです。

日本政府、中国政府の受け止めはどうだったか

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(写真)呉江浩中国大使(右)と会談する志位和夫委員長=4日、都内

 ――日本政府、中国政府の受け止めはどうでしたか。

 志位 双方から「提言」に対する肯定的な受け止めが表明されました。

 岸田首相は、党首会談の席で、「『互いに脅威とならない』との合意は大事な原則であり、日本政府としても維持しています」と明言しました。「AOIPは日本政府としても支持しています。大事な考え方です」とものべました。「(提言は)日本にとって責任ある課題であり、ご指摘ありがとうございます。よく読ませていただいて、建設的で安定的な日中関係をつくるための外交に取り組んでいきたい」と表明しました。

 中国の呉大使は、「提言」について、日本共産党が、日中関係を重視し、日中関係の厳しさを憂慮している姿勢の表れとして高く評価するとのべ、「提言」の内容は全体として中国政府の立場と共通する方向性が多いとのべました。2008年の合意を含め日中政府間の文書を双方が順守することに強い賛意を表明しました。尖閣諸島問題については、中国政府の立場をのべたうえで、2014年の日中合意を双方が順守し、賢明に事態を管理していくことが必要との基本精神に賛同するとのべました。地域協力については、中国政府としてはASEANと日中韓3カ国の枠組みを重視しているが、同時にAOIPの基本原則や前向きの内容を踏まえ、協力をすすめる用意があるとのべました。そして「提言」を今後の対日関係の参考にしていくと表明しました。

 ――日中両国政府の双方から、「提言」に対する肯定的な受け止めが表明されたことは重要ですね。

 志位 そう思います。とくに、「互いに協力のパートナーであり、互いに脅威とならない」との合意について、日中双方から順守していくとの明確な表明がされたことはたいへんに重要です。それならば、日中双方がこの合意に反する行動をとらない――日本側も「脅威」となる行動をとるべきではないし、中国側も「脅威」となる行動をとるべきではありません。合意を誠実に履行・具体化する外交努力を行うことは、双方の責任になります。

中国に対する批判と、「提言」の関係をどうとらえたらいいのか

 ――日本共産党は、これまで中国の覇権主義や人権侵害について強く批判してきましたが、そのことと、今回の「提言」の関係をどうとらえたらいいのでしょうか。

 志位 中国の問題点に対するわが党の批判的立場は、いささかも変わりはありません。ただ、今回の「提言」をまとめるにあたって心がけたことは、「両国政府に受け入れ可能で、かつ現状を前向きに打開するうえで実効性のある内容にする」ということでした。そういう立場に立って、不一致点、批判点を、あれもこれも「提言」に盛り込むということをしなかったのです。

 岸田政権との関係でも、「安全保障3文書」――敵基地攻撃能力保有と大軍拡に対するわが党の厳しい批判的立場は明確ですが、それを「提言」のなかではあえて書いていません。

 中国に対しても、呉大使との会談で私は次のように表明しました。

 「日本共産党と中国の政府・党との間にはさまざまな見解の違いがあり、そのことはこれまでも明確に表明しており、わが党の立場に変わりはないが、提言のなかにはすべて入れることはしていない」

 日中両国関係の現状は、深く憂慮すべき事態にあります。緊張と対立のエスカレートは何としても回避しなければならない。そういう立場から、「提言」では、日本共産党の独自の主張や立場を横においてでも、事態を前に動かすことに貢献しうるものにする。「両国政府に受け入れ可能で、かつ実効性のある内容にする」。前向きにことが進むように論点をしぼるということを心がけました。

 「提言」をこういう立場でまとめて良かったと実感しています。もしも、不一致点、批判点を、あれもこれも「提言」に盛り込むという態度をとったら、はなからこうした対話は成立しなかったでしょう。

日中関係がこの間、悪化した原因をどう考えているか

 ――日中両国政府間に、「提言」が指摘しているような合意、一致点があるにもかかわらず、日中関係がこの間、悪化した原因はどこにあると考えていますか。

 志位 私たちは、二つの点を指摘しなければならないと考えています。

 まず、米国のバイデン政権が中国を軍事力で封じ込める政策をとるもとで、岸田政権が米国の対中戦略に追従し、拘束されているということです。米国に言われるままに、敵基地攻撃能力保有と大軍拡を進め、米国が主導する「統合防空ミサイル防衛」(IAMD)――「先制攻撃」を基本原則にすえたシステムに参加しようという動きが、日中関係の悪化の原因の一つとなっていることは明らかです。中国の目と鼻の先の沖縄県に、中国の主要都市をすっぽり射程圏内におく長射程ミサイルを大量に配備することが、両国関係に何をもたらすかはあまりにも明瞭です。

 同時に、中国の東シナ海や南シナ海でのふるまい――力を背景にした現状変更の動きが、両国の関係悪化のもう一つの原因であることも指摘しなければなりません。「提言」でものべているように、日本共産党は日本の尖閣諸島の領有の正当性は歴史的にも国際法上も明らかだとする詳細な見解を発表しています。そのうえで、この問題の解決方法としては、尖閣諸島について領土に関する紛争問題が存在することを正面から認めて、冷静な外交交渉によって解決することを主張しています。力を背景にした現状変更の動きに対しては、国際法に照らして強く反対しています。

 中国側にどんな言い分があったとしても、日本が実効支配している尖閣諸島に対して、力によって現状変更を迫ることは、国連憲章および友好関係原則宣言などが定めた紛争の平和的解決の諸原則に反する行為になります。2014年の日中合意にあるように、「対話と協議」によって解決されるべきなのです。

 「互いに脅威とならない」というなら、日中双方が、少なくともこうした行動をあらためることが必要です。

「ASEANインド太平洋構想」(AOIP)を押し出している意味は

 ――「提言」では、日本と中国が参加する東アジアの平和の枠組みとして、「ASEANインド太平洋構想」(AOIP)を押し出していますが、その意味をお話しください。

 志位 一言で言って、国連憲章にもとづいて紛争の平和的解決をめざすとともに、この地域にかかわるどの国も排除せず、すべての国を包摂する平和の枠組みとして、最も合理的で発展性があると考えるからです。

 この地域の安全保障の枠組みとして、米国や日本などは、「自由で開かれたインド太平洋構想」(FOIP)、「日米豪印戦略対話」(QUAD)など、中国を排除し、包囲していくというブロック的な対応を強めています。こういう対応には、私たちは反対です。この地域に分断をもたらし、「軍事対軍事」の悪循環をもたらす危険があるからです。

 同時に、この地域の安全保障の枠組みから、米国を排除することも、私たちは適切ではないと考えています。わが党は日米安保条約廃棄を綱領で掲げている党ですが、太平洋をはさんだ隣国である米国を排除した枠組みでは、さまざまな課題を解決するうえで実効あるものとはなりません。実際に、北朝鮮問題の解決をめざす「6カ国協議」も、米国を含む枠組みでした。だからこそ一定の前向きの到達を築くこともできたのです。残念ながら今は機能していませんが。

 中国も排除せず、米国も排除せず、この地域のすべての国を包摂する平和の枠組みをつくり、発展させることが大切です。その点では、日本共産党が、かねてから「外交ビジョン」として訴えてきたように、ASEAN+8カ国で構成する「東アジアサミット」(EAS)を発展させ、戦争の心配のない東アジアをめざす、「ASEANインド太平洋構想」(AOIP)を成功させることが、最も合理的で発展性があると考えるものです。

台湾問題をどのように解決すべきか

 ――台湾問題について、日本共産党はどのように解決すべきと考えているのでしょうか。

 志位 台湾問題は、世界と地域の平和と安定に関わる問題であり、日本共産党は、あくまでも平和的解決をはかることを強く求めます。

 すなわち、中国による武力行使に反対します。米国や日本が軍事的に関与・介入することにも反対します。

日本共産党は、中国共産党との関係をどう考えているか

 ――日本共産党は、今後の中国共産党との関係を、どう考えているのでしょうか。

 志位 2020年の第28回党大会の綱領一部改定案についての中央委員会報告では、中国の覇権主義に対する厳しい批判を行いましたが、そのさい、「中国とどう向き合うか」について三つの点を強調しました。

 第一は、「中国の『脅威』を利用して、軍事力増強をはかる動きには断固として反対する」ことです。

 第二に、「日本共産党は、中国指導部の誤った行動を批判しますが、『反中国』の排外主義をあおりたてること、過去の侵略戦争を美化する歴史修正主義には厳しく反対をつらぬく」ことです。

 第三に、「中国はわが国にとって最も重要な隣国の一つであり、わが党の批判は、日中両国、両国民の本当の友好を願ってのもの」であるということです。中央委員会報告では、「節度をもって言うべきことを言ってこそ、両国、両国民の真の友好関係を築くことができる。これが私たちの確信であります」と表明しました。

 中国の問題点に対して、道理に立って厳しい批判を貫いてきた党だからこそ、日中両国、両国民の本当の友好を求める今回の「提言」をまとめることができたということを、私は、強く実感しています。

 今後の日本共産党と中国共産党との関係については、綱領一部改定案についての中央委員会報告では、次のように表明しています。

 「党間の関係というのは、双方の意思で決まるものですが、わが党としては、日本の政党と中国の政権党との関係として、今後も関係を維持するという立場をとります。第26回党大会で提唱した『北東アジア平和協力構想』など、この地域の平和と安定のための緊急の課題での協力のための努力は続けていきます」

 今回の「提言」は、これらの大会決定を踏まえたものです。中国の政権党との関係は、両党関係が正常化された1998年に確認した党間関係の3原則(日本側)、4原則(中国側)を順守し、節度をもって言うべきことは言う――問題点については公然と批判するという態度を貫きつつ、「この地域の平和と安定のための緊急の課題での協力」などの努力をはかっていきたいと考えています。

「提言」を実らせるためには何が大切か

 ――「提言」の方向を実らせるためには何が大切でしょうか。

 志位 日本側の努力としては、「提言」の方向で、国内の世論を高めていくことが大切だと思います。

 私たちは、「提言」の内容は、決して一党一派のものではなく、日本において超党派の合意になりうる内容だと考えます。日本共産党議員団は、日中友好議員連盟に参加しており、私は役員の一人として、この間、役員による昼食会、日中議連の総会の場でも、わが党の「提言」の立場をお話ししてきました。党派を超えて賛同の声が寄せられています。この流れを強めていきたいと考えています。

 この間、元外交官、研究者、ジャーナリストなど、各界の識者の方々から、立場の違いを超えて、「提言」への評価の声が寄せられていることも、心強いことです。

 さらに、私たちが、重要だと感じているのは、沖縄県の動きです。3月30日、沖縄県議会は、「沖縄を再び戦場にしないよう日本政府に対し対話と外交による平和構築の積極的な取組を求める意見書」を採択しています。意見書では、次の2項目を国会と政府に要請しています。

 「1 アジア太平洋地域の緊張を強め、沖縄が再び戦場になることにつながる南西地域へのミサイル配備など軍事力による抑止ではなく、外交と対話による平和の構築に積極的な役割を果たすこと。

 2 日中両国において確認された諸原則を遵守し、両国間の友好関係を発展させ、平和的に問題を解決すること」

 日本共産党が「提言」を発表した同じ日に、沖縄県議会でこうした「意見書」が採択されたことは、偶然の一致ですが、私たちの「提言」と沖縄県の「意見書」が、同じ方向をめざしていることは、本当に心強いことです。

 戦争の準備でなく、平和の準備を――この立場で、「提言」の方向が国民多数の声となるように、力をつくしたいと決意しています。

 同時に、中国との対話も続け、「提言」の方向が実るよう、可能な外交的努力も続けていきたいと考えています。