2012年3月8日(木)

「綱領教室」志位委員長の第12回講義

第5章 社会主義・共産主義の社会をめざして

豊かで壮大な未来社会論


写真

(写真)「綱領教室」最終回の講義をする志位委員長=6日、党本部

 志位和夫委員長は6日、「綱領教室」最終回(第12回)で、綱領第5章「社会主義・共産主義の社会をめざして」の講義を行いました。

 最初に志位さんは、「新しい綱領の未来社会論の意義と構成について話したい」とのべ、綱領を改定した第23回党大会(2004年)で第5章は「一番大きな書き換えをし、国際的な“定説”を大胆に見直して、つくりあげました」と切り出しました。

 改定前の61年綱領は、未来社会を生産物の分配という角度から、「第1段階」を社会主義、「高い段階」を共産主義社会と、2段階に区分する“定説”に立っていました。

 志位さんは、「率直にいって学生時代から、どうにも分からないところでした」とのべ、書記局長時代の人民大学の講義でも「解説ができなかった」ことを明かしました。

人間の自由、全面的な発達を保障

 “定説”を根本的に検討、清算した第23回党大会の報告では、探究の中で明らかになったことを4点にまとめています。

 (1)未来社会を2段階に区別するのは、レーニンの解釈で、マルクスのものではなかったこと(2)マルクス、エンゲルスは未来社会を展望するさい、青写真的なやり方はいましめ、分配方式の問題も例外でなかったこと(3)マルクスが綱領に書きこむべき社会主義的変革の中心問題として求めたのは、「生産手段の社会化」であったこと(4)マルクスらは未来社会を人類の「本史」にあたる壮大な発展の時代ととらえ、主要な内容としたのは、人間の自由な生活と人間的な能力の全面発展への努力などにあったこと―です。

 「これらは理論的探究の結論的命題を凝縮したものです」と志位さん。深く理解するために、『マルクス未来社会論』(不破哲三著)の学習を勧め、「これは国際的にも重要な意義をもつ成果だと思います。未来社会が豊かで壮大な内容をもって現代によみがえりました」とのべました。

 次に第5章の構成を説明した後、「広い国民に未来社会をどう語るか、研究と工夫が必要です」とのべ、「それをいくつかの角度から考えてみたい」と語りました。

 「社会主義は時代遅れでは」という疑問にどう答えるか。「崩壊したソ連が社会主義とは無縁であり、日本共産党はその誤りと自主独立の立場でたたかい抜いたことを語ることが重要です」。同時に、「『資本主義が人類の到達した最後の社会、理想の社会と思いますか?』と反問してみてはどうでしょう。そうすれば『うーん』と、対話が始まるかもしれません」と語りました。

 そして、「人類が社会主義・共産主義に前進する必然性は資本主義の矛盾のなかにこそあります」とのべ、四つの角度から「世界の資本主義の矛盾とその根源」について解き明かしました。

 第1は、格差と貧困の拡大です。OECD(経済協力開発機構)の調査では、この20年余で、27カ国中19カ国で格差が拡大し、OECDの一連の報告書を読むと、「資本主義体制のかかえる最も致命的な問題の一つととらえていることが、ひしひしと伝わってきます」。

 第2は、繰り返される恐慌です。「社会に生産する物が余っているのに、人々には物が不足し貧困に陥るのは、資本主義だけに固有の現象です」

 こう話した志位さんは、1825年にイギリスで始まった恐慌が、しだいに世界恐慌として繰り返され、200年弱の間に19回を数えていることを示し、「資本主義は不治の病を克服するすべをもちあわせていません」。

 第3は、金融経済の異常な肥大化です。投機マネーの暴走が世界の大問題になっています。「世界の金融経済」と「世界の名目GDP」(実物経済)の推移を調べたデータによると―。

 増大する「世界の金融経済」は、2008年の世界経済危機では一時的に減ったものの、2010年には212兆ドル、史上空前の規模に達し、実物経済の3・3倍に。膨れ上がった過剰なマネーが、さらに増殖しようと暴れまわり、実体経済を支配し、諸国民の生活に深刻な打撃を与えていることを実例をあげて告発しました。

 外国為替市場の投機的取引で通貨を暴落・高騰させていること、証券市場を投機市場に変え、企業にリストラ競争を強制し、国民生活破壊の元凶の一つになっていることなどです。

 第4は、環境条件の地球的規模の破壊です。地球温暖化は、「気候変動に関する政府間パネル」の報告書や英国のスターン報告書で「資本主義の経済的活動によってもたらされた」と断罪されています。

 志位さんは、エンゲルスの『自然の弁証法』で「自然の復讐(ふくしゅう)」を防止するには、「これまでの生産のしかたと…社会体制全体を完全に変革することが必要である」とのべていることを紹介しました。

 四つの問題をあげた志位さんは、これらは民主主義的革命を達成しても解決されない矛盾であり、それを根本から解決しようとすれば、社会主義的変革が不可避で、「資本主義社会の矛盾そのもののうちに、未来社会に進む必然性と根拠がある」とのべました。

●●●

 続いて、志位さんは、「この矛盾は解決できるのか」と問いかけ、「社会主義的変革の中心は何か」に話をすすめました。

 資本主義社会のさまざまな社会悪の根源には、「生産手段」が個々の資本家や私企業ににぎられていることがあります。

 この「生産手段」を社会の手に移すことで、生産の目的・動機が「資本の利潤を最大にすること」から「社会と人間の利益」に大きく変化することを解き明かしました。

 ここで志位さんは、マルクスが書いた「フランス労働党の綱領前文」(1880年)を紹介しました。同綱領前文は、「生産者は生産手段を所有する場合にはじめて自由でありうる」という命題から出発して、「すべての生産手段の集団への返還」という目標を、きわめて簡潔かつ論理的に明らかにしています。マルクスが「生産手段の社会化」について綱領的な文書として書いた唯一の文献であり、「国民に訴えるうえでも論理をよくのみこんで活用してみてください」とよびかけました。

 また、「生活手段」については「私的所有を保障」することについて、マルクスの『資本論』で、「生産手段の共有を基礎に、生活手段の個人的所有が再建・確立し、豊かになることを明りょうにしたことは、きわめて重要な意義をもちます」。

 共産主義が、私有財産一般を否定するという誤解が広くあるだけに、このことは大事だと強調しました。

 さらに、綱領で「生産手段の社会化」が社会と人間にどんな変化をつくるかについて、(1)人間の生活がどう変わるか、(2)経済のあり方がどう変わるか、(3)物質的生産力の発展の条件はどうなるか――という三つの角度から明らかにしていることを説明しました。

 そのうえで、志位さんは、綱領の未来社会論の豊かで壮大な内容へと、さらに話をすすめ、まず、綱領が未来社会のきわだった特徴として「社会のすべての構成員の人間的発達」を押し出していることは、たいへん重要な意味を持つと指摘。

 国民との対話での「社会主義・共産主義社会というのは、一口でいうとどういう社会か」という質問に答える形で、二つの文献を紹介しながら、未来社会論の豊かで壮大な内容を踏み込んで明らかにしました。

 一つは、第23回党大会での綱領改定についての討論の結語です。人間社会の未来像の特質について「一口に言えば、人間の自由、人間の解放であります」とのべ、搾取も抑圧も差別もなく、人間が互いに協力しあい、「人類の限りなき前進という未来が開けてゆく社会」だという解明です。志位さんは、「全党討論を踏まえて最後にのべられたこの言葉は、たいへんに印象深いものでした」とふり返りました。

 もう一つは、晩年のエンゲルスの言葉です。イタリアの社会主義者が、未来社会の基本理念を簡潔に表現する標語を示してほしいと依頼したのを受けて、エンゲルスが『共産党宣言』の「各人の自由な発展が万人の自由な発展の条件であるような一つの結合社会」と答えた手紙です。

 志位さんは「どちらもキーワードは『自由』です。そこには深い意味がこめられていると思います」と語りかけました。

 人間解放の中心的な内容である人間の自由な全面的発展の保障を、どこに見いだすか。マルクスは、共産主義社会が、「労働時間の抜本的な短縮」を可能にするところに、最大の保障を求めます。それを、まとまった形で展開したのが、『資本論』第3部・第7篇冒頭にある書き込みです。

 そこでは、未来社会における人間の活動を、二つの領域(「真の自由の国」と「必然性の国」)に区分しています。物質的生産の労働にあてる時間が「必然性の国」で、それ以外の時間、人間が自由に利用できる時間が「真の自由の国」です。

 志位さんは、不破さんの研究にも触れながら、マルクスの書き込みを四つの段落に分けて、一段落ずつ解説。未来社会では、「労働日の短縮が根本条件」となって、一人ひとりの人間が潜在的に持つあらゆる能力を伸ばし、発達させること自体が目的とされる「真の自由の国」が大きく拡大すること、マルクスはそこに、人間と人類社会の飛躍的発展の展望を見いだしたと語りました。

 「マルクスは『自由』という問題を、ここまで深く掘り下げて考えていたのです。人間の自由、自由な発達にこそ、未来社会の最大の特徴、最大の目的があり、それを達成するための社会主義的変革の中心が『生産手段の社会化』という関係だと思います」とのべました。それとの対比で考えると、人間の自由の剥奪、苛酷な抑圧のうえになりたっていた旧ソ連社会がいかに社会主義・共産主義とは無縁のものだったかが、いよいよはっきりと浮かび上がると語りました。

歴史の開拓者として巨大な可能性に挑戦を

 未来社会のもう一つの特質は、「民主主義と自由の成果をはじめ、資本主義時代の価値ある成果のすべてが、受けつがれ、いっそう発展させられる」ことです。

 1976年の第13回臨時党大会で採択した『自由と民主主義の宣言』で、科学的社会主義の学説と運動が、近代民主主義のもっとも発展的な継承者であること、人類が達成した自由と民主主義のあらゆる成果を継承、発展させ、どんな形であれ、後退や逆流は許さない立場を宣言しており、その基本的立場は綱領にもおりこまれていると強調しました。

 また、「ルールある経済社会」について、「なぜ『ルールある資本主義』とよばないのか」という疑問に対して、これは資本主義の枠内で実現すべき目標だが、その改革によって実現された成果の多くが、未来社会にも引き継がれていくという展望を持っているからだと説明しました。

 さらに志位さんは、資本主義から未来社会へと引き継がれ、発展させられる歴史的成果として、「人間の個性」の問題についてのべました。

 マルクスは、『資本論』の草稿で、人類の歴史を、「個性の発展」という角度から、三つの発展段階に分けています。志位さんは、奴隷制、封建時代までの「人格的依存関係」が、資本主義社会では物象的依存性のうえに築かれた「人格的独立性」に発展し、「この社会ではじめて人間の人格的な独立、人権という問題が社会的規模で現実の問題になります」とのべるとともに、さらに、未来社会では、生産手段の共同所有のうえに「自由な個体性」が築かれることを説明しました。

 「なぜスターリンの無法な人間抑圧が、長期にわたって支配しつづけたか。中国の『文化大革命』であのような暴虐が横行したか。遅れた国で始まったという条件、なかでも人間の個性、人権、主権者としての意識が未成熟だったという条件と深く結びついています」

 綱領は、社会主義・共産主義の社会がさらに高度な発展を遂げた「人類史の新しい発展段階」を展望しています。

 「古典教室」で学んだ『経済学批判・序言』を改めて紹介し、社会主義・共産主義の社会とともに人類の「本史」が始まるとのべました。

 志位さんは未来社会への道すじ(過渡期)の問題に話をすすめました。

 「国民合意のもと一歩一歩段階的に、統一戦線を堅持してすすむ『長期の過程である』ことに注意してほしい」と促し、「青写真を描かない」のが鉄則だが、いま約束できる二つのことがあるとして、綱領の記述に沿って、「生産手段の社会化にあたっては、『生産者が主役』という原則を踏みはずしてはならない」、「市場経済をつうじて社会主義にすすむ」ということをあげました。

 志位さんは、日本は、資本主義的市場経済がこれだけ発達した社会だから、市場経済のなかで社会主義の部門がいろいろな形態で生まれ、資本主義の部門との競争で優位を占めながら、その道すじ全体が社会主義に向かうという特徴をもつことになるとの展望を語りました。

 綱領は最後の第17節で、「社会主義・共産主義への前進の方向を探求することは、日本だけの問題ではない」とのべ、体制変革の世界的な条件に触れています。ここで志位さんは、一例としてラテンアメリカで起こっている変化を紹介しました。

 2007年に行われたブラジルの政権党・労働党(PT)大会の第一議題は「社会主義」でした。この大会で採択された決議を紹介し、「ソ連を『社会主義』の先例とせず、また議会をつうじての多数者革命という立場を堅持しながら、『新しい社会主義』への探求が行われていることは注目すべきです」とのべました。

 志位さんは、綱領の一節「これまでの世界では、資本主義時代の高度な経済的・社会的な達成を踏まえて、社会主義的変革に本格的に取り組んだ経験はなかった。発達した資本主義の国での社会主義・共産主義への前進をめざす取り組みは、二一世紀の新しい世界史的な課題である」を読み上げました。

 「これは誰も取り組んだことのない事業です。そこには、新しい複雑さと困難もありますが、巨大な可能性もあります。歴史の開拓者として、挑戦と開拓の道をみんなで進みましょう」と力を込めました。

 志位さんが最後に「綱領は学ぶとともに実践してこそ本当に生かしたといえます。当面する総選挙で力を合わせて勝ち抜きましょう」とよびかけると、受講生たちは大きな拍手で応えました。