2009年2月12日(木)「しんぶん赤旗」

現行法のもとでも「派遣切り」を撤回させる道はある

全労連との懇談 志位委員長の発言


 日本共産党の志位和夫委員長は、十日、全労連、首都圏青年ユニオンを訪問し、この間とりくんだ国会論戦の到達点について報告するとともに、「派遣切り」をやめさせるたたかいをどうすすめるかについて、意見交換をおこないました。志位委員長が全労連で冒頭に行った発言の要旨を紹介します。


雇用破壊をいかにして食い止めるか――現行法のもとでも条件はある

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(写真)国会質問の成果を語る志位和夫委員長=10日、東京都文京区

 みなさんの日ごろの大奮闘に心からの敬意を申し上げます。この間、みなさんと協力して雇用問題に取り組んできたわけですが、わが党として、国会論戦でこの問題に取り組むなかで、どうやって雇用破壊を食い止めるのかについて、いくつかの重要な手がかりも得ることができたと考えています。その内容を、私から報告させていただき、どうたたかいをすすめていくかについて、意見交換をさせていただけたらと思います。

 私たちは、いま大企業が競い合ってすすめている「派遣切り」「期間工切り」、さらには正社員まで広がろうとしている雇用破壊に対して、「三つの仕事に同時並行で取り組め」ということを、政府に求めてきました。

 一つは、職を失った人々の住居と生活と再就職を支援することです。

 二つは、これ以上の雇用破壊を許さないために、最大限の力をつくすことです。

 三つは、二度とこうした事態を繰り返させないための労働者派遣法の抜本改正です。

 いま全国各地で、労働組合や市民団体のみなさんと私たちが共同してとりくんでいる失業者の救援のための活動は、文字どおり労働者の命をぎりぎりのところで守る活動として、きわめて重要であり、ひきつづきさまざまな形で、力をあわせてとりくんでいきたいと思います。

 同時に、この三つの仕事のなかでも、いま特別に重視する必要があるのは、これ以上の雇用破壊を許さないとりくみです。このとりくみがいま、重大な踏ん張りどころだという感を強く持っております。四日の衆院予算委員会の私の質問では、そこに焦点をあてて政府の姿勢をただしました。

 厚生労働省の発表でも、三月末までに約十二万五千人、業界団体の試算では製造業だけでも約四十万人が職を失うという数字も出されています。今後、さらに被害が甚大なものになることが強く危惧(きぐ)されるところです。また、昨年、十二月に職を失った方も、雇用保険の九十日間の給付期間が終わり、三月末で収入が途絶えるという事態も重なってきます。こうして年度末にむけて、さらに深刻な事態が広がることが強く危惧される状況のもとで、どうたたかったらいいかと、いろいろと検討をしました。

 こうした「政治災害」というべき雇用破壊を二度と引き起こさないためには、もちろん抜本的な法改正が必要です。わが党としては、労働者派遣法を一九九九年の大改悪前に戻す抜本改正を提起しておりますが、そのさい、現に派遣として働いている労働者が職を失うことがないよう、正社員へと移行できるような経過措置もあわせて提起することを考えています。

 ただ、そうした抜本的法改正を最大限に急いでとりくむにしても、いまの国会の現状では、すぐにそれが実現する条件がないことも明らかです。一方、「派遣切り」を止めるためのたたかいは、一刻を争う待ったなしの課題です。きょう、あすにも、寒風に放りだされる労働者がつぎつぎに生まれているのです。

 そういう現実も考えて、先日の予算委員会の質問では、現行法のもとでも、たたかい方によっては、「派遣切り」を止めさせる条件はあること、そのたたかいの方途を明らかにすることに最大の力をそそいでとりくみました。

 大企業による「非正規切り」は、何よりも寒空に労働者を放りだすという非人道性という点でも、また巨額の内部留保をため込みながらのものであるという点でも、さらに株主配当を維持・増加させながらのものである点でも、雇用への社会的責任を投げ捨てた企業行動として、強く批判されるべきことは当然です。社会的にその横暴を包囲していくたたかいは、ひきつづき大切です。

 そのうえで、私たちが雇用破壊を実際に食い止めるうえでの重要なカギは、いまおこなわれている「派遣切り」は、現行の労働者派遣法に照らしても、その大部分が違法であるということを押さえてたたかうことにあると考えます。

 それは「派遣切り」のかなりの部分が、労働契約法で「やむを得ない事由」がある場合以外は許されないとされている有期労働契約の中途解除という違法行為であるだけではありません。たとえ契約満了の「雇い止め」であっても、その多くが派遣労働者を違法状態のもとで働かせたあげくの解雇となっているということです。この点を押さえたたたかいをおこなえば、現行法のもとでも「派遣切り」を食い止める条件があることに着目して、政治の責任を果たさせ、大企業の横暴を抑えるために、全力をあげることが大切だと考えます。

「偽装請負」も、違法な「クーリング」も、派遣期間制限に通算される

 それでは、現行派遣法のもとで、どうやって「派遣切り」を食い止めるか。いうまでもなく労働者派遣法という法律は、労働者の権利を侵害する悪質きわまる法律です。それは企業の責任、とくに派遣先企業の責任をできるだけ問わない仕組みになっています。一方、労働者保護の規定はまったく不十分となっています。よくもこんな悪らつな法律をつくったものだと、いまさらながら痛感します。

 しかし、それでも労働法制の根本にある労働基準法、職業安定法では、人貸し業が厳しく禁止されています。そのもとで無理やりつくった法律ですから、政府も、派遣労働を導入するときに、「これはあくまで例外だ」と、「臨時的、一時的な場合に限る」「常用雇用の代替――正社員を派遣に置き換えることはしてはならない」ということを大原則にせざるをえませんでした。さらにこの大原則を担保するものとして、派遣期間は原則一年、最大三年までという期間制限を設け、それを超えて「同一業務」で派遣労働をさせることは違法になるとしてきました。派遣期間制限を超えて、働き続けさせようという場合には、派遣先に直接雇用の申し込み義務が生まれるというのが、この法律が定めているところです。

 この大原則を厳格に踏まえた対応をさせれば、いまおこなわれている「派遣切り」を食い止める方途も見えてくるのではないか。そういう立場で、予算委員会の質問にとりくみ、二つの重要な点を政府に確認させました。

 一つは「偽装請負」の位置づけです。「偽装請負」というのは、違法な形での派遣労働です。そうすると「偽装請負」で働かされていた期間は、当然、派遣期間に通算されることになるはずです。この問題をただしたところ、厚生労働大臣は、「実態として労働者派遣事業が行われている場合は、派遣期間として通算されるとなっていますので、偽装請負の期間も通算する」と答弁せざるをえませんでした。これは、おそらく国会の政府答弁としては初めてのことだと思います。「偽装請負」の期間が、派遣労働の期間に通算されることになると、通算された期間が派遣期間制限を超えれば違法となるわけです。このことを政府答弁として認めさせたことは、非常に重大な意味をもってきます。

 いま一つは、いわゆる「クーリング期間」の位置づけです。「クーリング期間」というのは、三カ月と一日以上派遣を受け入れない空白期間があれば継続した派遣とみなさないという厚生労働省の指針によるもので、こういう脱法的なやり方をもちこむこと自体が大問題なのですが、この厚生労働省の指針に照らしても違法な「クーリング」が、実は、製造業の大企業では横行しているのです。それは、私が質問でとりあげたマツダの例に典型的に示されているやり方ですが、派遣労働者を派遣先企業がいったん直接雇用にしても、「クーリング期間」の三カ月を経た後は、また派遣元の派遣労働者に戻すということが、派遣元と派遣先の間で予定されている場合です。この場合には、職業安定法に違反する、違法な「クーリング」ということになります。私は、質疑のなかで、こうした違法な「クーリング」があった場合には、「継続した派遣とみなさない」ということが成り立たなくなるわけですから、最初の派遣開始を起点に、最大で三年の派遣可能期間を超えた時点から派遣法違反になるはずだとただしました。これに対しても、厚生労働大臣の答弁は、「適正な『クーリング期間』が設けられたといえないために、最初の派遣開始時から最大三年の派遣可能期間が経過した時点以降は、派遣をおこなうことができない」と認めました。違法な「クーリング」は、それをいくら派遣労働の間に挟んだとしても、それによって派遣期間制限を逃れることはできないことを認めたのです。

製造業の大企業では、その大部分が期間制限を超えた違法派遣ではないか

 こうして「偽装請負」の期間も、違法な「クーリング期間」も、そのすべてが派遣期間制限に通算されることが、政府答弁で確認されました。こうなってくると状況はまったく違ってきます。

 製造業の大企業の多くは、二〇〇三年ぐらいから増産態勢に入っていって、この時期から請負労働者を大規模に導入していきました。ところが、その実態は、請負を偽装した派遣――「偽装請負」でした。それが社会的な大問題になったのが、二〇〇五年から〇六年です。このときには、日本の名だたる製造業の大企業の多くが、この違法行為に手を染めたことが報じられました。そうした事態を受けて、二〇〇六年には、「請負」から「派遣」への切り替えがいっせいに起こりました。それから三年後ということで、今年が「二〇〇九年問題」――派遣期間制限に抵触する年になるということがいわれてきました。

 しかし、「偽装請負」期間が、派遣期間に通算されるということになりますと、状況はまったく一変してきます。実は、派遣労働が始まった起点は二〇〇六年ではなく、それよりずっと以前だったということになるからです。「偽装請負」から通算することになると、派遣労働が始まった起点は二〇〇三年、〇四年ぐらいからということになり、そこから派遣期間が通算されて、すでに期間制限の三年はとっくに過ぎていたことになるのです。派遣先大企業には、とっくの昔に直接雇用義務が発生していたにもかかわらず、直接雇用の申し込みをしないまま、逆に「派遣切り」をやっているということになる。こういう重大な違法な構図が、浮き彫りになってきました。「二〇〇九年問題」というのは、実は虚構で、もっと以前に“期間切れ”になっていたのです。

 しかも労働者派遣法でいう派遣労働を三年以上受け入れてはならないといった場合の「同一業務」とは、同じ労働者の「同一業務」である必要はありません。私たちが国会で取り上げる場合は、明々白々で間違いのない事例として、「同一業務」を、同じ労働者が、四年、五年、六年と続けているケースを示してきたわけですが、法律では、同じ労働者である必要はありません。同じ労働者でなくても、「同一業務」で三年を超えて派遣を使い続ければ違法になるわけです。

 たとえばある自動車会社で、エンジンをつくるある工程を受け持つラインがあったとします。そうした「同一業務」をおこなっているラインで、派遣労働を使った場合には、派遣労働者が何人入れ替わろうと、三年を超えて派遣を使い続けたら違法になるのです。たとえある派遣労働者が、半年しかそのラインで働いていなくても、そのラインが三年を超えて派遣を使いつづけていたら違法になるのです。

 そう考えると、製造業の大企業の派遣は、そのほとんどが「偽装請負」の時期から通算すれば、すでに期間制限を超えた違法派遣だといって間違いないのではないか。いま「派遣切り」にあっている労働者の多くは、本来なら、派遣先企業から直接雇用、正社員の申し出を受けて当たり前なのに、それがされないまま、逆に「首切り」がされているという状況が、「派遣切り」の真相ではないか。そこが明らかになってくると、たたかいの展望が大きく開けてきます。

期間制限違反の状態になったら、派遣先企業は直接雇用義務を果たすのが当然

 それでは、期間制限の三年をすぎ、四年、五年、六年と、派遣労働がおこなわれている違法状態の場合に、現行法でどういう規制が可能でしょうか。

 三年を超えて派遣として働かせた場合に、派遣先企業にどういう責任を果たさせるかは、現行派遣法では明文的には規定していません。政府は、派遣先企業に直接雇用申し入れ義務が生じるのは、派遣元から派遣先に、期間制限に抵触するという「通知」がなされた場合だとして、「通知」がない場合には直接雇用義務が生じないかのような答弁もしましたが、ここでいう「通知」とは三年という期間制限を守らせるためのものであり、三年を超えて違法状態で派遣を続けていた場合のことを定めたものではありません。

 明文規定がない以上、ここから先はたたかいと論争の課題ですが、明文規定がないならば、「常用雇用の代替禁止」という労働者派遣法の大原則に戻るべきです。この大原則にたった対応を求めるべきです。そうした立場から、私は、質問で、つぎのように提起しました。

 「(派遣先大企業は)偽装請負や『クーリング』を悪用した違法行為で、期間制限をごまかし、直接雇用の責任を逃れてきたわけです。違法行為によって義務を逃れてきたことが明らかになったら、その逃れてきた義務を、きちんと果たさせるというのが、法治国家では当たり前ではないか」

 「現行法でも、厳正な対処は可能です。期間制限逃れの違法行為によって、期間制限の三年を超えて、四年、五年、六年と派遣のまま働かせ続けるという、常用雇用代替の状態がつくられてしまっているわけです。これは労働者派遣法の大原則を根本から崩す違法な状態なわけです。そしてこの違法状態をつくりだしたのは、派遣先大企業の違法行為ではありませんか。ならば、その派遣先大企業に直接雇用の義務を果たせと厳しく指導するのは、これは当然だと言わなければなりません」

 この提起は、政府側も否定できませんでした。現行派遣法のもとでも、すでに違法状態が生まれていることを明らかにし、その解決の道をいまのべた論理で迫っていけば、「派遣切り」を止める道が開かれてくることになる。派遣先企業に対して、また労働行政に対して、いまのべた太い論理で、直接雇用、正社員化を求めていくことが大切だと考えます。

「違法派遣ではないか、直接雇用の義務を果たさせよ」と労働局に申告しよう

 私が、質問でとりあげたパナソニック若狭の経験というのは、この論理で行政を動かし、巨大企業を動かし、「派遣切り」に待ったをかけた、おそらくは初めてのケースだと思います。

 三年十カ月にわたって派遣労働者として働かせされながら、「派遣切り」にあった河本猛さん(質問では「Mさん」として紹介しました)が、「三年を超えて働いているのに、いまだに直接雇用の申し出がないまま、逆に解雇されようとしている。違法ではないか」と労働局に訴えた。労働局は調査を約束しましたが、その結果は、「二〇〇六年十一月以前は請負契約になっているので、派遣法違反にならない」というものでした。しかし、河本さんは、「請負契約というが働かせ方は同じだった。偽装請負だったのではないか」として、自ら「偽装請負」の証拠になる資料を集め、地域労連の援助を受けて、労働局に提起するなかで、労働局も「偽装請負」の事実を認定し、パナソニックは労働局に「派遣切り」は撤回するということを回答した。ここで提示してきた「直接雇用」の条件なるものが、劣悪・不安定なアルバイトだったことが問題になっているのですが、しかしともかく「派遣切り」を、いわば「凍結」状態にさせているのです。

 このたたかいを一人で始めた河本さんは、実に賢明で勇気ある行動をしたと思いますが、同じやり方を労働組合に結集し、仲間とともに、全国でやろうではないか。「三年を超えて派遣で働いている。これは違法派遣ではないか。偽装請負がやられていたのではないか。調査せよ」といって、みんなで労働局に申告に行こうという運動を、全国でおこして、違法派遣を認めさせ、「派遣切り」を撤回させ、直接雇用・正社員への道を開いていくたたかいをやろうではないか。こう私はよびかけたい。

 私がとりあげた、いすゞ、マツダ、パナソニックなどの派遣労働者のケースは、「派遣切り」にあった方の多くが四年、五年、六年の長期にわたって働きつづけているというケースですが、さきほどのべたように、たとえ半年しか働いていない人でも、その「同一業務」で三年以上派遣を使っていたら違法になるわけですから、直接雇用を派遣先企業に請求できる労働者は非常に多いはずです。こうした違法摘発、直接雇用と正社員化を要求するたたかいを、全国的な大闘争として展開していけば、多くの労働者を救う道が開かれてくるのではないかと思います。そのために、ぜひ知恵と力をあわせていきましょう。