2008年7月25日(金)「しんぶん赤旗」

日本共産党創立86周年記念講演会

正義と道理に立つものは未来に生きる

志位和夫委員長の講演


 日本共産党の志位和夫委員長が二十二日の党創立記念講演会でおこなった講演は次の通りです。


はじめに――私たちの現在は、多くの先達の「苦闘と開拓」に支えられている

写真

(写真)記念講演する志位和夫委員長

 お集まりのみなさん、CS通信をご覧の全国のみなさん、こんばんは(「こんばんは」の声)。ご紹介いただきました日本共産党の志位和夫でございます。(拍手)

 きょうはたいへん暑いなか、会場いっぱいのこんなにたくさんのみなさんがお越しくださいまして、まことにありがとうございます。まず心からお礼を申し上げさせていただきます。(拍手)

 日本共産党は、七月十五日に党創立八十六周年を迎えました。記念講演会にあたって、八十六年の党史を振り返ってみますと、私たちの現在は、多くの先輩たちの「苦闘と開拓」に支えられていることを痛感いたします。

 いま小林多喜二の『蟹工船』――七十九年前の一九二九年に書かれた作品がブームとなっています。主要な新聞やテレビがそれに注目する特集をくみ、その注目は海外にまでおよんでいます。フランスの新聞の「ルモンド」が、「新たな貧困層がプロレタリア文学に熱中」と題する特集記事を掲載し、「『蟹工船』のおかげで、今日の不安定雇用の青年たちは、自分たちの境遇が歴史に刻まれていることを発見している」と結びました。

 多喜二が、この作品のなかで描いたのは、オホーツクの海で操業する「蟹工船」のなかで、すべての人間的権利を剥奪(はくだつ)され奴隷的な労働を強いられる労働者の苦難だけではありません。そうした苦難を生み出す社会的な仕組みがどこにあるかに目を向け、その打開に向けて連帯して立ち上がる人々の姿を描いています。そして労働者のなかでも、とりわけ底辺で苦しむ人々に温かいまなざしを向けています。それが今日、派遣労働に象徴される奴隷的な労働が新たな形で復活するもとで、今を生きる若者たちの心に染み込み、どんな理由があろうと非人間的な搾取は許されないと、困難を乗り越えて連帯し、立ち上がることを励ましている。私は、これは、多喜二を何よりも喜ばせることだと思います。(拍手)

 この時代に、日本共産党の先輩たちが、苛烈(かれつ)な迫害のなかで、命がけで掲げた旗印――専制政治と侵略戦争に反対し、「国民が主人公」の平和日本をつくろうという旗印は、戦後の日本国憲法のなかにしっかりと刻み込まれました。そして多喜二の文学が、七十九年の時を超えて、いま若者たちを温かく励ましてやまない生命力を発揮している。これらは、正義と道理に立つものは、必ず未来に光があてられ、未来に生きることを示しているのではないでしょうか。(大きな拍手)

 日本共産党の八十六年の歴史は、紆余(うよ)曲折はあっても、その時々の国民の苦難の軽減と、社会進歩の促進のためにたたかった、不屈性と先駆性によってつづられています。

 私は、私たちの現在が、そうした先輩たちの「苦闘と開拓」のたたかいの積み重ねのうえに支えられていることを、この記念すべき集いにあたって、この事業に生涯をささげたすべての同志たちへの熱い感謝をこめて、深く心に刻みたいと思います(拍手)。そしていまの私たちのたたかいも、未来に生きる歴史をつくるたたかいとなるよう、ともに力をつくす決意を述べるものであります。(大きな拍手)

貧困と暮らし――「決定的な場面」で党が掲げた旗が、多くの国民の声に

全国の草の根のたたかいがつくった劇的な情勢の進展

 昨年の八月におこなった党創立八十五周年記念講演会は、七月の参議院選挙での自公政権の歴史的大敗という事態を受けての集いでした。記念講演のなかで私たちは、「国民が新しい政治の中身を探求する、新しい時代が始まった」、「探求する国民の認識と、日本共産党の立場とが接近してくる必然性がある」と話しました。

 それに対して、当時は、「強がりを言っているのではないか」という声もあったかもしれません。しかし、この一年を振り返りますと、日本共産党の立場と多くの国民の気持ちが響きあう、劇的な情勢の進展が生まれたと言えるのではないでしょうか(拍手)。そしてそういう響きあいは、自然に進んだのではなくて、全国の草の根からのたたかいがつくったという実感を、多くのみなさんが持っておられるのではないでしょうか。(大きな拍手)

 きょう、私がお話ししたいのは、どんな問題をとっても、国民の利益、世界の前途がかかった「決定的な場面」で、日本共産党が勇気を持って掲げた旗が、初めは孤立しているように見えても、歴史を切り開き、どれも未来に生きる力を発揮したということです。そのことを、大きくいって三つの問題で話したいと思います。

派遣労働とキヤノン調査――1999年の法改悪に反対をつらぬいた決定的意義

 第一は、貧困打開と国民生活を守るたたかいについてです。

 この間、自公政権によって進められてきた弱肉強食の「構造改革」――「新自由主義」の暴走がもたらした害悪が、暮らしのあらゆる分野で噴き出しました。そのもとで、この間違った道に正面から対決してきた日本共産党の立場が、広い国民の気持ちと一致しつつあります。

 たとえば派遣労働の問題です。

 労働者とわが党の共同のたたかいによって、派遣労働の規制緩和から規制強化への「潮目の変化」ともいうべき前向きの変化が起こりました。

 一つの象徴的出来事として、キヤノンで起こっていることを報告しておきたいと思います。私は二月の国会質問でキヤノンが大規模に派遣労働を導入し、巨額のもうけを吸い上げている実態を明らかにし、その是正を求めました。その後、実態はどうなったのか。私は、六月三十日に、小池晃(政策委員長)さん、吉井英勝(衆院議員)さんとともに、滋賀県・長浜の工場に調査に入りました。

 まずあらためて強い憤りをもったのは、派遣労働者のおかれているあまりに非人間的実態であります。私たちは、前日の二十九日、若い労働者から話を聞きました。「ひどい二重の搾取がおこなわれている」という告発が寄せられました。つまり派遣会社にマージンをピンハネされているだけではないのです。派遣社員は、寮に住まわされて、寮費、電気代、水道代、テレビ代、布団代、冷蔵庫代など、ありとあらゆる費用をひかれ、必死に働いても手元には月十万円以下しか残りません。

 それでは寮とはどのようなものか。現場に行きました。まわりは田んぼという場所です。そこに、八棟、約三百人が住む建物が建っている。建物の中はどうなっているか。話を聞きますと、一つの部屋をぺらぺらの薄い壁で三つに仕切って、一人分は三畳ほどの部屋に、小さな窓がついているだけです。まるで独房です。トイレと台所と風呂は共同です。「ロボットのように働かされ、毎日汗びっしょりになっているのに、洗濯物を干す場所すらない。とてもまともに人間が住むことができる場所じゃない」と訴えられました。

 さらに行ってみますと寮のまわりにはまともに商店がないのです。寮の入り口にはコンビニがあるのですが、これは派遣会社が経営しているコンビニなのです(どよめき)。ここの商品がまた高い(大きなどよめき)、トイレットペーパーなどが高くて、ここでも搾りあげられていると訴えられました。

 生きた人間の生活をまるごと搾れるだけ搾って、あとはモノのように使い捨てにする。こんな働かせ方は放置するわけには絶対にいかないということをいいたいと思います。(「そうだ」の声、大きな拍手)

 翌日、六月三十日に、キヤノン長浜工場を訪問し、キヤノン側からは本社の諸江昭彦専務取締役が応対しました。私はまず、「偽装請負などキヤノンがおかしてきた数々の違法行為をどう考えているのですか」と聞きました。するとキヤノン側は、「大いに反省しています」、「相当懲りています」と繰り返しました。キヤノンはこれまで偽装請負だけでも違法行為を八回も摘発されています。しかし、これまでそれを一度も公表したこともないし、謝ったこともなかった。ですから公式の場で「反省」を口にしたのはこれが初めてであります(拍手)。やっと謝ったかと思って聞きましたが、謝るなら、違法・無権利の状態で働かせた労働者に謝ってほしい(「そうだ」の声、大きな拍手)。ただ、ともかくも労働者のたたかいが、キヤノンの言葉を借りれば、「相当懲らしめた」というところに追い込んだということがいえると思います。

 私たちが「派遣労働はどうなっているのか」と聞きますと、キヤノン側は「製造派遣は年内中に解消する」と表明しました。「長浜工場については、六月三十日をもって派遣労働はゼロにいたしました」との答えでした。六月三十日とは私たちが視察した日であります。その同じ日に「派遣労働をゼロにした」とは偶然なのかどうか(笑い)。しかしともかくも「製造派遣の解消」を表明せざるをえなくなるところに追い込んだのは、労働者のたたかいの一歩前進といえると思います。(拍手)

 同時にみなさん、たたかいはこれからです。派遣労働に代わって増やしている期間社員、期間工は、直接雇用ではありますが、雇用契約の期間が、「最初は五カ月、その後六カ月ごとに更新され、最長でも二年十一カ月」、こうなっているのです。キヤノン側は、「二年十一カ月たったら辞めてもらうということです」と冷酷に言い放ちました。新しい形での使い捨て労働を許すわけにはいきません。「派遣解消」にまで追い込んだ力に確信をもって、期間社員や請負への置き換えではなくて、正社員への太い道を切り開くために、ひきつづきがんばりたいと決意しております。(大きな拍手)

 この問題での「決定的な場面」は、一九九九年の派遣法大改悪でした。この改悪は、それまで派遣労働を専門業務に限定していたものを、原則自由化するという百八十度の大転換をやってのけたものでした。自民、公明、民主、社民など、他のすべての党が「多様な選択肢を確保し、雇用の安定を図る」とこれに賛成するなかで、この大改悪に正面から反対をつらぬいたのは日本共産党だけでありました。(拍手)

 当時の国会議事録を見ますと、わが党は、この法改悪によって、正規労働者を派遣労働者に置き換えるリストラがすすむことになる、大量の無権利・低賃金の使い捨ての労働者をつくり出すと批判をしています。この批判は、恐ろしいまでに現実のものとなっているではありませんか。

 わが党は職場の仲間とともに、偽装請負を告発し、派遣労働の非人間的実態を告発し、その是正を求め続けてきました。それがついに政治を動かし、巨大企業を動かすところまできました。他の野党はもとより、政府・与党まで、派遣法の改正を言わざるをえなくなってきた。ここまできたからには、中途半端な見直しで終わらせるわけにいきません。一九九九年の大改悪の前に戻す抜本的な派遣法改正をはかり、人間らしい労働のルールを打ち立てるために、頑張ろうじゃありませんか。(歓声、大きな拍手)

高齢者への差別医療――2000年の「付帯決議」に反対し、一貫してたたかう

 後期高齢者医療制度に対して、日本列島で怒りが噴きあがっています。

 怒りの焦点は、七十五歳という年齢を重ねただけで、国保や健保から追い出され、別枠の制度に囲い込まれて、保険料は際限なく上がり続ける、保険からの給付は「定額制」といって一定額までしか受けられないなど切り下げが進む――高齢者への差別医療であるということに、怒りが集中しています。

 怒りは、与野党の枠、政治的立場の違いを超えて、あふれだしています。中曽根康弘元首相は、「名前が実に冷たい」(笑い)、「愛情の抜けたやり方に、老人が全部反発している」と述べました。

 全国で医師会のみなさんとの共同が進んでいます。三十五都府県の医師会が反対・見直しを求める態度表明をおこない、県の医師会長さんが続々と「しんぶん赤旗」に登場してくださっています。

 さらに七月十五日付の「朝日」「日経」には、日本医師会が全面意見広告を出しました。「日本医師会は、国民のみなさんとともに社会保障費の年2200億円の削減に反対します」という大見出しです(拍手)。結びは、「社会保障、そして国民医療を守るために、日本医師会は、国民のみなさんとともに戦います」(大きな拍手)。日本医師会が、あらゆる社会保障切り捨ての元凶にある二千二百億円削減路線に反対と言い切ったのは、私は、画期的だと思います(拍手)。七月十五日というわが党の創立記念日に出たのは、偶然だと思いますが(笑い)、うれしい思いで読みました。(拍手)

 この問題での「決定的な場面」は、二〇〇〇年の十一月におこなわれた健康保険法改悪のさいの「付帯決議」です。そこには「老人保健制度に代わる新たな高齢者医療制度等の創設については、早急に検討し、必ず実施する」、「老人医療及び慢性期医療については、包括・定額化を更に進める」など、後期高齢者医療制度の原型になる考えが列挙されております。この「付帯決議」は、自民、民主、公明、社民が共同提案として提出し、きっぱりと反対をつらぬいたのは、日本共産党だけでありました。(拍手)

 実は、同じ年の同じ月、二〇〇〇年の十一月におこなわれた日本共産党第二十二回党大会の中央委員会の報告で、「これが実行されれば、すべての高齢者からの保険料徴収……などきわめて深刻な事態になる。憲法二五条に保障された生存権の根本が脅かされることになる」と、私たちは党大会で反対のたたかいを呼びかけたのであります。

 ここでも日本共産党が、「決定的な場面」で反対をつらぬき、国民とともに一貫してたたかいぬいてきたことが、この問題を国民的な大争点におしあげ、参議院での野党共同での撤廃法案の可決につながりました。継続審議とされた法案を衆議院で可決・成立させ、この希代の高齢者差別法を撤廃させるために力を尽くそうではありませんか。(大きな歓声、拍手)

「農業再生プラン」――WTO農業協定に反対をつらぬいた党ならではの提案

 農業と食料の問題について、日本共産党は、この間、「農業再生プラン」を発表し、食料自給率の向上の国民的共同を呼びかけ、農産物の価格保障の抜本的充実をはかる、歯止めのない輸入自由化にストップをかける、などの具体的な処方せんを提案いたしました。「再生プラン」はどこでも大評判であります。各地のシンポジウムで、これまで保守の立場だった農協関係者の方々、自治体関係者の方々などと、あたたかい共同の輪が広がっているのは、うれしいことです。

 全国の反響は、いろいろな形で起こっております。ここに持ってまいりましたが、「山陽日日新聞」という地方新聞があります。この新聞では、「農業再生プラン」に注目し、なんと五回にわたって、一面トップで連打をしております。

 一回目は、六月二十九日付。「『農業再生プラン』 議会が共産党案を丸飲み」(笑い)という見出しです。広島県・尾道市議会の六月議会で採択された意見書が、共産党の「農業再生プラン」の内容とピッタリ一致しているということを報じて、こう述べています。

 「皆さんに注目してほしいのは……(意見書は)『食料』の料の字が『糧』になっている以外は(『再生プラン』と)ピッタリ一致していることだ。単刀直入にいえば、尾道市議会は公明党を除く全会派(五会派、三一人)が、日本共産党の農業再生プランに双手を挙げて賛成したということになる」(拍手)。「これまでは共産党と全く立場を異にしてきた議会保守系が、共産党の政策を『それこそガブ呑み(笑い)、丸飲み』にしたというこの事実が一体、何を物語っているのか!?……そのこと(の重大性)の方が、尾道市議会史に残る」。これが一回目なんですね。(拍手)

 二回目は、七月一日付。今度は北海道の動きに注目を寄せております。「全国有数の穀倉地帯である北海道・岩見沢で二十九日開いた日本共産党のシンポジウム『日本農業の再生を考える』に、尾道市の公会堂と同じ規模の会場が満杯(千人)になったという『地殻変動』が今、日本中で起き始めている」(拍手)。これもうれしい注目であります。

 三回目、四回目とありまして、五回目。最後ですけども、これは七月六日付です。御調町(みつぎちょう)で開かれた共産党の農業シンポジウムをこう報じております。見出しは、「これこそ『声なき声』 みんな『いかに思いがあるか』 NHKで全国放送して『聞いてほしかった』と」(笑い、拍手)。それで、こう述べています。

 「日本共産党の『農業再生プラン』をもとに去月二十六日、御調町で開かれた『日本の農業と食の安全』の懇談会(講師は中林よし子元衆議院議員)の帰路、新幹線で帰る中林さんを新尾道駅に送っていく車中、寺本真一市議と三人で『今日のような懇談会をNHKが放映したらよいのに…』と期せずして一致した。農業を愛するが故に、真面目に農業に従事しているが故、『どれだけ農業の今日と未来を心配しているか』―が、今や『どれほど激しい怒りにまで昇華しているか』―。そこには、永年日本を支配してきた『声高ではない、切々とした地方の国民の心情の吐露』があった」。このようにシンポジウムを報じています。(拍手)

 ここにも、「農業再生プラン」がどんな反響を呼び起こしているか、その一端が生き生きと示されていると思います。ちなみに、「山陽日日新聞」は一八九八年創刊。「赤旗」よりも歴史が長い。今年がちょうど創刊百十周年という伝統を持つ新聞だということも、紹介しておきたいと思います。(拍手)

 農業と食料をめぐって、「決定的な場面」はいろいろありますが、ここまで日本の食料自給率が急落したきっかけになったのは、コメ輸入の関税化、農業支援の削減などを盛り込んだWTO農業協定の受け入れです。これをきっかけに、一九九二年には46%あった食料自給率が、それこそ坂道を転げ落ちるように落ちて、今では39%まで落ち込みました。これを進めたのはだれか。ガット・ウルグアイ・ラウンドの合意を受け入れたのは一九九三年のいわゆる「非自民連立政権」といわれた細川内閣、WTO協定の国会承認を求めたのは九五年の「自民、社会、さきがけ」の連立政権であった村山内閣であります。

 わが党以外のすべての党が「共犯」になって、農業破壊のレールが敷かれた。これにきっぱりと反対をつらぬいたのは日本共産党だけでありました。(大きな拍手)

 そういう党だからこそ、「農業再生プラン」を打ち出せました。そしていまやその中身は、一党一派のものではありません。国民的要求になりつつあります。日本の農業の再生を目指して、壮大な国民的共同をつくるために力をつくす決意を述べさせていただきます。(拍手)

財界・アメリカによる国民生活破壊とたたかう綱領路線の生命力

 NHKの番組に「その時 歴史が動いた」という番組があります(笑い)。派遣労働でも、高齢者医療でも、農業と食料でも、やはり「歴史が動いた」ともいえる、「決定的な場面」がありました。そのすべてで、国民の利益にたった行動をつらぬき、たたかいを呼びかけたのは日本共産党だけでした。しかしそれは、いまでは国民多数の声となり、国民のたたかいと共同して、政治を動かしているではありませんか。ここでも正義と道理に立つものは未来に生きるということが示されているではありませんか。(歓声、大きな拍手)

 なぜわが党が、こうした確固とした立場をつらぬけるのか。その根本には綱領路線の力があります。いまのべた暮らしのどの問題をとっても、その根源には、自らのもうけのために国民生活を犠牲にしてはばからない財界・大企業の横暴勝手があります。また日本経済をアメリカ型経済の鋳型にはめ込み、労働でも、医療でも、食料でも、自国の巨大企業のもうけ口にしていこうというアメリカの経済覇権主義があります。

 財界・大企業とアメリカによる国民生活破壊ときっぱりとたたかい、「ルールなき資本主義」をただし、「ルールある経済社会」をめざす綱領が、どの問題でも「決定的な場面」で、わが党がぶれず、揺るがず、国民の立場をつらぬく羅針盤となっているということを強調したいと思うのであります。(大きな拍手)

アメリカいいなり政治――勇気をもって掲げた一国覇権主義反対が世界の流れに

 第二に、異常なアメリカいいなりの政治をただすたたかいについて話を進めます。

 自民党政治が異常なアメリカ従属の体質をもっていることは、戦後の米軍による軍事占領、それに続く日米安保体制以来のものです。ただ今日は、この問題を一九九一年十二月に起こったソ連崩壊という世界史的事件、それ以降の十数年の歴史の文脈のなかで考えてみたいと思います。

ソ連崩壊直後――ブッシュ(父)大統領と、日本共産党の立場

 ソ連が崩壊したときに、アメリカがどれだけ勝ち誇ったか。一つの歴史的文書を紹介します。ブッシュ大統領――お父さんの方のブッシュ大統領が、ソ連崩壊直後の一九九二年一月に米国議会でおこなった一般教書演説です。そこでブッシュ大統領は次のように述べました。

 「神の寵愛(ちょうあい)によってアメリカは冷戦に勝利しました」、「かつて二つの武装陣営に分断されていた世界が今や、単一の卓越した力を認めています――アメリカ合衆国です」、「(アメリカ合衆国は)西側の指導者から世界の指導者になったのです」。よくもここまで言ったものですね(笑い)。しかも「神の寵愛」です(どよめき)。ここには、ソ連の崩壊によって、アメリカは、世界の「単一の卓越した力」になり、「世界の指導者」になった、超大国は自分一人になった、これからはアメリカが軍事の力で世界を思うように動かせるだろうという、覇権主義の「夢」に胸をふくらませた傲慢(ごうまん)きわまる姿がまざまざと示されています。ソ連崩壊によって、アメリカはここまで増長し、有頂天になったのであります。

 このアメリカ覇権主義の圧倒的な威圧を前にして、世界の平和と進歩を願う人々のなかにも、ソ連にいろいろと批判はあっても、ソ連がなくなってアメリカが強くなったら世界はもっと危険になる、世界の前途は暗いとみて、意気消沈する傾向が強く生まれました。

 一方、世間では、「米ソ対決」がなくなった、「冷戦は終わった」のだから、世界にもう危険はなくなった、対立はなくなった、という傾向も強くあらわれました。当時の社会党は、“だからもう自民党と仲良くしてもいい”と(笑い)、それを一つの理由にして、自民党と連立政権まで組んでしまいました。

 日本共産党は、そのどちらにもくみしませんでした。アメリカが、「ソ連の脅威」という口実が破たんしたもとでも、あくまでも核兵器と軍事同盟を維持し、各地で「世界の憲兵」として侵略と干渉の体制に固執していることを正面から告発し、平和を守るたたかいを呼びかけました。わが党は、ブッシュ大統領の一般教書演説の直後の一九九二年三月に開いた第十九回党大会第六回中央委員会総会で、「アメリカの世界戦略を告発し、その危険な政策とたたかうことは、日本と世界の平和・民主勢力の共通の任務」と指摘し、「平和と民族自決の国際秩序」をつくることを呼びかけています。ソ連崩壊に意気消沈どころか意気軒高と対応する。同時に、アメリカの一国覇権主義の危険を軽視せず正面から堂々と立ち向かう。これがこの世界史的事件にさいして、日本共産党がつらぬいた立場でありました。

 わが党がこうした立場をつらぬけたのは、ソ連崩壊にさいして、アメリカとはまったく別の立場から「歓迎」する態度をとったことと一体のものでした。日本共産党は、ソ連共産党の解体にさいして、「大国主義・覇権主義の歴史的巨悪の党の終焉(しゅうえん)を歓迎する」という声明を発表し、そのなかでこう指摘しました。

 「世界の社会主義の代表者のような顔をしながら、社会主義の立場とはまったく無縁の大国主義・覇権主義の害悪を流しつづけてきたソ連共産党が解体することは、世界で科学的社会主義の立場を堅持してすすもうとする勢力への妨害物がなくなるという点で、世界の平和と社会進歩の勢力にとっても、日本共産党のたたかいにとっても、巨大なプラスをもたらすものである」。

 「歓迎」といっただけでなく、今後の展望として「巨大なプラス」をもたらすというところまで、この時にいったのであります。

 こういう立場から「歓迎」声明を出した党を、私はほかに知りません。わが党の声明を、フランス国営テレビが驚きをこめて紹介したことを思い出します。“世界には途方もないことを言う共産党がいる”(笑い)というような調子でした。

 わが党が、こうした声明を出せたのは、「苦闘と開拓」の歴史に支えられているからです。すなわちソ連の大国主義・覇権主義と党の存亡をかけて三十年にわたってたたかいつづけてきた自主独立の歴史に確固として支えられたものだということを強調したいと思います。(大きな拍手)

わが党以外の日本の政界は、アメリカ覇権主義にのみ込まれてしまった

 この世界史的な激動にさいして、日本のほかの政党がとった立場はどうだったでしょうか。一言でいえば、アメリカの覇権主義にいよいよ深くのみ込まれてしまった。これからの日本の進路は、唯一の超大国となったアメリカに従っていくことだ、子分となって言うことを素直に聞いていれば日本の進路は安泰だ、そうした風潮がわが党以外の日本の政界を覆いつくしました。

 一九九一年に湾岸戦争が起こり、アメリカは日本に対して、「金を出すだけではなく、人も出せ、血も流せ」という要求をつきつけてくる。それに屈従して、自衛隊の海外派兵を進めようという動きが公然と首をもたげてきました。九一年の四月には、ペルシャ湾の機雷除去を名目に海上自衛隊の掃海艇を派遣、史上初めての自衛隊海外派兵が強行されました。九二年の六月には、自民・公明・民社三党によって、史上初めての自衛隊海外派兵法案――PKO法案が強行されました。

 この大合唱に旧社会党も参加しました。九四年九月、村山内閣発足後の社会党臨時大会では、自衛隊合憲、安保堅持、PKO積極参加など基本政策の根本的転換を決定しました。九五年一月の日米首脳会談で村山首相は、日米安保の地球的規模の拡大に全面協力を約束し、安保「堅持」から「強化」に踏み込んでいきました。こうして、わが党以外の日本の政界は、「日米軍事同盟万歳」「海外派兵万歳」の翼賛体制一色に染め上げられていったのであります。

 こうした流れのなかで、いかなる国によるものであれ覇権主義に未来はないという展望のもとに、日米軍事同盟解消、海外派兵反対、憲法擁護の旗を高く掲げ続けた日本共産党の存在と活動は、誇るべきものであったと確信をもって言いたいと思います。(「そうだ」の声、大きな拍手)

軍事的覇権主義は破たんし、巨大な平和の激流がおこっている

 それではみなさん、ソ連崩壊後の十七年の世界の動きは、十六年前にブッシュ大統領が期待した方向にすすんだでしょうか。世界の動きは、アメリカの期待とはまったく逆の方向に向かったではありませんか。

 軍事力で世界を制覇する野望が挫折したことは、アフガニスタン戦争から七年、イラク戦争から五年たっても、テロと暴力の悪循環はやまず、問題解決の糸口すら見いだせない、軍隊を引くに引けないという大失敗に陥っていることを見ても明らかです。父ブッシュがアメリカに託した期待は、息子ブッシュによって(笑い)、こなごなに砕かれました(笑い)。不肖の息子だったのか(笑い)、それとも親の見通しが違っていたのか。両方だと思います。(爆笑、拍手)

 十六年前、アメリカは「西側の指導者から、世界の指導者になった」と胸をはりました。しかし、イラク戦争にさいしては、西側諸国のなかからも、フランス、ドイツ、カナダなどが公然と反対したではありませんか(拍手)。ソ連の崩壊によって、西側諸国も、何にでもアメリカの顔を立てる必要がなくなり、自由な声を上げ始めたのであります(拍手)。いまだに不自由なのは日本くらいのものです(笑い)。アメリカは、「世界の指導者」になりそこなっただけではありません。「西側の指導者」の地位からも滑り落ちつつあるではありませんか。(大きな拍手)

 軍事で物事を解決しようという考えは、過去のものとなりつつあります。世界の各地で、平和の地域共同体がつくられ、広がりつつあります。

 東南アジア諸国連合(ASEAN)が中心になって、はじめは五カ国でつくった東南アジア友好協力条約(TAC)は、イラク戦争を契機に東南アジアの域外にも大きく広がり、二十四カ国、地球人口の57%を擁する国々が参加し、ユーラシア大陸を覆う巨大な流れに発展しつつあります。その根本精神は、戦争放棄と、紛争の平和的解決であります。

 TACの加入国が広がるのとともに、インドと中国は、数十年にわたる紛争と対立に終止符を打ちました。インドとパキスタンは、領土問題での深刻な対立を平和的に解決しようという試みに踏み出しました。東南アジアには、南シナ海の中央に位置する南沙群島の領有権をめぐる紛争問題がありますが、これも「南シナ海における関係国の行動宣言」が署名され、平和的解決が関係国の合意となっています。TACが紙の上の合意だけでなくて、アジアの平和のために生きて働き始めていることに、私は、大きな期待を寄せたいと思います。(拍手)

 民主的変革が広がる南米でも、平和の地域共同体への力強い歩みが起こっています。今年五月、南米十二カ国すべてで構成する南米諸国連合が、南米諸国連合設立条約を締結し、恒常的な機構となりました。条約の前文には、平和、民族自決権、核兵器のない世界などが、高らかに刻まれています。

 この流れも、生きて働き始めています。たとえばこの間、コロンビア軍によるエクアドル国境侵犯事件がおこりました。しかしこの問題は、コロンビアの大統領が正式に謝罪し、二度と繰り返さないと誓約したことを受け入れて、平和的解決がはかられました。この平和的解決の流れに、南北アメリカ大陸のすべての諸国が参加する米州機構(OAS)のなかで、ただ一国、最後まで反対した国がある。それがアメリカなのです。コロンビアまで賛成したのに、アメリカだけが反対し、南北アメリカ大陸でも完全な孤立におちいっているのが、アメリカの現状なのであります。

 いま南米諸国連合は、アメリカ中心のリオ条約と呼ばれる軍事同盟と一線を画し、共同の安全保障の体制づくりにとりくんでいます。最近、面白いやりとりがありました。ブラジルのジョビン国防大臣と、アメリカのゲーツ国防長官が三月に会談をした。その席で、南米の安全保障の体制づくりに関して、アメリカのゲーツ国防長官が「われわれは何ができるか」と尋ねた。それに対して、ブラジルの国防大臣の答えがふるっています。「何もしないでくれ」(爆笑、拍手)、「これは南米がとりくんでいることだ」。かつて「米国の裏庭」と呼ばれた南米からも、ついに「何もしないでくれ」と突き放され、途方にくれ、頭を抱えているのが、いまのアメリカの姿なのであります。

 アジアでも、ラテンアメリカでも、巨大な平和の激流が起こっています。共通するのは紛争の平和解決と戦争放棄です。人類の社会から紛争やもめ事をなくすことはできないかもしれない、しかし、人類の英知によって、紛争を戦争にしないことはできる(大きな拍手)。この確信が、世界を覆って広がりつつあるのであります。この理想を、世界でもっとも先駆的に掲げているのが、わが日本国憲法第九条ではありませんか(「そうだ」の声、大きな拍手)。だから九条のすばらしい値打ちが、いま世界的規模で見直されているのであります。

 世界はここまで変わっています。ソ連の崩壊は、アメリカに「世界の指導者」、「単一の卓越した力」を保障しませんでした。反対に、世界中の国々が元気になり、新しい活力を得て、自由に発展する道を開くことを保障するものとなりました。

 そのなかでアメリカ自身にもある変化が起こりました。軍事一本やりでなく、外交戦略ももって世界にのぞむ――二面性が生まれてきました。たとえば米国は、いまイラクやアフガンでは、軍事的覇権主義を続けていますけれども、北朝鮮に対しては、外交交渉による解決への政策の大転換に踏み切りました。いま六カ国協議をめぐって、朝鮮半島の非核化にむけた前向きの動きが起こっていますが、これは米国が、「圧力一辺倒」から外交解決へと大転換したことと、大きくかかわっています。

 不破哲三さんは、二〇〇六年の赤旗まつりの「『科学の目』講座」で、「ソ連崩壊が、実際に世界にもたらしたものは、『歓迎』声明をだした私たちの予想をはるかに超えるものがありました。それはまさに、世界を活気づけ、平和と進歩の流れを前向きに進める、文字通り大きな転機になったということを、いま私はつくづく実感しています」と述べました。

 私は、目からうろこが落ちる思いでこの話を聞きました。「私たちの予想をはるかに超えた」というのも、その通りだと思います。ソ連共産党崩壊にあたっての先ほど紹介した声明の中で、私たちは、ソ連共産党の崩壊は世界の進歩にとって「巨大なプラス」になるだろうと書きましたけれども、それは、社会進歩を阻む「妨害物」がなくなるのだから、そうなるに違いないという、理論的な予測でした。

 それがたった十七年間で、こんなに豊かな形で実証されることになるとは、歴史はやはり進むべき方向に進む、法則にのっとって進むという深い感慨を覚えずにはいられないのであります。(拍手)

 ソ連崩壊という、世界史における「決定的な場面」にさいして、その直後の一九九二年初頭におけるブッシュ大統領の立場と、日本共産党の立場と、どちらが未来を見通していたかは、歴史の判定が下ったといえると思います。(「いいぞ」の声、大きな拍手)

 ここでも正義と道理にたつものは未来に生きるということを、確信を持って言いたいと思います。(拍手)

覇権主義を許さない綱領路線の生命力と、新しい綱領での世界論の発展

 世界はここまで変わっているのに、自民党政治には、世界のこの動きがまったく視野に入りません。彼らは、いまだに世界を決めるのは超大国アメリカだという十六年前のブッシュ大統領の宣言のまま、思考停止に陥っています。頭の中が凍ったままなのです(笑い)。アメリカに指図されるままに海外派兵と憲法改定に熱中している。他方でアメリカが北朝鮮問題で踏み切った外交解決への大転換は完全に見損ない、自分たちが大将だと信じている国とも大きな溝をつくってしまっています。アメリカのもっとも悪いところにだけ追従し、アメリカが前向きに変化したときはついて行けない(笑い)。独自の外交戦略は何もない。こんな政治に未来がないことは、あまりにも明らかではないでしょうか。(「そうだ」の声、大きな拍手)

 日本共産党が、ここでも、揺るがずに、一貫して平和の立場をつらぬけた根本には、アメリカの覇権主義、帝国主義の政策を具体的に分析し、それに立ち向かってきた綱領路線の生命力があります。

 さらにわが党は、ソ連崩壊後の世界情勢を全面的に分析し、二〇〇四年に改定した新しい綱領でまとまった世界論を打ち出しました。新しい綱領では、二十世紀に起こった植民地体制の崩壊など世界の構造変化によって、世界の力関係が大きく前向きに変化していること、そのもとでアメリカの評価も事実にもとづいてリアルにとらえる立場をさらに発展させました。イラクなどでの米国の軍事的覇権主義に厳しく反対しつつ、北朝鮮などでの米国の行動は前向きに評価する、複眼でアメリカをリアルにとらえる立場も、新しい綱領に立脚したものだということを紹介しておきたいと思います。(拍手)

 みなさん、綱領の指し示す道――日米軍事同盟をなくし、米軍基地のない、本当の独立国といえる平和日本への道を、ともに進もうではありませんか。(歓声、大きな拍手)

「資本主義の限界」が問われる時代――未来社会の理想を高く掲げて

 第三に、地球的規模で見ますと、資本主義という体制の是非が問われる時代に入っていることを、お話ししたいと思います。

「資本主義万歳」論から「資本主義の限界」論へ――状況は大きく変わる

 十七年前のソ連崩壊のさいに、もう一つ、世界を覆いつくした議論がありました。それは「資本主義万歳」、「社会主義崩壊」論であります。「共産党は時代遅れだ」「名前を変えろ」、この大合唱が空前のピークに達したのもこの時期だったと、いまでは懐かしく(爆笑)思い出します。

 日本共産党は、こうした議論に断固として屈しないことの重要性を、国際的にも、日本国民に対しても主張して、不屈にたたかいました。崩壊したソ連は社会主義とは無縁の社会であったこと、世界の資本主義の現実の矛盾の深まりを見るならば、「万歳」などといえる根拠はどこにもないではないかということを堂々と語りぬきました。

 それでも、この時代は、わが党にとって一つの試練の時代であったと思います。私自身は、書記局長になりたてのころでしたが、下りのエスカレーターを駆け上がっている感じで(爆笑)、息せき切って駆け上がっても(笑い)、いつまでも上に進まないというような逆風を感じたものでした。ただ、わが党の多くの同志たちは、党の歴史に確信を持ち、未来に希望を持ち、「逆風もまた楽し」という心境で(笑い)、この時代の試練に立派に耐え抜いたと、私は思います。(大きな拍手)

 ここでも大きな時代の変化を感じます。今では「資本主義万歳」どころか、「資本主義は限界か」という議論が、この日本でも始まっているではありませんか。

 私自身が、そうした流れを最初に実感したのは、「しんぶん赤旗」が新年に企画した経済同友会終身幹事の品川正治さんとの「新春対談」でありました。品川さんは一九二四年生まれです。あの戦争では中国戦線に動員され、文字通りの死線をさまよいました。中国からの復員船の中で、新憲法草案の載ったボロボロの新聞が回ってきて、それを読んで初めて九条を知った。そこには「戦争放棄」と書いてあり、「軍隊を持たない」とまで書いてある。「よくぞここまで書いてくれた」と、喜びのあまり、仲間と抱き合って泣いたという話を聞きました。それ以来、経済界の中にあって九条を守り抜く立場を貫いてこられた方であります。

 ですから、私との対談もたいへん弾みまして、午後から始めましたけれども、夕食になっても終わりません。食事をはさんで六時間にもなりました。平和でも、経済でも、あらゆる問題で意気投合したのですけれども、最後に、夜の十時ぐらいになって、品川さんがこう言いだしました。

 「資本主義のシステムも行き着くところまできているという感じです。私なんかも日常使わない言葉ですが、『新しい社会主義』ということを考えざるをえなくなるんですね。しかもそれは日本共産党のいうようにソ連型ではないものを」。

 品川さんは、日本の資本主義経済の裏も表も知り抜いている方です。私も、テレビなどに出ますと、「どうして株価が下がったのか」などと聞かれることがあります。それなりに説明をしますが、実は、私は、いまだに株というものを見たことがありません(爆笑)。その点では品川さんは、大きな会社の経営に実際に携わってこられた方です。そういう方から、「資本主義も行き着くところまできた」、「新しい社会主義」という言葉がでてきたのは、驚きであり、大きな喜びでもありました。

 つづいて、『週刊朝日』が、「真面目でブレない主張が新しい 日本共産党宣言!」と大きく表紙にありますが、インタビュー特集を掲載しました。中を開きますと、「共産党委員長 資本主義を叱(しか)る」となっています。編集部がつけたリードは、「円高、株安、原油高が進み、経済の先行きは不透明だ。19世紀にマルクスとエンゲルスは『共産党宣言』で『ヨーロッパに共産主義という妖怪が出る』と書いたが、今や国際的な投機マネーに引きずられた『超資本主義という妖怪』が世界を脅かしている。共産主義者の目に今の社会はどう映るのか」。ということで私にインタビューをしたものなのですが(笑い)、「資本主義を叱る」と題する特集が出てきた。

 さらに、テレビ朝日系の番組で「サンデー・プロジェクト」というのがありますが、「資本主義は限界か」と銘打った番組を放映し、そこに出演する機会もありました。テレビ局にいってみますと、番組の冒頭でカール・マルクスの写真が大写しにされて、ナレーションが流れます。「二十世紀に世界的な影響を与えた一人、マルクスがかつて指摘した資本主義の限界。そしていま資本主義の超大国アメリカでおきたサブプライムローン問題、懸念される世界経済の行方、世界中で広がっている格差、資本主義はもはや限界なのか」。

 テレビ局側の注文は、マルクスの『資本論』などから適切に引用をしてフリップにしてほしいというのですね(笑い)。あの分厚い、また決して易しいとはいえない(笑い)、『資本論』から数行を抜き出してフリップにするのは難儀な話でした(笑い)。しかし、テレビのフリップに、マルクスやエンゲルスの言葉がでたのは、本邦初めての出来事になったのではないかと思います。(笑い、大きな拍手)

 このように「資本主義は限界か」という問いかけが、社会の側から広く提起されるようになり、そうなってくると、その答えは他の党に聞いてもしょうがないのです(笑い)。日本共産党に求めてくる(拍手)。これは、私たちがこれまで体験したことがない新しい状況です。

 私は、これは偶然のものではないと思います。その背景には、世界と日本の大きな変化があると思います。とりわけ、資本主義の矛盾が、世界的規模でかつてなく深いものになっていることがあげられます。その矛盾のあらわれはさまざまですが、私は、人類の生存の土台にかかわるいくつかの問題を話したいと思います。

貧困と飢餓――5秒に1人の割合で飢えによって子どもの命が奪われている

 第一は、貧困と飢餓の問題です。

 世界一の資本主義大国アメリカが「貧困大国」といわれます。世界第二の資本主義国日本で貧困の広がりが一大社会問題になっています。これらは、資本主義という制度と貧困とが分かちがたく結びついていることを象徴しています。

 ここで目を向けてほしいことがあります。それは、いま地球的規模で飢餓が広がっているということです。国連食糧農業機関(FAO)は、八億六千二百万人の人々が食糧不足に苦しんでいるとしています。また、昨年一年間だけで飢餓人口は約五千万人増加したとしています。世界で五歳未満の子どもが五秒に一人の割合で、飢えによって命を落としているのであります。

 こうしたもとで、食料問題を市場任せにすることへの批判が、国連の舞台でも提起されました。今年一月、国連の人権理事会に提出された「食料に対する権利」と題する特別報告書は、つぎのように主張しています。

 「新自由主義理論によると、全面的に自由化され、民営化され、統一された世界市場のみが世界の飢餓と栄養不良を廃絶できる。(しかし)証拠はその逆を示している。過去十年間に、自由化と民営化はほとんどの国で急速に進展した。同時に、かつてなく多くの人が今日、恐るべき恒久的な栄養不足に苦しんでいることを、統計数字は示している」

 人間に食料を保障できるのか。これは、経済活動の最も根本中の根本の問題です。そこのところで、資本主義が世界を管理する資格があるかどうかが問われているということを、強調したいと思うのであります。(拍手)

投機マネーの暴走――人類の生存が土台からたたき壊されつつある

 第二は、投機マネーの暴走です。

 もともと投機というのは資本主義につきもののものですが、一九八〇年ごろからのアメリカを中心とする金融緩和の流れのなかで、投機マネーが異常に膨張しました。

 いったいどれくらいのお金が投機マネーとして世界を駆け巡っているのか。三菱UFJ証券の試算によりますと、世界の「実物経済」――物やサービスをつくって売り買いをする経済――は、世界のGDP(国内総生産)の合計でだいたい計られますが、四十八・一兆ドルになります。それに対して世界の「金融経済」――世界の株式、債券、預金などの総額は、何と百五十一・八兆ドルに達します。つまり「実物経済」の三倍以上にのぼるところまで、「金融経済」が膨張してしまった。とくに、この二十年間に急膨張しているのです。その差は実に百兆ドルです。そのうち半分、つまりだいたい五十兆ドルは、ほとんど「実物経済」には必要ではないお金だと、この試算をした経済アナリストの方はいっています。五十兆ドルといいましたら、日本円にすると五千兆円をはるかに超える天文学的なお金です。私は億でも見たこともないのに(笑い)、兆となったらもう全然ピンときませんが(笑い)、それだけのお金が、投機マネーとして世界を駆け巡っているのであります。

 ではこの投機マネーがもたらしているものは何でしょうか。私は、二つの大問題があることを指摘しなければなりません。

 一つは、国境をこえた投機マネーの暴走が、各国の国民経済、国民生活を破壊する猛威をふるっていることです。

 アメリカで、サブプライムローンという詐欺商法が破たんすると、投機マネーは証券市場からあふれ出して、原油と穀物の商品市場に流れ込みました。世界中でいま、原油と穀物、生活必需品の高騰が起こっています。その被害を受けているのはだれかといえば、世界の庶民生活であり、発展途上国です。

 日本でも、漁業協同組合が、「このままでは漁に出られない」と、いっせい休漁という抗議行動をおこないました。私は、国際的に共同して投機マネーを規制するとともに、漁業・農業・中小零細企業など深刻な被害を受けている方々への燃油代の直接補てんなどをただちにおこなうことを強く求めるものであります。(大きな拍手)

 もう一つは、日本の株式市場も、短期的な利益だけを追い求める投機マネーによって支配されているということです。そしてそれが企業にリストラ競争を強制しているということです。

 東京証券取引所の毎日の取引の六割は、アメリカを中心とする外国資本であり、外資が支配する投機市場となっているといわれます。品川正治さんと対談したさい、次のような話を聞きました。

 「恐ろしいことに、そういう投機市場が企業の活殺の権を握ってしまっているわけですね。ほんとうは日本の企業は5%の利益を上げていれば成り立つはずなのに、隣で10%の企業ができたら、お金は10%のところにしかいかないんです。20%の企業ができたら全部そっちにいっちゃうんですね。20%のところはどうやったかというと、まず雇用の徹底的なリストラをやった。それだけで、規模は小さくなっているけど、利益率は上がる。隣がリストラしたら、自分の会社もリストラしないでおれないように追い込んでいっているのが、いまのマーケットなんです」。

 このように、たえず利益の高い企業を求めて、短期でお金がどんどん動いていくのが、投機市場なんですね。一つの企業をじっくり長い目で育てようというようにお金が動かない。どんどん短期的な利益を求めて動いていく。それが、企業にリストラを強制し、企業の活殺(かっさつ)の権――生殺与奪(せいさつよだつ)の権まで握ってしまっているという、恐ろしい事態になってしまっているということを、品川さんは話してくれました。

 このなかで、投機マネーによる企業買収・合併(M&A)が恐ろしい現実をつくりだしています。昨年、アメリカのスティール・パートナーという投資ファンドが、日本のブルドックソースを買収しようとした事件がありました。スティールは、おいしいソースをつくろうと思って買収をしようとしたわけではありません。ソースづくりなど、何の関心もない投資ファンドです。目的はただ一つ。ブルドックを買収して、もうかる部分を売り飛ばし、もうからない部分は処分する。会社を切り売りにして利益をあげることにありました。ハゲタカ・ファンドと呼ばれる企業のやり口です。

 スティールによるブルドックの買収は失敗に終わりましたが、今度は、スティールはアデランスの買収に動き、買収からの防衛を図っていた社長を退任に追い込むという事態をつくり出しています。退任に追い込まれた社長さんの悔しそうな顔が忘れられません。アデランスの買収も、もちろん良いかつらをつくることが目的ではありません。ソースでも、かつらでも、何でもいいのです(笑い)。もうかりさえすればいい。こんな横暴なお金の動きを許していいのかということが、いま問われているということをいわなければなりません。(拍手)

 私が強調したいのは、こうした投機マネーの動きで、いちばんの犠牲になっているのは労働者だということです(「そうだ」の声、拍手)。リストラで労働者の首を切り、派遣労働に置き換え、働く貧困層に突き落とす。投機マネーはその元凶にもなっているということを、厳しく批判しなければなりません。(大きな拍手)

 私は、各界から、いま「資本主義の限界」という声があがっている直接の原因に、この怪物のようにふくれあがった投機マネーの暴走を、どうにも抑えられない、こんな資本主義に未来があるのかという危機感が強くあるように感じます。

 みなさん、人類の生存を土台からたたき壊しつつある投機マネーの暴走を、もしも抑えられないとしたら、資本主義に世界経済の管理能力なしといわなければならないではありませんか。(「そうだ」の声、拍手)

地球環境問題――史上最大の「市場の失敗」と、エンゲルスの警告

 第三は、地球環境問題です。

 いま、地球温暖化が大問題となっていますが、その原因が資本主義の経済活動にあることは、いまやだれも否定できないことです。

 世界の科学者の知見を結集した国連IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は、地球温暖化を、「一七五〇年の産業革命以降の人間活動」、すなわち資本主義の経済活動が原因だと断定しました。

 英国政府が発表した報告書「気候変動の経済学」には、「気候変動は、……いまだかつて見られなかった、非常に深刻で広範囲におよぶ市場の失敗である」と書かれています。温暖化は、人類史上最大の「市場の失敗」、つまり資本主義の失敗であるということを、資本主義の母国であるイギリス政府の報告書も認めているのであります。

 テレビ朝日の番組で、私は、マルクスの盟友のエンゲルスが『自然の弁証法』という著作のなかで述べた次の一節をフリップにして紹介しました。

 「われわれ人間が自然にたいしてかちえた勝利にあまり得意になりすぎないようにしよう。そうした勝利のたびごとに、自然はわれわれに復讐(ふくしゅう)するのである」

 エンゲルスは、たとえば農地をえるために、森林を根こそぎ引き抜いてしまい、森林の保水力を破壊して、大地を荒廃させてしまったなどの例を引いて、「自然の復讐」ということをいろいろな角度から論じたうえで、こう続けています。

 「これまでのすべての生産様式は、労働のごく目先の最も直接的な効果を達成することしか眼中におかなかった。……もっとあとになってはじめて現われ、ゆっくりくりかえされ累積されることによって効果を生じてくる諸結果は、まったく無視されつづけた。……このことが最も完全に実行されているのは、……資本主義的な生産様式においてである」

 「利潤第一主義」――できるだけ多くのもうけをあげることを本性とする資本主義が、「ごく目先の直接的な効果」――つまり目先のもうけしか眼中になく、エンゲルスの言葉でいえば、「あとになってはじめて現われ、ゆっくりくりかえされ累積されることによって効果を生じてくる」ことは、まったく無視し続けてきた。そして、「自然はわれわれに復讐する」。これは、今日の地球温暖化に恐ろしいほど当てはまる警告ではないでしょうか(拍手)。地球温暖化も、その解決ができないならば、資本主義に地球の管理能力なしという大問題をつきつけているのであります。

 こうして貧困と飢餓、投機マネー、地球温暖化などは、「資本主義は限界か」という大きな問題を投げかけています。資本主義がこの問いにどこまで答えることができるかは、今後の大問題です。

 ただ、今の時点でもはっきりいえることがあります。それは、十七年前に「わが世の春」を謳歌(おうか)した「資本主義万歳」論には、根拠も道理もなかった、この問題で歴史は日本共産党に軍配をあげたということであります。(大きな拍手)

 そして、いま起こっている変化は、社会と経済の枠組みを根本から問う大きな新しい時代が始まったことを予感させるものがあります。

綱領は、地球的課題の解決でも、しっかりした回答をしめしている

 これらの地球的課題の解決でも、綱領はしっかりとした回答を示しています。

 第一に、日本でまずめざすべきは、資本主義の枠内での民主的改革であり、経済の分野では、「ルールなき資本主義」の現状を打破し、国民の生活と権利を守る「ルールある経済社会」をつくることにあります。

 自民党政治は、先ほど述べた一連の地球的課題に、すべて背をむける態度をとっています。彼らは、投機マネーの規制に背をむける態度をとりつづけています。わが党の議員が追及すると、町村官房長官などは、「お知恵があれば教えていただきたい。……まことに悩ましい」などと答えます。たしかに政府には「知恵」もありそうにはありませんが、もっとないのは「やる気」であります。(笑い)

 環境問題でも、温室効果ガスの削減の意思も目標も計画も示さず、環境NGOから何度も「化石賞」を授与されているのが日本政府です。

 これらは、すべて財界の横暴勝手を野放しにした「ルールなき資本主義」と深く結びついています。この異常な大企業中心主義をただすことは、日本国民の貧困打破、生活擁護にとってのみならず、環境、投機、食料など地球的課題で日本が積極的役割をはたすうえでも、避けて通れないものとなっていることを、私は強調したいのであります。(大きな拍手)

 国際的には、私たちの綱領では、「すべての国の経済主権の尊重および平等・公平を基礎とする民主的な国際経済秩序」をつくることを課題としていますが、これがいよいよ重要になっています。貧困と飢餓、投機マネー、環境問題なども、国際社会が共同して解決のための枠組みをつくり、多国籍企業や国際金融資本の横暴を抑えることが、いま強く求められています。

 そのさい、私が強調したいのは、「新自由主義」を世界中に押し付け、貧困、飢餓、投機をひどくし、世界の人民から怨嗟(えんさ)の的とされてきた三つの国際機関があることです。一つはIMF(国際通貨基金)、二つ目は世界銀行、三つ目はWTO(世界貿易機関)です。この三つの機関を、アメリカ中心の機関から、世界の国々の人民の声が反映した機関へと民主的に改革していくことも、差し迫った課題だということを、私は訴えたいと思います。(拍手)

 第二は、これらの地球的課題を解決していくうえでも、やはり、資本主義を乗り越えて、新しい社会をめざす流れが成長し、発展することが必然となってくるだろうということです。

 発達した資本主義国には、「地球と世界の管理能力」が、いまきびしく問われています。その点では、洞爺湖サミットには、落第点をつけるしかありません。環境でも、投機でも、食料でも、世界の大問題に何一つ前向きの回答を出せませんでした。フランスの新聞「フィガロ」は、「金持ちクラブの無力さ」と書きました(笑い)。イギリスの新聞「インディペンデント」は、「キャビアやウニを食べつつ食料危機を考慮」(笑い)。痛烈な批判です。

 ただ、発達した資本主義国の中でも、ヨーロッパなどでは、地球環境問題で資本主義の枠内でも、ぎりぎりまでの努力が探求されています。それでも、わが党が、先日、欧州に調査団を出したさいに、ドイツ連邦議会の環境問題副委員長と懇談したら、こういったそうです。「利潤第一の考え方では温暖化は止められない。社会システムの根本的改革が必要だ」。つまり、資本主義の枠内でぎりぎりまで努力したとしても、「利潤第一主義」という枠内では、なお問題が解決できない。そういうプロセスをへて、「社会システムの根本的改革」――すなわち資本主義を乗り越える新しい体制への前進の条件が熟してくるのではないか。これが私たちの展望であります。

 発展途上国のなかからは、資本主義の枠内では経済的前途は開けないと、「新しい社会主義」を模索する動きが始まっています。この間、ボリビアで左翼政権が誕生しましたが、モラレス大統領は国連総会の壇上から、戦争と飢餓をなくすためには、「資本主義を一掃することが重要だ」と述べました(拍手)。国連総会の壇上から、“資本主義を一掃せよ”という発言が出たのは、史上初めてだと思います。ベネズエラのチャベス大統領は、「資本主義は経済と社会のまやかしでありゆがみである」として、「社会主義はラテンアメリカと世界で広がるメッセージとなっている」と述べました。

 ラテンアメリカでの「新しい社会主義」への模索は、「崩壊したソ連社会は社会主義とはいえない」ときっぱり拒否している点でも、選挙によって国民の多数の支持をえて社会主義をめざす人類史上初めての試みという点でも、私は、期待をもってこの動きに注目していきたいと思います。(拍手)

 中国、ベトナム、キューバなど、社会主義への独自の道を探求する国々は、国際社会での経済的比重を高め、貧困問題の解決などでは世界でも注目される成果をあげています。これらの国々が、政治的・経済的に未解決の問題をいかに解決し、さらに貧困と格差、環境、投機など、新しく提起されている地球的課題にどう立ち向かうのか。これらの「社会主義をめざす国々」には、資本主義に代わる「体制交代能力」が問われているわけであります。私は、これらの国々が、「社会主義をめざす国」ならではの先進性を発揮し、さまざまな複雑な問題、困難を乗り越えて、社会発展の道を進むことを強く期待するものです。(拍手)

 私たちの綱領では、まず資本主義の枠内での民主主義革命をすすめたうえで、次の段階では、国民の合意をえて、搾取も、抑圧も、戦争もない、真に平等で自由な人間関係からなる共同社会――社会主義・共産主義の社会にすすむことを展望しています。きょうの講演の主題は、「正義と道理に立つものは未来に生きる」ですが、社会主義の展望が「未来に生きる」かどうかの答えは、まだ出ていません。その答えを出すのは、二十一世紀を生きる日本と世界の人民のたたかいです。とくに、若い方々のたたかいだということを、私は期待をこめていいたいと思います。(拍手)

 同時にみなさん、社会主義というのは、なによりも、資本主義批判から生まれたものです。ですから、世界の資本主義が直面している、先ほど述べた矛盾の深さを見るならば、前途にさまざまな曲折や波乱はあったにしても、人類がこの苦痛と矛盾に満ちた体制を乗り越え、社会主義にすすむことは必然だと、私は確信を持って言いたいと思います。(大きな拍手)

 みなさん、この理想と固く結びついた日本共産党という名前を高く掲げて、ともに進もうではありませんか。(大きな拍手)

総選挙勝利へ――人間的連帯で結ばれた不屈の党・日本共産党への入党を訴える

 きょうは、「正義と道理に立つものは未来に生きる」ということを、いろいろな角度からお話しさせていただきました。日本と世界の前途が問われた「決定的な場面」で、日本共産党がつねに国民の利益に立って行動したこと、その根本には「大企業中心」「アメリカいいなり」という二つの政治悪をただして、「国民が主人公」の日本をめざす綱領の立場があることをお話しいたしました。

 どんな問題でも、古い政治の中身を大本から変える展望を示し、行動している党は、日本共産党をおいてほかにありません。今度の総選挙の焦点は、政権の担い手の選択にあるのではなくて、政治の中身の変革にあります。日本共産党を伸ばして、国民の利益にかなった政治の中身の変革の道を開こうではありませんか。日本共産党への絶大なご支持を、心から訴えるものであります。(歓声、大きな拍手)

 私たちはいま、この総選挙で勝つためにも、強く大きな党をつくる運動にとりくんでおります。私が最後に訴えたいのは、きょう述べた私たちの綱領の立場に共鳴してくださった方は、どうか私たちとともに社会進歩を進める道を選んでいただきたい、日本共産党に入党していただきたいということであります。(拍手)

 七月十八日は、戦前、戦後の日本共産党の指導者、宮本顕治さんが亡くなって、一年目の命日となりました。宮本さんが残した言葉の中でも、とりわけ私の心に深く刻まれている一節を紹介したいと思います。戦後、一部の人々が、小林多喜二の文学を一面的にゆがめ、戦前の日本共産党のたたかいを人間性を無視したたたかいであるかのように攻撃したことがありました。宮本さんは、それにきびしく反論して、「真の人間性とは何か」について、次のように述べています。

 「もちろん共産党員個人としても、生きることに反対な人間はおりません。小林も二十代であれほどの仕事をした作家であります。お母さんもあった、弟もあった、これにたいして彼は非常な愛情をもっていた。自分の仕事にたいしてもたくさん抱負をもっていた。しかし、全力をあげて生きるためには、その生きることにたいして、不当にこれを妨害する迫害にたいして、頭(こうべ)を下げない。下げないということ、このたたかい方、これはある意味ではもっとも気高い人間性の発揮の一つであります」

 戦前の日本で、「生きることへの不当な迫害」とは、弾圧、投獄、拷問など、まさに野蛮な形をとってあらわれました。多喜二自身も、二十九歳という若さで拷問によって命を奪われました。

 現代では、戦前と同じような暴力的弾圧はできません。しかし、「生きることへの不当な迫害」は存在します。若者を使い捨てにする労働、お年寄りを「うば捨て山」に追い立てる差別医療、農家の未来を奪う亡国の農政、社会を覆う貧困の広がり。そうした「不当な迫害」に頭を下げない、傍観もしない、不屈にたたかって新しい日本をめざす、そういう生き方にこそ、現代においても最も価値ある人間的な生き方があると、私は、信じています(拍手)。そして、一人ひとりの条件はさまざまでも、そうした生き方で結ばれた人間集団が日本共産党だということをいいたいと思います。(大きな拍手)

 同時に、みなさん、私が強調したいのは、日本共産党という党が、温かい人間的連帯で結ばれた党だということであります。今の日本社会を見渡しますと、あまりに人間が人間として大切にされない、寒々とした状況が作り出されています。とくに「新自由主義」が横行するなかで、国民のなかに「対立」と「分断」を持ち込み、ばらばらにした個人に「自己責任」を押し付ける風潮が広げられています。「正社員と非正規社員」、「お年寄りと若い世代」、「生産者と消費者」などと、意図的に「対立」をつくって、「分断」をはかるのが、相手の常とう手段であります。とくにいま多くの若者が、「自己責任」論によってがんじがらめにされ、苦しい生活のうえに、それが自分の責任であるかのように、「二重の苦しみ」を押し付けられるなかで、困難をのりこえて連帯をつくり、未来を切り開こうと苦闘しています。

 そうした社会にあって、私たちは、まず日本共産党が、そうした「分断」をのりこえて、温かい人間的連帯で結ばれた人間集団となれるよう、努力しています。そして、相手が国民の中に「対立」と「分断」を持ち込むならば、それにたいして社会的連帯で反撃しよう、さらに反撃にとどまらず社会的連帯で新しい政治をつくろうと呼びかけ、国民のなかに温かい絆(きずな)で結ばれた広大な革新と平和の共同の流れをつくる一翼を担っているのが日本共産党であります。(大きな拍手)

 私自身、大学一年生の時に入党し、今年で三十五年になりますが、「入ってよかった」(笑い)と、心から思っております。実にいいところですよと(笑い)、いいたいと思います。(拍手)

 政治や社会の不正義に立ち向かう不屈の党、温かい人間的連帯で結ばれた党、日本共産党に入党し、たった一度きりしかない、大切なかけがえのない人生を、私たちとともに歩まれることを、私は、心から訴えるものであります。(大きな拍手)

 みなさん、日本共産党を強く大きくして、総選挙に必ず勝とうではありませんか。(大きな拍手)

 正義と道理に立つものは未来に生きる――このことに確信をもち、社会的連帯の力で新しい政治をつくろうではありませんか。(歓声、大きな拍手)

 日本共産党創立八十六周年万歳(「万歳」の声と歓声、割れるような拍手)。ご清聴ありがとうございました。(長く続く大きな拍手)