2003年6月20日(金)「しんぶん赤旗」

CS放送朝日ニュースター 志位委員長語る

延長国会に日本共産党はどうのぞむか


 日本共産党の志位和夫委員長は十九日放映のCS放送・朝日ニュースターの番組「各党はいま」に出演し、政府・与党による会期延長強行、イラク特措法案、政治倫理問題などについて質問に答えました。聞き手は、朝日新聞政治部記者の高久陽男氏でした。


イラク特措法案――無法な戦争にもとづく軍事占領支援法案

米国いいなりの政権をおしつけるための軍事占領支配に加担

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朝日ニュースターで、朝日新聞・高久陽男政治部記者(右)のインタビューに答える志位和夫委員長

 高久 与党サイドは、イラク復興支援特別措置法を何とか通そうという目的で延長したと思いますが、その法律について、どんな問題点があるとお考えですか。

 志位 いくつか問題点はあるんですが、一つは今度の法案というのは、イラクに対する復興人道支援法案ではない。イラクに対する軍事占領支援法案だ。ここが一番の問題点の一つだと思っているのです。

 すなわち、国連決議一四八三で加盟諸国に呼びかけられたのは、イラクにたいする復興支援、人道支援です。しかし、それをやるのは別に軍隊が行く必要はないのです。各国のNGO(非政府組織)がやっていますし、国連の諸機関もやっている。そういうさまざまな分野の支援というのは、別に軍隊が行く必要はありません。

 ではどこがこの法案の本命かといいますと、無法な戦争のうえに軍事占領支配を続け、そしてアメリカいいなりの政権をつくろうとしている――米英軍の軍事占領に自衛隊が支援をおこなう。ここに一番の本質があるわけです。

 ところがいま現地では、そういうアメリカの一方的な政権を押しつけるやり方にたいへんな反発が強まっています。銃撃戦もあれば、デモも繰り返される。そういう事態が続いているわけです。そういうなかにまさに占領軍の加担者として自衛隊が入っていったらどうなるか。とんでもない道に踏み出すということになる。

 イラクの国民の意思を尊重した復興でなければ、本当の復興とはいえません。そのためには国連が中心的な役割を果たす必要があるのですが、そちらの方向を支援するのではなくて、ともかく軍事占領を後押しするということは、本当の復興に逆行し、障害をつくる。これが一番の大きな問題ですね。

国連安保理決議は、戦争の合法化、占領の正当化をのべてはいない

 高久 法律の目的自体がやはりちょっと間違っていると…。

 志位 間違っているということですね。

 政府は国連決議一四八三を根拠にあげているのですが、ここでいわれている内容を見ても、あの戦争を正当なものだったということをさかのぼって合法化する内容は含まれていません。それから、いま米英軍が占領支配をやっている、これが正当なものだということも書いてはいないんですよ。

 書いてあるのは、占領という事実がある。占領した以上は、その占領が正当なものであろうと不法なものであろうと、(治安維持の責任などをさだめた)ジュネーブ条約ないしハーグ条約、こういう国際法規を守る必要があって、そこから(占領軍としての)義務が生じる。その義務を果たしなさいということが、書いてあることなんですね。

 そこに日本が自衛隊という形で入りこんでいくというところに、一番大きな問題があります。これはイラク国民との矛盾を激しくするでしょう。そして国際社会のまともな平和秩序を願う人々との矛盾も激しくするでしょう。

大量破壊兵器未発見――戦争の「大義」が根底からゆらいでいる

 高久 もう一つ、戦争の目的の一つだった大量破壊兵器の問題が、いまだに見つかっていない。アメリカ、イギリスそれぞれの国内で(イラクに)大量破壊兵器が本当にあったのかどうかということについて議論がある。このへんもやっぱり一つ問題点では…。

 志位 大量破壊兵器の問題というのは、大量破壊兵器が今後見つかるか見つからないか、これは分かりません。どちらにせよ、私たちは今度の戦争は決して正当化され得ないと思っていますが、米英が(イラク戦争の)「大義」とし、日本が(戦争)支持の「大義」とした、これ(大量破壊兵器)が、いまだに二カ月以上たっても見つからないということ自体は、これはこれでなかなか深刻な事態であるわけです。

 米英で問題になっているのは、政府が不正な情報操作をして、疑惑の段階である大量破壊兵器(の保有)という問題を、間違いない断定的な事実として、いわば偽って描いた。そして国民を戦争に引っ張っていった。これがいま大問題になっているわけです。

 そういう点では、この前、小泉首相と党首討論で議論しましたけれど、日本政府も同じなのですよ。疑惑の段階であるこの問題を、(小泉内閣)メールマガジンなどでは「保有している」と断定して、国民に戦争支持を押しつけたわけですから、同じ問題が問われている。

 彼らが戦争の「大義」としたこと自体が根底から揺らぐ事態になっている。その点からも、この法律以前の問題として、この問題はきちんとした解決が迫られますね。

戦後はじめての戦闘地域への地上軍派遣――憲法違反は明りょう

「イラク全土が戦闘地域」と米地上軍の司令官も言明

 高久 法律の中身にふれさせていただくと、たとえば「非戦闘地域に派遣するから安全なんだ」ということですが、一方では戦闘地域と非戦闘地域と分けられないんじゃないかという議論もあるようですが、そのへんはどうでしょうか。

 志位 これは法案が決められた同じ日のニュースで、アメリカ地上軍のマキャナン司令官が、「イラク全土が戦闘地域」だということを宣言しました。だいたい五月一日にブッシュ大統領が、「戦争は終わった」という宣言をしてからも、五十人以上の米兵が殺されている。繰り返し武力衝突が起こっているという事態があり、どこで起こるか分からない。ですから、戦闘地域と非戦闘地域というのはもともと区分のしようがない問題です。

 さらにいえば、どこが戦闘地域でどこが戦闘地域でないか、かりに区分ができるとして、それを判断することができるのは米英占領軍だけであるわけです。自衛隊の「主体的な」判断でここは戦闘地域だという区分が絶対にできるはずがない。これはすべて米英のいいなりになって動くしかないわけですね。

 区分ができない、「主体的」判断はできないわけですから、これはまったく虚構の法案になると思いますね。

武器・弾薬の輸送――戦争の一部をになうことがいよいよ明りょうに

 高久 もう一つ、例のテロ特措法のときは(武器・弾薬の輸送が)国会で除外されたんですが、(今度のイラク特措法案では)武器弾薬についての仕分けができないとしているんですが、このへんはどう見ますか。

 志位 武器・弾薬の輸送というのは、「周辺事態法」でも一応除外されていたわけです。「テロ特措法」のときも最後の修正で除外したのです。

 はっきりいえば、兵たん支援は、水であろうと食糧であろうと武器・弾薬であろうと、戦争の一部であることに変わりないのです。程度の違いしかないのですが、武器・弾薬というのは、いくらなんでも戦争と一体のものだとだれしも考えるわけで、だから除外してきたわけです。今度はそれを入れてしまうというわけですから、いよいよ戦争行為の一部を担うことがはっきりするということになります。

 そしてその兵たん支援が相手方からすれば攻撃対象になってくるわけで、非常に危険な事態になると思います。

 高久 行く行かないの是非は別にしても、危険なところに軽武装の自衛隊を派遣して、大丈夫なのかという意見もあるんですが、このへんはどうでしょうか。

武器使用基準の緩和――武力行使につながる危険な活動の自己証明

 志位 この議論が出ること自体、矛盾です。

 「PKO(国連平和維持活動)法」のときには、地上部隊ですが、双方の停戦の合意が成り立っているということが前提の地域に入ったわけです。それから「テロ特措法」のときには、海上の兵たん支援がおもな活動であって、地上部隊ではなかった。今度は戦闘が現におこなわれているところに地上部隊を乗り込ませるという点では、自衛隊の海外派兵の歴史の中でもはじめての、新しい領域に踏み込む話なのです。

 非常に危険な事態になる。イラクの国民に銃口を向ける危険もあるし、向こうから向けられる危険もある。撃ち合いになってそこで死者が出る危険が現にあるところに送り込もうというわけです。

 武器使用の緩和という問題も、そこから出てくる矛盾なんですね。そういう議論が出てこざるを得ないことが、今度の自衛隊の派兵が、まさに武力行使につながっていくことを自ら証明するものです。

 さらに、法律上はどんな武器を持って行くかということの規制はありません。たとえば装甲車を持って行く必要があるという議論がもう出ています。武器についていっさいの制約がないわけですから、結局そういうふうにエスカレートしていく。

 そして米英軍といっしょに泥沼の占領支配の一翼を担って、大変な矛盾と衝突のなかに巻き込まれていく。そしてイラク国民全体を、場合によっては敵にまわす。あるいは中東全体を敵にまわすことになるという危険がありますね。

 憲法のうえからいっても、憲法が禁止している交戦権あるいは武力行使に公然と踏み込むことになると思います。絶対やってはならないことです。

自衛隊派兵法は廃案に、イラク復興支援は国連中心に

 高久 そういう意味からいっても、四十日間という会期のなかで、本当に徹底した議論ができるのかという気もするんですが…。

 志位 これまで自衛隊の派兵法はいろいろありました。「周辺事態法」もありますし、「有事三法」もあった。さまざまありました。それはどれも重大な内容をもっていますが、今度の法律は現実に、ただちに自衛隊員の死傷者あるいはイラク人の死傷者、直接のそういう事態を生む危険がある。そういう点では、独特の危険をもった、非常に深刻な法案だと思うのです。それを四十日という、勝手な期間を決めて、アメリカから「早く来い。早くブーツ(軍靴)をはけ」と言われただけで強行するというやり方は本当に、間違っています。

 高久 対応としては、廃案というか…。

 志位 これは当然、徹底的に問題点を明らかにして廃案にすべきだと思います。

 私たちはいま、緒方靖夫国際局長を団長とする調査団をイラクに送っていますが、本当の意味での、国連決議一四八三が呼びかけている人道支援、復興支援は、自衛隊が行かなくてもいろいろな方法で、できます。国連の諸機関、ユニセフ(国連児童基金)とか、UNDP(国連開発計画)とか、いろいろな機関が活動しているわけで、そういう機関に対する支援もできますし、各国のNGOの支援もできますし、それはそれとしてやるべきだと思いますが、自衛隊を送るというのは絶対に間違っている。

 高久 非軍事面での支援がまだまだ、いろいろあるんじゃないかということでしょうか…。

 志位 それこそ大事だということですね。それを国連が主体になって担いながら、イラクの復興を国連中心におこなわれるという軌道にうつしていく。そして米英軍ができるだけ早く撤退するという方向にしていくというのが、いま国際社会全体で取り組まなくてはならないことだと思います。

 高久 有事三法のときは自民党と民主党が修正協議をして妥協したということがあるわけですが、今度の法案についても、おそらく与党側は野党第一党の民主党をなんとか引き込んで、成立を図りたいという戦術に出てくると思うのです。野党の結束が大事だと思いますが、そのへんはこれから各党と話し合っていくということになるんでしょうか。

 志位 有事法制のときには残念ながら、民主党、自由党が賛成ということになったのですが、これはこれとして、今度の問題では一致点を探求したいと思います。反対で野党が足並みをそろえるという方向を探求したい。

 今度の法律は最初の第一条で、イラク戦争は合法なものだったということから始まるわけです。あの戦争の追認から始まっている。少なくとも野党はすべて、あの戦争は無法だといって批判したわけですから、この第一条から引っかかるはずなんです。そういうこともふくめて、しっかり話し合いをして、抵抗線をはりたいと思っています。

「テロ特措法」――報復戦争支援の誤り、イラク戦争への脱法的支援

 高久 もう一つ、イラク新法に加えて、テロ特措法が十一月で期限が切れる、これをさらに二年間延長するという改正案も提出されているわけですけれども、これへの対応はどんなふうになるのでしょうか。

 志位 これはもちろん反対ですね。

 もともと法律自体に反対したわけですが、私は、「テロ特措法」というのは、アメリカの報復戦争を支援するという名目で始めたのですが、この報復戦争によって、テロの土壌はなくなったのかという検証が必要だと思うんですよ。

 実際はカルザイ政権自体が全土の安定的な支配とは程遠い事態になっている。そして、テロの土壌になるようなさまざまな紛争が絶えないという地域になっているわけですね。

 結局、テロに対して戦争というやり方では問題は解決しない。私たちがいったように、司法と警察の国際的な協力によってこそ問題は解決できるわけで、この点からまず間違いだった。

 さらにもう一点つけくわえていいますと、最近問題になったことですが、イラク戦争に参戦した米空母キティホークですね―横須賀から出ていったキティホークに自衛隊の艦船が給油していたというわけです。これはキティホークの艦長が認めました。そうなりますと、アフガンの戦争のための支援として出たはずの自衛隊の艦船が、イラクの戦争のための油を注いでいる。これはアフガン用ですと政府はいっているけれど、油に色がついているわけじゃないですから、これは実際上は、法律の趣旨から外れて無法に、脱法的に使われていたということが明らかになったわけですから、この点も検証が必要ですね。

 さらに、もう一点いいますと、ともかくもアフガン戦争についても、五月一日に戦争“終結”宣言が出ているんですよ。戦争終結宣言が出ているときに、いつまでやってるのか。これも理屈が立ちません。

 私はやはりこれは直ちにやめるべきだと思います。

政治腐敗の問題――こんな道義の退廃は許されない

 高久 政治倫理の問題なんですけれども、松浪(健四郎)議員が暴力団関係企業から秘書給与の肩代わりを受けていた。政治倫理審査会で勧告とかそういうものもなくて、うやむやです。もう一つ、議員辞職勧告決議案の採決はしない。政治倫理に対して、ずいぶん後ろ向きだなという印象を受けるんですけれども、このへんは延長国会でどんなふうに。

松浪議員の居座り――自民・公明・保守新党の道義的退廃きわまれり

 志位 これは追及していかなければいけません。松浪議員についていえば、少なくとも暴力団との関係で、まず第一に、暴力団関係者に秘書給与の肩代わりをしてもらっていたこと、第二に、あってはならない捜査状況の照会をしていたこと、第三に、他の暴力団関係者からも政治献金をもらっていたこと、こういう事実が二重三重に明らかになって、まさに暴力団と見分けがつかないような世界に身を置いている人物だということが分かった。

 これだけ分かっていながら、これを保守新党はかばう、自民も公明もかばう、そしてすべてうやむやにしようとする(高久「そういうことですね」)、議員辞職勧告決議も握りつぶす。これは本当に、道義の退廃まさにきわまれりという状況ですから、引き続く追及が必要です。

やみ献金の合法化――与党の政治資金規正法「改正」案

 志位 この問題をさらにいいますと、企業・団体献金という問題につきあたってくるわけですが、きょう(十八日)与党が合意した政治資金規正法の「改正」案なるものが出ましたでしょう。あれはひどい内容だと思いますね。(献金者名の)公開基準を年間五万円超から二十四万円超まで引き上げていく。つまりヤミ献金を合法化するという中身ですね。

 その説明としてある自民党の幹部が、「基準変更により、名前が表に出ることを嫌う企業が献金増額に応じるだろう」と(いった)。つまり、やましい献金をしているような企業が、ヤミで自由にやれるようにするためのものだと、ここまでいっているんですから、本当にひどい話です。

 それとセットで、一企業・団体から一政党支部にいくお金は百五十万円までに規制するというんですが、政党支部というのはいくらでもつくれますからね。まったく規制にならないわけです。分散すればいいわけですから。

 一番の悪の元凶の企業献金問題では、まったく逆行するとんでもない改悪案を出してくる。一方で暴力団(との癒着)はかばう。これはきびしく追及しなければいけません。

 そしてここまで腐りきっていますと、選挙の審判ということをしなければどうしようもないということがいえます。

 高久 今回は、やっぱり今まで以上にひどいですよね。逆行も甚だしいというか、よくこういう案をまとめたなと思うくらいなんですが。

日本経団連の政治献金再開――自分勝手な基準をもうけ政策を買収

 志位 厚かましさが限界を超えていますね。この問題にもう一つつながってくる問題として、日本経団連が来年から政治献金への関与を再開する。この再開の仕方がひどいですね。政党を政策ごとに採点して、ガイドラインをつくって点数をつける。この政党は点がいいから献金やれ、これは低いからどうだと、こういうことをやるというんですね。

 そのガイドラインの中身として、たとえば消費税率引き上げに賛成するかどうか、社会保障の切り捨てに賛成するかどうか、法人税引き下げに賛成するかどうか、こういう自分勝手な基準をひいて、まさに政策を買収すると。ここまでひどい買収政治を経団連がやったことはこれまでないですよ。これまでは「自由社会体制を守る」とか、大まかな理由だったんだけど、今度は政策をカネで買う。財界の道義も落ちている、そういうもとで政界の道義も落ちているという状況ですから、そういうこともふくめて、これはやはり国政選挙での審判の対象になると私は思います。




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