2007年5月25日(金)「しんぶん赤旗」

「靖国」派改憲論、教育論について

CS放送「各党はいま」 志位委員長が語る(要旨)


 日本共産党の志位和夫委員長は、二十三日放映のCS放送・朝日ニュースターの番組「各党はいま」に出演し、憲法問題などについて、朝日新聞の根本清樹編集委員の質問に答えました。


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(写真)インタビューにこたえる志位和夫委員長=23日、党本部

矛盾広げる安倍改憲論

 ――安倍晋三首相は参院選で憲法改定を争点にすると言っていますが。

 志位 私たちは、正面から受けて立って、論戦を通じて改憲派を追いつめ、日本共産党の前進で痛打を与える選挙にしていきたいと思います。

 ――首相は、二〇〇五年の自民党「新憲法草案」を有権者に読んでもらうと言いますが。

 志位 「新憲法草案」は、自衛軍が明記され、海外での軍事活動が明記されています。それ自体、安倍首相の言葉でいえば「米国と肩を並べて武力行使をする」日本をつくる宣言です。

 これは、自民党全体のコンセンサス(合意)としてつくられてきたものですが、安倍首相の場合は、もう一つ、新しい問題――過去の日本の戦争を正当化する「靖国」派の異常な立場が加わってくるわけです。

 首相は、政治経歴からいっても、信条は「靖国」派そのものです。彼の内閣も、「靖国」派で固めた「靖国」派内閣、「靖国」派の“総本山”である団体の名前をとって「日本会議」内閣といってもいい。

 そういう勢力――過去の戦争は正しかったとし、戦前・戦中の日本を「美しい国」だといって美化する勢力が、九条をかえて海外に出て行こうとする危険は、新しい危険です。同時に、新しい矛盾も広がります。大いにたたかいを前進させることは可能だと思います。

見えてきた安倍流「道徳教育」の正体

 ――教育問題でも道徳主義のような「安倍色」が出ています。

 志位 私たちは、子どもたちに民主的な市民道徳をきちんと伝えていくことは大事だと思っています。しかし、国家が法律に「教育の目的」として、あれこれの「徳目」を書き込み、義務づけることは、時の政府の意思によって「特定の価値観」を押し付けることになり、思想・信条・内心の自由を侵害することとなる。憲法違反だと私たちは批判してきました。

 いま、重大なことは、安倍内閣が押し付けようとする「特定の価値観」の中身が、「靖国」派の「道徳」だという問題です。「日本会議」などの文章を読みますと、やり玉にあがっているのは(1)「権利偏重の教育」(2)「自虐的な歴史教育」(3)「ジェンダーフリーの教育」などです。

 しかし、「権利偏重」と攻撃しているのは、国民が権利をまっとうに主張することそのものです。「靖国」派の考え方は、国民に権利を与えるのは国家であり、そのかわりに国民は義務を負うというものです。しかし、基本的人権は、国家が与えるものではなく、人間が生まれながらに持っているというのが、近代民主主義の大原則です。それを国家は侵してはいけないと、国民が国家を縛るのが憲法です。「靖国」派は近代の立憲主義をまったく分かっていません。

 「自虐的な歴史教育」というのは、過去の侵略戦争はまちがっていたと、歴史に真摯(しんし)に向き合うこと自体を攻撃したもので、戦争美化論そのものです。

 「靖国」派は男女平等の教育を「ジェンダーフリー教育」といって敵視します。教育基本法改悪で男女共学の条項が削除されたのも、偶然ではありません。「靖国」派のなかには、男女共同参画社会基本法を廃止せよと叫んでいる集団もいますし、彼らは夫婦別姓には絶対反対です。

 要するに、彼らがめざしているのは戦前のような国です。「家」の制度があって、男が家長で、女はそれに従う、それを基礎にしてずっと支配と被支配の体系があって、その頂点に天皇がいる――天皇中心の「国柄」という言葉を(「靖国」派は)使いますが、昔の言葉では天皇絶対の専制体制―「国体」ですね。

 こうした「靖国」派の「価値観」で、子どもたちの心をカーキ色(軍服の色)に染め上げてしまおうとしている。これはとんでもないことです。

安倍「靖国」派内閣の二重基準

 ――安倍首相も、立憲主義について、憲法は権力を縛るものと一応いっていますが。

 志位 安倍首相には、一種の二重基準があると思いますね。

 首相として「村山談話」「河野談話」を認めないといってしまったら、もう外交は成り立たない。立憲主義も、正面からは否定できません。首相の地位にある程度縛られているわけです。

 しかし一方で、腹心の下村博文官房副長官や山谷えり子首相補佐官などが中心になってグループをつくり、それに「靖国」派の本音を言わせるわけです。それを首相は抑えようとしない。

 「靖国」派の自民、民主の議員集団が五月三日に独自に「新憲法大綱案」をつくりましたが、「集団的自衛権」の行使とともに、「国防の責務」、「人権制約原理」を盛り込むなど、立憲主義の否定が丸出しです。

 首相としての発言はある程度抑制せざるをえない、そのなかでも「従軍慰安婦」発言にみられるように本音は出てきますが、「靖国」派のほんとうの本音は腹心にいわせるという二重構造になっています。これは国民にたいして、また世界にたいしても、非常に不誠実なやり方です。

安倍改憲論に正面から立ち向かう「たしかな野党」のがんばりどころ

 ――民主党は、参院選の争点を憲法より生活だといっていますが。

 志位 もちろん、貧困と格差の問題をどう打開していくかは大争点にしていきたいと思います。

 同時に、相手が憲法を争点に出してくるときに、憲法論議から逃げてしまったら、これはまともな野党とはいえません。この問題でも堂々と対峙(たいじ)してこそ「たしかな野党」といえます。私たちは、正面から受けてたちます。

 民主党が、憲法問題をまともにいえないのは、憲法改定、九条改憲では同じ流れにあるからです。

 もう一ついえば、「靖国」派は自民、民主両方に根をもっているわけです。「靖国」派の「新憲法大綱案」も、自民、民主の議員が一緒になってつくっているというところが重大です。そういう問題点を抱えている以上、論争をやりたくてもやれない。議論をすれば同じ流れだということが明らかになってしまいますから。