2003年7月25日(金)「しんぶん赤旗」

CS放送朝日ニュースター 志位委員長語る

当面する政治問題についての日本共産党の立場


 日本共産党の志位和夫委員長は二十三日放映のCS放送・朝日ニュースターの番組「各党はいま」に出演し、党綱領改定案の討議や通常国会の基本的な総括、さらに細川連立政権から十年を迎えた政治状況などについて質問に答えました。聞き手は、朝日新聞編集委員の星浩氏でした。


辻元氏の逮捕――
「名義貸し」が事実なら許されない
捜査当局は、政治的中立と、公正を重視して対応を

 星 いま(社民党)辻元清美前議員が秘書給与の問題で逮捕された事件についてどういう感想をお持ちですか。

 志位 逮捕の容疑は、いわゆる「名義貸し」ということがやられていたという容疑ですが、これが事実としますと、国民の大事な税金にかかわってきますから、許されないことだと思います。

 ただ、捜査当局の側の対応としては、政治的な中立性、あるいは公正さを重視して、対応してほしいと思います。

 星 この件にからんで、一部の政党から、共産党の秘書についても問題があるんじゃないかという指摘も出ていますけれども、簡単に説明していただけますか。

共産党は公明正大に対応している

 志位 私たちはまったく公明正大な対応をしています。すなわち、私たちの場合には、国会議員の秘書のなかで、政策秘書、第一秘書、第二秘書を含めて、実態がないというケースはもちろん一人もありません。みんなしっかり仕事についている。できるだけ慎むべきとされている親族(を秘書にする)などのケースもありません。それから給与は、全額本人の口座に振り込まれて、そしてそれぞれの自主的な意思によって一定分寄付をしているという事実はありますが、寄付は自由ですから。寄付の分は(国会秘書団の)共同の経費としてあてられています。

綱領改定案――
ひじょうに積極的反応が党内外からよせられ、討論がはじまっている

 星 さて、綱領改定というひじょうに大きい作業が進行中ですが、提起されていま意見の集約中ということですが、いまのところどのような反応、手ごたえがあるのでしょうか。

民主主義革命論とともに、未来社会論への大きな反響

 志位 ひじょうに積極的な反応が、党内外から返ってきています。七月十八日に不破議長が綱領改定の中心点について、国民のみなさんへの話として、まとまった形で話したのですが、これも全国で一万五千人ぐらいの方がCS通信でみて、大きな反響がありました。

 とくに民主主義革命と私たちがよんでいる、当面の変革の内容を豊かに明らかにしたこと、国際情勢でも二十一世紀の全体を見渡す新しい解明をおこなったこと、くわえて未来社会論ですね。改定案では、社会主義・共産主義という未来社会論の部分はすっかり書きなおしたわけですが、とくに「生産手段の社会化」ということを前面に押し出して、それをやれば、人間の豊かな発達の可能性、経済のほんとうの意味での質的・量的な発展、そして資本主義のいろいろな矛盾の解決の道が開かれる。雄大な展望を未来社会論として押し出したことへの反応も強いですね。

 星 中身として、よくわれわれが注目した自衛隊の問題や天皇制の問題、そのへんに対する反応はどうでしょうか。

天皇制と自衛隊――理想の旗印は掲げながら、実現へのプロセスを明らかに

 志位 これは、一部に、「共産党はやわらかくなりすぎたんじゃないか」という誤解もあるんですが、今度の綱領改定案では、私たちの理想はあくまではっきり旗印として掲げる。たとえば、自衛隊でしたら、憲法違反の存在ですから、これは解消する。これが目標だとはっきりいっています。天皇制の問題についても、これは戦後に制度のあり方が大きく変わったのですが、一人の個人や家族が「日本国民統合」(の象徴)というのは、やはり民主主義の徹底からすると弱点ですから、将来的には私たちとしては、民主共和制の日本をめざすという、この大きな目標は変わらないんですよ。

 ただ、そこにいたるにはプロセスが必要です。それぞれ国民の合意をえながら、一歩一歩変えていく。自衛隊の場合は憲法違反の存在ですから、それにふさわしい対応が必要ですが、これも一定のプロセスがいる。それから天皇制については憲法とかかわってくる制度ですから、これは将来、機が熟したところでの解決となってきます。

 理想の旗印は変えない。ただそこにいたるプロセスをしっかり明らかにした。ここが大事なところなのです。

通常国会の総括――
異常な対米従属体制の打破、国民のくらしに軸足をおいた経済政策への転換が切実に

 星 話は変わって、百九十日の通常国会がそろそろ終わろうとしています。この通常国会をいまのところ振り返ってどう総括されていますか。

 志位 二つの角度があると思います。

 一つの角度は、この国会の最中にイラク戦争がおこり、それを日本政府がアメリカに言われるままに支持し、そしていまイラク派兵法案を通そうとしている。さらに、こういう流れのなかで有事法制の強行をやった。アメリカと一体になっての海外派兵体制づくり、アメリカいいなりの安保・外交政策のゆがみや矛盾が、こんなにあらわになった国会はないと思います。こんなに異常な従属体制を、二十一世紀もずっとつづけていいのかということが、根本から問われています。

 もう一つの角度というのは、そのなかでも国民のくらしはますます大変になっているわけです。いまの経済は、株が下がったり上がったりということがいろいろありますが、一番の経済の実体である国民のくらし、とくに所得と消費は落ちる一方です。その落ちる一方のところに負担増をかぶせる。あるいはリストラの推進をやる。あるいは「不良債権の処理」と称して倒産を激増させる。こういう政策を、いわば“逆噴射”的に押しつけるというやり方は、この間もずっと続いてきています。

 経済の実体は、小泉さんの「改革」なるものをやればやるだけ悪くなる。ほんとうに国民のくらしに軸足をおいた経済政策への転換が、これほど切実に求められていることはないと思います。

 星 前者の方のイラク新法にからんでですが、実際、戦闘行為をしたアメリカ、イギリスのなかでも、正当性の問題について異議がでたり、議会で論議になったりしています。この動きはどのようにご覧になっていますか。

大量破壊兵器問題――ひんしゅく買った発言を得意満面くりかえす異常さ

 志位 これ(大量破壊兵器の問題)は、私は、いずれ深刻な問題に発展すると思っていました。党首討論でも、四月と六月に、繰り返しこの問題を取り上げて、首相の態度をただしたのですが、米英で起こっている事態というのは、ほんとうに深刻です。

 たとえば、アメリカでは、とうとうブッシュ大統領が、(イラクは)大量破壊兵器を「保有」していたということをいえなくなって、(ラジオ)演説のなかで、大量破壊兵器「計画」があったと言い換えています。「計画」ということであれば、極端な話、フセイン大統領の頭のなかにあっても、「計画があった」ということになるわけで、「保有」していたという自分たちの論を維持しきれなくなっている。

 ラムズフェルド国防長官も、「新しい劇的な証拠はなかった。九・一一というプリズムを通して見たら、古い証拠が新しく見えたんだ」という。要するに色めがねをかけてみたらそうだったということの告白です。

 イギリスはもっと深刻です。情報操作疑惑のニュースソースとされた人物を政府が非難して、(その人物が)自殺するということがありました。この問題が新しい調査の対象となって、ブレア政権はひじょうに深刻な事態に追い込まれています。

 そういう米英の事態にもかかわらず、小泉さんの対応を見ていますと、六月十一日の党首討論で、私が、この問題について、「保有と断定した根拠は」と聞いたら、例の「フセイン大統領が見つかってないけれども、いたことは間違いない」という論法をやりましたね。

 あのときは、私の質問に対する苦し紛れの答弁かと思ったら、その後も得意満面で繰り返している。オーストラリアのハワード首相にまで言って、「私はこうやって追及をかわしているんだ」と得意満面だったそうですが、あれだけひんしゅくを買った発言について、問題だと思ってもいないというところが、ほんとうに問題だと思います。

 こういう戦争の「大義」にかかわる重大問題に、すべてふたしたまま、ああいう危険な派兵をやるというのは、まったく言語道断です。強く反対して最後までがんばりたいと思います。

 星 結局、イラク新法についても、「戦闘地域」「非戦闘地域」の問題などで、どうも論議が深まらなかったという気がしますが。

イラク派兵法案の虚構性は明らか――国民世論も多数が反対に

 志位 深まらなかったというよりも、はっきりいって、むこうの議論が虚構だったと、これが明らかになったということではないでしょうか。

 すなわち、「戦闘地域」「非戦闘地域」という区分についても、米軍中央軍の司令官自身が、「イラク全土がゲリラ戦争をやっている最中にある」「われわれは戦争をたたかっているんだ」と言っているわけですから、実態上成り立たない話なのに、そういう虚構の議論を繰り返す。

 ですから、国民のみなさんはよくそこを見抜いていらっしゃって、「朝日」の世論調査でも、反対が多数ですね。「毎日」でも、反対が多い。反対という声がずっと広がるには、それだけのものがあるわけですね。これをやったら、憲法を踏み破る武力の行使になると、みんなわかってきている。この段階で強行するというのはほんとうに許されないことです。

 星 もう一方で、アフガンのテロ特措法の延長問題は、どうも次の臨時国会に先送りということですが、どう対応されますか。

テロ特措法――テロは戦争でなくせないという教訓をひきだすべき

 志位 この法律については、二つの面からの検証がいると思っています。

 一つは、テロを戦争でなくせたかという問題です。なくせないわけですよ。ビンラディンはつかまらない。なくならないどころか、カルザイ政権自身が実効支配ができない。地方は軍閥組織が支配している。アフガニスタン自体が、手がつけられないほど治安が悪化している。

 やはり、テロにたいして、戦争という対応をやったこと自体が根本から間違っていた。それを応援したことが間違っていた。この教訓をはっきりさせる必要があると思います。

 もう一つは、法律自体とのかかわりでは、アフガン戦争に対する支援だという名目で自衛隊の補給艦を出したのだけれども、実際はイラク戦争のほうも応援したということが明らかになっていますから、違法、脱法行為をやっていたということですね。こういう問題も、もう一方で糾明する必要がある。二重の意味できちんと検証して、きっぱりやめるということが必要です。

解散・総選挙――
綱領改定案を土台に、フレッシュな訴えをかかげ、おおいに前進をはかりたい

 星 臨時国会は解散・総選挙ぶくみということになっています。秋の総裁選挙と解散・総選挙、この動きについては、どのようにご覧になっていますか。

 志位 流れの全体は、年内の解散・総選挙にむけて、その可能性を色濃くしているということは、明らかだと思います。ですから、私たちは、それへの対応もしっかり念頭におき、選挙勝利のための取り組みをしっかりやらなければならないと思っています。

 星 総選挙近しということで、今回一つ話題としてマニフェストという問題がでています。共産党はいままである意味では先取りしているという面もあるのでしょうが、どのように評価されていますか。

「マニフェスト」――政治をかえる中身、公約に誠実かどうかが問題

 志位 選挙において、公約・政策をなんとよぶかは、それぞれだと思いますが、具体的なものを出すこと自体はあたりまえだと思います。

 私たちは、これまでの選挙のなかで、たとえば「財政再建十カ年計画」を出したことがあります。これは、期限と数値目標もいれて、どうやって財政を再建するかというプランでした。こうしたことは、私たち自身もいろいろやってきたことですし、今後もどんどん発展させたい。具体的な公約・政策を出すことは、私はあたりまえだと思います。

 ただ、問題はその中身です。野党でいうならば、やはり自民党の政治の基本をこう変えるということが必要です。私たちでしたら、たとえば、安保体制にメスを入れて、アメリカ追随の外交政策を根本から変えよう。あるいは「ルールなき資本主義」という問題にメスをいれて、大企業に社会的責任をはたさせるという問題を正面から提起しようと。「こう変えよう」という中身を私たちは太く出して訴えるつもりですが、大本のところでここを変えようというものがないといけない。それがないところで、かりに同じ流れの中で数値や期限を競い合うだけということになりますと、政治を変えたいという国民の期待にはこたえられないのではないか。

 与党の方をみますと、与党でもマニフェストといっているところがあるのですが、自分が出してきた公約をちゃんと実行してきたのか。逆のことをやってきたのではないか。たとえば、健康保険本人負担三割に引き上げ反対ということを選挙で公約にしていた政党が、三割負担の先頭に立ったということもありますから。そういう党が公約違反に口をぬぐってマニフェストといっても、これは信頼されないという問題があるでしょう。

 ですから要は中身、そしてこれまでの公約に誠実だったかどうか、これが問われるのではないでしょうか。

 星 総選挙での野党の選挙協力はいかがでしょうか。共産党の場合、地方選挙ではかなり候補者を出さないで協力するという面も出ていますが。

選挙協力――安保問題をはじめ基本政策の合意、ギブ・アンド・テークが必要

 志位 地方の首長選挙の場合、いろいろな過渡的なケース、あるいは特別なケースにいろいろな対応をすることはありますが、国政選挙となりますとそういう条件はないですね。

 私たちが選挙協力といった場合に、どういうことになるかというと、私たちがその選挙区では候補を立てないで、ほかの党の候補者を推してくださいということを、私たちの支持者のみなさんにお願いするわけですから、それだけの責任を持ったものでなければいけない。

 私たちは二つの条件がいると思っています。一つは、基本政策での政策協定。もう一つはギブ・アンド・テークですね。この条件が二つ満たされないと、責任ある対応にならない。その条件は残念ながらありません。

 基本政策でもいろいろな問題がありますが、日米安保体制を二十一世紀も続けるのか、それとも私たちがいっているようにこれをなくして平和友好の日米関係に転換するのか、これは大争点だと思うんですよ。今度のイラク戦争だってそこに根っこがあって、ああいうみじめな態度を政府はとるわけですから。

 この問題一つとっても、国民の中では、安保についての意見は、半々くらいに分かれるんじゃないですか。しかし残念ながら政党では安保体制を変えるといっている党は日本共産党しかないわけです。

 そういう現状ですから、野党はそれぞれがそれぞれの旗を立ててたたかうということではないでしょうか。

 星 この二年数カ月の小泉政権が続いて、一見立ち直った面も支持率的にはそうかもしれませんが、一方でひじょうに支持基盤の弱まり、その部分を公明党・創価学会が補うということがあったりしていますけど。自民党の五十年近くになる体制のほころびという点ではどうご覧になっていますか。

自民党支持基盤の深刻な崩れ――保守の方々との広い共同も

 志位 ひじょうに深刻な支持基盤の崩れというのがあると思います。地方に行くとどこでも共通しているんですが、これまで自民党の支持基盤といわれてきた、たとえば建設業界、商工会議所、医師会、農協、こういうところが自民党の政治が続いたら自分たちの現在も将来もないということで、かなり大規模に自民党から離れていく傾向が生まれている。そしてケースによっては私たちと協力関係がつくられる。こういうケースも全国各地であるわけです。そういう保守の方々と日本共産党が協力して新しい自治体をつくろうという流れも広がっています。

 この崩れというのはひじょうに深刻で、そこを創価学会・公明党の票が補っているということなんだけれども、そういうもので肩代わりしてもらうことを続けると、自民党はますます弱ってきますね。そういう矛盾をひじょうに深く抱えていると思います。

 これまで自民党を支持していたけれども、もういまの政治は変えなきゃならないと思っている方々の心に響くような、私たちの働きかけ、訴えかけをして、選挙での大きな前進にもつなげたいと思っています。

細川連立政権から10年――
自民党政治の「継承」でなく、ほんとうの民主的改革こそ必要

 星 自民党が初めて野党に転落して細川連立政権ができ、ちょうど今年で十年です。志位さんはこの十年間をどう総括されていますか。

政治腐敗をなくすには、企業・団体献金の禁止しかない

 志位 私も国会に入ったのが十年前でしたから、ちょうど重なる時期だったんですけど、この流れの中から二つの教訓を日本の政界はひきだす必要があるのではないかと思っています。

 一つは、自民党が野党に転落したというのは、ゼネコン事件、金丸事件など政治腐敗が大きな転機だったわけですが、政治腐敗をなくすといって選挙制度をいじってもなくならない。小選挙区制を導入したんだけど、政治腐敗事件は続くし、一向になくなる気配がないわけです。やはりこれをなくすなら、大本の企業・団体献金を禁止する。これ以外に方策はないんだということを、はっきりと十年間の総括としてやらなければならない。

 あのときは「政治改革」を選挙制度の改変にすりかえて、制度を変えればきれいになるんだという議論がずいぶんはやったものでしたけど、実際はそうじゃなかった。その判定を下してもいいんじゃないでしょうか。

 もう一つは、結局自民党の基本路線の継承、同じ流れの中で、担い手だけ変えたとしても政治は変わらないということです。細川政権が誕生して、いの一番にいったのは、「外交・内政で自民党政治の基本政策を継承します」ということでした。「継承」して、コメの輸入自由化とか、消費税7%を突然いってみたり、そして最後は金権事件で退陣する。まったく中身も体質も同じで終わったんですね。

 やはり「自民党政治の継承」ということでは政治は変わらない。自民党政治の基本――外交・内政の基本路線を改革するということでなければ、日本の政治は変わらないというのが大事な教訓です。同じ流れの中で二つの勢力が担い手を交代するということをやってもうまくいかない。日本の政治はよくなるどころか悪くなるだけだということが証明されたというのが、もう一つの教訓じゃないでしょうか。

 星 いまもご指摘があったんですが、小選挙区になると二大政党ができるとか、政策本位の論争になるんだというふれこみでスタートしたわけです。その小選挙区効果はあまり見えてこない気がするんですが、いかがでしょうか。

小選挙区制の害悪――民意を反映する制度への改革が必要

 志位 小選挙区の悪い効果はもうはっきりしているわけですね。一人しか当選しないわけですから、第二党、第三党、私たちは第四党ですけれど、そういう党が切り捨てられていく。実際は、むしろ少数意見が議会では議席の多数を占めるという逆転をつくっていく。民意の反映を困難にしたという悪い効果ははっきりしました。

 これをやっていいことは一つもない。さっきいった金権腐敗はなくならないどころか、いっそう狭い地盤でしれつな争いをやるなかで、お金がかかってくる。政策本位ということにも実際はなってないわけですよ。どういう論戦をやるかというのは、政党の姿勢と見識にかかわる問題なのです。比例代表中心のほんとうに民意が反映した制度に改革すべきだとずっといっていますが、それを真剣に考えなければならない状況じゃないでしょうか。

 星 そういう意味ではこの十年を総括する選挙にもなるということでしょうか。

 志位 自民党政治の「継承」ではなく、ほんとうの民主的な改革が必要です。今度の綱領改定案ではその民主的な改革の中身を具体的に書き込んだわけですが、それをもとにしたフレッシュな政策を掲げて大いに前進したいと思っております。