2008年3月20日(木)「しんぶん赤旗」

国政の基本問題にどうのぞむか

CS放送 志位委員長が語る


 日本共産党の志位和夫委員長は十八日、CS放送・朝日ニュースター番組「各党はいま」に出演し、世界経済の動向や日銀総裁人事問題、国会論戦の課題について語りました。聞き手は、朝日新聞の坪井ゆづる編集委員です。


アメリカ経済の危機――日本経済の軸足の転換が必要

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(写真)CS朝日ニュースターで語る志位和夫委員長

 坪井 世界経済が大変なことになっています。かたや日本では日銀総裁がどうなるのか。アメリカの話からまずお願いします。

 志位 いまのアメリカ経済は、投機経済が大きな破たんを遂げつつあるということだと思います。すなわち、サブプライムローン問題という、もともとはアメリカ国内の住宅ローンの焦げ付きの問題であったものが、証券化という形で世界中にばらまかれたために、アメリカを中心に主要国の大銀行に大損失が生まれ、信用不安がおこり、アメリカ経済の失速、ドル急落となった。投機マネーの暴走を特徴とする新自由主義経済が、大きな破たんを遂げつつあるのです。

 ですから、そういうときに日本がどういう政策をとるのかが非常に大事です。日本政府も「投機マネーをよびこむ」などという金融緩和の政策をとってきた。大企業、大銀行には大もうけをさせながら、経済の全体の構造としては、外需頼み、輸出頼み、内需ないがしろ、とくに国民の家計と消費をないがしろにしてきた。アメリカ経済の失速のもとで、こういうやり方を続けていけば、日本経済の行き詰まりをいよいよひどくします。

 世界の動きとの関係でも、「構造改革」、新自由主義の政策を転換する必要があります。すなわち、経済政策の軸足を大企業から家計・国民に転換させる。そして内需主導の経済、とくに家計・消費が主導する経済をつくっていく。そのためには働く人の賃金を上げる必要がありますし、重税や負担増をやめる必要がありますし、大企業には応分の社会的責任を果たし、社会的コストを負担してもらう、こういうところに切り替えていく必要があります。

世界経済の力関係の変化――アメリカ追随の新自由主義を続けていいのか

 坪井 なるほど。サブプライムローン問題というのは十年前に日本の住専問題みたいなかたちで不良債権が問題になりました。あのとき不良債権はこれだけしかないといっていたのに、こんなにありますとどんどん出てきた。これと同じような構図ですね。

 志位 同じ構図という面もありますが、違う点はサブプライムローンというのは証券化されたわけです。他の債権ともごちゃまぜにされて、世界中にばらまかれた。そうしてグローバルな経済秩序の混乱と危機を招いたという点では、住専問題とは違った非常に深刻な問題に発展しています。

 新自由主義的な投機経済、投機マネーの暴走は、どうしても抑える必要があります。昨年のドイツのハイリゲンダム・サミットのさいに、ドイツなどが投機マネーにたいする国際的規制を提起しましたでしょう。とくにヘッジファンドにたいして、情報公開などの規制措置に一歩踏み出す必要があると提起した。しかし、日米などが反対して実現しなかった。こういう姿勢は、根本から転換する必要があります。

 いま世界の経済全体を見ても、「先進国」の経済が失速しています。IMF(国際通貨基金)の今年の予測を見ても「先進国・地域」の経済成長は1・8%と低い。それにたいして、「新興国・途上国」といわれる国々の経済成長は6・9%とたいへん高い予測です。平均すれば世界全体で4・1%です。少し前までは、アメリカを中心とするサミット諸国が圧倒的な力を持って世界経済を支配していたけれど、力関係が大きく変わりつつある。「先進国」のほうがいわば投機マネーに荒らされて、不安定かつ脆弱(ぜいじゃく)になっている。対照的に「新興国・途上国」といわれる国々の経済のほうが、内需中心、実物経済中心で、比較的に健全な発展をして、世界経済の発展の推進力となり安定性を保証している。世界の力関係は、経済でも大きく変わってきているのです。

 そういう世界にあって、日本がアメリカ追随の新自由主義、市場原理主義、投機資本主義、そういう道を進んでいいのかが深刻に問われています。

日銀の総裁人事――日本共産党の基本的姿勢について

 坪井 日銀の総裁人事で国会が右往左往していますが。

 志位 日銀総裁というのはどういう資質を持つべきか。国民経済の健全な発展に責任を持てる人物がなるべきなのです。直接責任を持つのは金融政策ですが、国民経済全体を見て、健全な発展に責任を持てる人物がふさわしい。

 (政府が最初に提示した)武藤敏郎氏にわが党が反対した理由も、いわゆる「財政と金融の分離」という立場からではなく、武藤氏がすすめてきた金融・財政政策を評価するならば、金融政策では、超低金利政策をすすめ庶民の懐から莫大(ばくだい)な利子所得を吸い上げた。財政政策では、財務省の事務次官だった時代に、小泉内閣の「骨太の方針」で、社会保障費の自然増を最初の年は三千億円、次の年からは二千二百億円ずつ削るレールを敷いた。これが年金、介護、医療など、社会保障のあらゆる分野の切り捨てを招いている。ですから、金融の点でも、財政の点でも、国民不在という姿勢は評価できません。

 坪井 政府のやり方をどう思いますか。

 志位 当事者能力がないという感じがしますね。武藤氏では駄目だということは、日本共産党は一貫して言っていましたし、野党全体がそうだったわけですよ。ですから、野党全体が受け入れられる方を提示するということを最初から真剣に追求すべきだった。

 坪井 福田さんのやり方が強引だったと。

 志位 この問題についての責任は政府にあります。その当事者能力を疑うような対応だと思います。いまからでも、野党全体が賛成しうる方をきちんと提示するというのが政府の責任です。

雇用・医療・農業――国民生活の土台の問題について正面から議論すべき

 坪井 国会をみると、日銀総裁どうなるか、道路特定財源がどうなるかにスポットがあてられ、われわれもそれを報じますが、共産党からすると違う視点がおありになる?

 志位 そうですね。もちろん日銀総裁の問題は、たいへん大事な問題です。道路特定財源も国政の重要な問題であり、とくに十年間で五十九兆円の「道路中期計画」という「総額先にありき」の方式で、高速道路をつくりつづけていいのかという問題などについて、私たちは、大いに重視して論戦してきました。

 同時に、いまの国民の暮らしの実態の全体をよく視野に入れて政治の責任を果たす、そのための論戦がたいへんに大切になっていると思います。

 とくに貧困と格差は、いよいよ国民的な大問題になっています。ワーキングプアとよばれる懸命に働いても生活保護水準以下の暮らしを強いられている方がたくさんいる。この問題はいったいどうなっているのか。ここではいくつかの大問題が、現在進行形で熱く問われていると思うんですね。

 たとえば雇用という点では、派遣労働がどんどん広がって、人間を使い捨てにするような働かせ方が大問題になっている。これは抜本的な法改正が必要ではないかという世論と運動が大きく広がりつつあります。この問題を私たちは国会で重視してとりあげ、日本経団連の会長企業であるキヤノンが正社員をどんどん派遣に置き換えている実態も明らかにして、日本社会の大問題として提起しました。この問題は、改善に向けて一歩動きつつありますけれども、たたかいはこれからがいよいよ大切になっています。

 社会保障という点では、四月に実施が予定されている後期高齢者医療制度に、国民の怒りが殺到しています。とくに七十五歳という年齢で区分して、健保や国保から無理やり脱退させ、別枠の医療制度に囲い込んで、負担増と給付減を強いると。

 坪井 これは国会論戦で、小池(晃政策委員長)さんが追及された。これはどこが一番けしからん点ですか。

 志位 年齢を重ねただけで差別するということです。負担が増えるだけではなくて、診療報酬も別建てになって、結局、お金をかけないということです。二〇二五年には、この制度で医療費を少なくとも五兆円も削減するという。いまの「団塊世代」を狙いうちにしているのです。七十五歳以上のお年寄りには、できるだけ医療にお金をかけないようにしようというのは、許せない。本来だったらお年寄りには手厚い医療が必要なのに、手抜きの医療をやっていこうというシステム――文字どおりの差別医療です。ここに国民の一番の怒りがありますね。小池さんが、参院予算委員会で、この点に正面から切り込んで、大きな反響をよんでいますが、怒りの焦点はそこにあると思います。野党四党として中止法案を出していますが、ぜひ撤回に追い込みたい。

 もう一ついいますと、農業の問題です。いよいよ日本の農業は断がい絶壁に追い込まれているという状態です。米価の下落で、農家の経営がいよいよ立ち行かなくなり、食料自給率は39%まで下がりました。その一方で、世界をみれば、全体として穀物・食料がひっ迫しているということにくわえて、投機マネーの影響で穀物の価格があがるという問題があります。これまでのように食料は外国から安く輸入していればいいということでは、すまなくなってきているわけです。「安全な食料は日本の大地から」という立場で自給率を引き上げることは急務です。そのためには農家の経営をしっかりと安定させる支援が必要です。私たちは「農業再生プラン」を出し、大いに懇談をはじめていますが、農業の問題も一刻も猶予ができない大問題です。

 いま国政では、日銀問題、道路特定財源などが話題の中心になっています。これはこれで大事な問題であり、私たちは国民の立場にたって積極的役割を果たします。同時に、そこだけに視野を狭めたら政治の責任を果たすことはできません。雇用や、医療や、農業など、国民生活の土台の問題、いま国民が一番苦しんでいる問題について、そしてどれも熱い問題になっているわけですから、国会が正面から議論して打開策を見いだしていくことが大事だと思っています。

日本共産党の「農業再生 プラン」について

 坪井 農業でいうと、昭和一ケタの生まれの方々が最後、いま一生懸命農家でがんばっています。そういう人たちが「あと五年、十年すれば農作業ができなくなる」「そういうときに米を中心とした農業はどうなるんだろう」とみんな漠として不安をもっていると思います。去年の参院選のとき民主党が戸別補償を打ち出しましたが、共産党の「再生プラン」は具体的にはどういうものですか。

 志位 いくつかの柱がありますが、うんと大きな柱でいいますと、まず農産物の価格保障を中心としながら所得補償を組み合わせて、再生産を保障する。価格保障というのは、生産費を保障するということです。お米でいうと生産費は一俵一万七千円はかかる。ところが、いま一万四、五千円まで下落してますでしょう。この不足分を「不足払い制度」として保障することを提唱しています。アメリカなどもやっている制度です。価格保障は、お米だけでなく、他の主要な農産物にたいしてもおこなう。

 そのうえに所得補償を上乗せするという考えです。農業は環境・国土を保全するという役割をもっています。ただ食べ物をつくっているだけではありません。そういう役割なども考えて、価格保障を中心としながら所得補償を上乗せする。お米だったら、両方の組み合わせで一俵一万八千円の生産者米価を保障する。そのくらいのことをしませんと、意欲をもって米づくりにとりくめません。

 もう一つは、歯止めのない輸入自由化にストップをかけることです。価格保障をいくらやっても輸入自由化を際限なくすすめたら、穴の開いたバケツに水を入れているようなもので、お金がいくらあっても足りません。国境措置の維持・強化は当たり前のことです。

 いま世界でも、食料主権という考え方が主流になっています。その国の食べ物についてはその国で自給する。そのために必要な国境措置や価格保障をおこなう。それはその国の主権だという考え方です。これは国連人権委員会でも採択されていることです。日本も賛成しているわけですから、こうした立場でWTO(世界貿易機関)農業協定の改定を求める必要があります。

 坪井 先日、朝日新聞の社説で「減反政策をやめたらどうか」「米を自由につくろう」というのを提唱したのですが。これはどうですか。

 志位 強制的な減反は、深刻な矛盾をもたらしますから、私たちは反対ですが、一定の生産調整は必要になってきます。そのさい、生産調整で、他の作物に転作しても、その作物でちゃんと農家経営がやっていけるように、転作作物への手厚い支援をおこなう。それと並行して生産調整をすすめる。強権的なやり方でなく、農家が自主的・自発的に選んでいけるようなやり方が必要です。

 坪井 農家の方々にお金が当然いくようにしなければいけない。そのお金をどこからもってくるんですか。

 志位 農業予算が約二兆円というなかで、価格保障・所得補償予算はあわせて五千四百億円しかないんですよ。農業土木事業費は六千七百億円と多い。まずこの組み替えをやる必要があります。それから農業予算の全体が、小泉「構造改革」以降、九千億円近く削られていますから、これを一定程度もどす必要があります。

 坪井 これを後半国会でもっと話題にしていくと。

 志位 地に足をつけて、国民生活の土台の問題について、また平和と外交について、じっくり議論することが国会に求められている責任だと思います。