2002年7月24日(水)「しんぶん赤旗」

CS放送 朝日ニュースター

志位委員長語る

終盤国会への対応、「政治とカネ」、
経済と暮らしの問題について



早野透・朝日新聞編集委員(左)のインタビューにこたえる志位和夫委員長

 日本共産党の志位和夫委員長は、二十三日放映(二十二日収録)のCS放送・朝日ニュースターの番組「各党はいま」に出演し、朝日新聞編集委員の早野透氏の質問に答えました。このうち、終盤国会への対応、「政治とカネ」、経済と暮らしの問題にふれた部分を紹介します。

 早野 延長国会も残りわずか十日ほどになりました。いわゆる重要四法案がどうなっていくのか、最後のしめくくり、まだ不透明なところがあるようです。経済情勢もなかなか厳しい内外の動きが伝えられています。きょうは日本共産党の志位和夫委員長にお話をうかがいます。どうぞよろしくお願いします。

 志位 よろしくお願いします。

有事法制――
強行のシナリオはくい止めた、廃案にして火種を残さない形での決着を

 早野 いわゆる四法案のうち有事法制には、志位さんたちはとても強い反対をしてこられましたが、息の根を止めたという感じでみていらっしゃるのですか。

 志位 いや、息の根は止まっていません。ただ、こんどの国会で成立を強行するというむこうのシナリオはくい止めたと思います。

 早野 これはさすがにくい止めたということですね。

 志位 これは重要な成果だと思っています。国会を振り返りますと、五月二十一日に与党が一方的に公聴会を設定して、しゃにむに採決に走るという構えを見せました。このときに野党の党首会談をもって、この動きは許せないという確認をしました。

 それから、明治公園で四万人の大集会、その後、代々木公園で六万人の大集会。これはたいへん広がりました。宗教者の方々、それから陸・海・空・港湾の労働者のみなさんが、立場の違いを超えて大結集して、たいへん広い方々が参加する集会になって、日本共産党、社民党の代表も参加して、この世論の大きな後押しのなかで、こんどの国会での強行のシナリオはくい止めた。私は、なかなか自信をもっていい成果だと思います。

 ただ相手は、(早野「あきらめるというわけじゃないですね」)あきらめませんね。とくにこれはアメリカ仕込みの動きですから。二〇〇〇年の秋のアーミテージ報告の中で、“有事法制をつくれ”というのが打ち出されて、そこから始まっている動きですから、簡単にはあきらめないと思います。秋の臨時国会でまた息を吹き返すということで、いろんなくわだてをやってくると思います。

 ですから、国会のしめくくりは大事で、ぜひ継続ではなく廃案に、そして火種を残さない形での決着をということで、最後まで力を尽くしたいと思っています。

医療改悪――
国民の命と健康を脅かす暴挙許さないという声で国会を包囲していく

 早野 あともう一つ、健康保険法の改正ですね。医療費の負担が窓口でサラリーマン三割になってしまうという。これはなんとか廃案にしたいということでがんばっていらっしゃるようすですが。

 志位 そうしたいですね。いま最後の奮闘をしているところです。

 早野 見込みはありますか。

 志位 なんともいえない、予断を許さない情勢だと思います。相手の側は、二十五日の委員会強行採決というスケジュールをもってるようですが、くい止めて、廃案にもっていきたいですね。

 私がたいへん象徴的だったと思ったのは、参議院の厚生労働委員会で参考人質疑をやったとき、六人の参考人のうち与党推薦も含めて四人の方が反対をはっきりおっしゃったんですね。とくに日本医師会の代表も「断固反対」とはっきりおっしゃった。連合の代表も反対です。日本医師会の方は“もし、固執するようだったら、もう自民党の支持は考え直さなきゃいけない”と言い切るぐらい非常に強い反対だった。世論もだいたい六割は反対です。

 早野 これに反対が一番強いみたいですね。

 志位 一番強いです。これは本当に命綱を断ち切るような無情な値上げですから、国民の命と健康を直接脅かすものとして、非常に強い不安と怒りがここまで広がっているわけで、これを強行するということはほんとうに許されない。これは最後まで力を尽くしたいと思います。

 早野 この問題についての小泉さんの議論は、“それでは、どうするんだ。税金を投じればいいのか、共産党は”と。この間の党首討論でも、福祉の関係の予算についてありましたね。この点は本当にどうしたらいいんでしょう。とくに医療改革に関していえば。

巨大開発の無駄、高すぎる薬価にメスいれれば財源はでてくる

 志位 私たちは、医療についていいましたら、まさに税金をきちんと投入して当たり前だという立場です。

 私は、党首討論でも、「だいたいあなたがたは財政がたいへんだというけれども、長野ではあれだけ県民のみなさんがいらない、知事も必要ないといっているダムを無理やりつくるために、知事を引き下ろすことまでやったじゃないか」、全国で無駄づかいやってるじゃないかといいました。公共事業のなかの巨大開発の無駄づかいにメスを入れるというのが、まずやるべき仕事ですね。

 それから私たちは、薬価が高すぎるという問題をずっといってきました。

 早野 そうでしたね。追及していましたね。

 志位 ええ。私も五年前から予算委員会でずいぶんやってきたんですが、あのあと調べてみましたら、いわゆる薬価差益といわれる部分はだいぶ減ってきているのですが、薬価の本体、つまり製薬企業のもうけになる部分は、ほとんどメスが入っていないんですよ。これはまだ世界一高い。とくに新薬が高い。新薬を使い過ぎる。こういう(新薬偏重という)状況がある。

 新薬偏重で医療費がふくれあがっているという問題では、とうとう厚生労働省も国立病院については是正通達を出したんですよ。だったら全部について、どういう実態か調べて、新薬偏重の実態にメスを入れて、ここで浪費をなくす。製薬企業のぼろもうけをやめさせる。こういうことをやれば、ここでもだいたい一兆五千億円ぐらいの財源が出てきます。

 早野 同じ性能、同じ効果をもつ新薬でない(ものを使う)。

 志位 そうです。高い薬じゃないものを使う。

 早野 そういう意味でいえば、国民生活に一番響きますので。この問題はあまりばたばたと強行採決をやってほしくないと思いますが。

 志位 もしも、強行採決をやるとしますと、衆院も与党の単独強行、参院もこれをやったとしたら、こんなものは国民はとうてい認められないです。これはほんとうに最後までそういう暴挙を許さないという声で国会を包囲していきたいと思います。

 早野 そんなことになると、やっぱり内閣不信任案を出すという話で最後幕切れになるんでしょうかね。

 志位 これは五月の野党の党首会談で、小泉内閣即時退陣ということを合意してるんです。ですから、その筋からいえば、内閣不信任案を共同で出すということは、当然の筋になるんではないかなと思ってるんですが。

「政治とカネ」――
「政治献金は企業の社会的役割」という自民党「提言」のあつかましさ

 早野 この国会を振り返ってみますと、もう一つ、「政治とカネ」という問題が新しく浮き彫りになりました。最初の「ムネオハウス」から、最後の入試の口利きに至るまで、共産党はヒットが多かったなと思うんですが。なかなか満足のいく追及でしたか。

 志位 腐敗追及のなかで果たした役割は、いろいろと成果があったと思います。ムネオ疑惑については、とうとう司直があそこまでいきましたから、かなりのところまで(究明が)いくと思います。ただ、疑惑の全体が解明されたか、腐敗の構造にメスが入るところまでいったかというと、まだそうはなっていません。

 早野 そうですね。たしかにもの足りない疑惑の解明という部分も確かにありました。しかし、ぼくも二十何年、この種の問題を見ていますけれども、そう思うようにはいかない部分もあって、問題は政党としてどう制度改革に結びつけて、つぎのステップにしていくかということなんですが。ここがまだ見えないですね。

 志位 与党側の姿勢は、まったくだめですね。一連の問題は、公共事業を食い物にしたスキャンダルだった。ですから、企業献金を禁止するということが基本なんですけども、せめて公共事業を受注している企業の献金は禁止しようじゃないか、と野党で共同提案したわけです。

 しかし、自民党が出してきた「回答」はひどいものでした。「政治資金などに関する有識者懇談会」というのをつくって、「提言」を出したんですよ。それを読みましてね、私は、よくもこういうあつかましいものを出してきたものだと驚いたんですよ。

 早野 どういう点でですか、それは。

 志位 二つほど言いたいです。一つは、企業献金の意義づけについて、「企業が政治献金をおこなうことには社会的意義があり、政治献金は企業が社会的役割を果たすことにつながる」と、ここまでいったんですよ。「政治献金は企業の社会的役割」であると、ここまでいったのは初めてですよ。

 早野 むろん肯定する立場でずっときているんだけれども、社会的役割とまではいわなかったでしょうかね。

「提言」どおりやっても、一円もゼネコン献金は減らない

 志位 いままで、“企業は社会的存在だから献金してもいいじゃないか”という理屈をいったことはありましたけれど、献金することが企業の「社会的役割」だということになりますとね、献金しない企業は「社会的役割」を果たさない企業だということになるわけですからね(笑い)。これほどひどい企業献金万歳論、企業献金肯定論というのはないと思いました。

 もう一点は、例の公共事業の受注企業の献金問題です。(「提言」では)「制限する」という言葉は入っているんですよ。「公共事業の受注の割合が一定割合を超えた企業は寄付限度額を制限する」と書いてある。その例として、「企業の売り上げに占める公共事業の受注が50%をこえる場合には、寄付限度額を50%減とする」と書いてあるんです。

 早野 政治献金というのはそれぞれの資本金なんかに応じて限度額がありますが、その限度額いっぱいをもらわないようにするということですね。

 志位 (限度額を)半分にすると。公共事業を半分以上受注している企業は、(献金限度額を)半分にするというのを出したんです。

 それで私は、これでじっさいに制限になるのかなと思って、二〇〇〇年ですけれども、自民党に献金しているゼネコンの上位二十四社を、調べてみたんです。そうしましたら、まず、公共事業を半分以上受注しているゼネコンなんてほとんどないんです。

 早野 そんなもんなんですかね。

 志位 ゼネコンの公共事業の受注の割合というのは、平均しますと32%。半分以上なんてことはほとんどないのです。それでほとんど(対象から)はずれちゃうんですよ。

 早野 民需もあるわけですからね。それぞれね。

 志位 民需がやっぱり多いですよ。それからもう一方、寄付の限度額というのはべらぼうに高く法律では決まってまして、これを半分にしてもほとんど影響は出てこないのです。

 早野 まだたんまりもらえるっていう感じですか。

 志位 たんまりもらえる。半分にしても影響がでてくるのは二十四社のうちたった一社です。ですから、それをあわせてみますと、結局、この自民党の「提言」どおりやっても、一円もゼネコン献金は減らない。

 早野 それはうまく考えたもんだな。(笑い)

 志位 「政治献金は企業の社会的役割」ですといって、「限度額は半分にしたんだ」といったら、“半分いっぱい出せ”ということに、逆になりますね。半分いっぱいにまで出したら、いま上位二十四社で献金額が三億一千六百万円ですけれど、プラス三億円になりますよ。

 早野 そうですか。

 志位 まったく逆の話でした。

日本経済――
社会保障分野での3兆円こす負担増と増税計画は、暮らしも経済もこわす

 早野 つぎにお話をうかがいたいのは、アメリカからのワールドコムなんていう大企業がつぶれたなんて話が伝わってくると、国民みんな不安かと思いますね。志位さんはこの経済情勢をどうご覧になって、どういう手だてをとるべきなのか、どういうふうにお考えですか。

 志位 いまの日本の経済の情勢についていいますと、政府は「景気は底入れした」とか、「一部に改善の動き」とか、いろいろと楽観的な観測をいってますけれども、実態は内需は冷え込みっぱなしです。つまり、国民の所得が落ちる、消費も冷えている。内需が冷えています。

 早野 やっぱり内需が冷えているというのが、基本的な分析なんですか。

 志位 一部上向きの数字が出ているのは外需なんです。これを根拠にして政府のほうは、“いいぞ、いいぞ”といっているわけですが、この輸出、外需のほうも、アメリカ経済が本格的なバブルの崩壊という過程に入るなかで、これも非常に先行き、見通しが悪くなっているというのが、現状だと思うんですね。アメリカですすんでいるバブルの崩壊というのは、ある意味では避けがたい経済の過程としておこっている。

 早野 そうですか。

外需だのみの経済ではだめ、家計応援を経済対策の一番にすえる

 志位 そういうときに外需だのみの経済ではだめなわけで、いかに内需をよくしていくか、その内需のなかでも中心は家計消費ですから、家計消費をどうやって応援するかということを、経済対策の一番にすえるべきだと思うんですよ。

 ところがこの前の党首討論でもとりあげたんですが、来年度にかけて、社会保障の分野だけでも、医療、年金、介護、雇用保険、四つの分野でだいたい三・二兆円を超える負担増という計画が押しつけられようとしている。

 早野 パネルを示しておられましたな。

 志位 私はこの問題について、三兆円が押しつけられた場合、経済にどういう影響がでますかと総理にうかがったんですが、これについての答えが全然ない。およそ考えてもいないという感じです。たいへんな不景気のなかで、こういう絶対やっちゃならないことにいま踏み出そうとしている。ここに一番問題があると思いますね。

 早野 かつて九兆円を国民から吸い上げちゃうという、問題を追及したのはたしか志位さんでしたね。たしかにその通りに(景気悪化に)なっちゃったわけですが…。

下り坂で背中をどんと押して、経済を突き落とすようなもの

 志位 ええ。そのときといまと比較してみたのです。それも党首討論でいったんですが、国民経済計算という内閣府が出している統計で、雇用者所得という数字があるんですよ。

 それをみますと、九七年の九兆円負担増をかぶせたときは、それに先立つ四年間の平均をとりますと、景気が回復過程にありましたから、雇用者所得が毎年五・二兆円ずつ平均で伸びていたんです。五・二兆円伸びているときに、九兆円の負担増だから差し引き三・八兆円(所得が)減ったことになるんです。ここで景気がばっと落っこちたというのがあのときでした。

 ところが、いま調べてみましたら、この四年間は雇用者所得が平均して二・三兆円ずつ減っているんですよ。減っているところに三・二兆円かぶせたらだいたい五・五兆円の所得の減少でしょ。

 早野 そういう積算になるんですね。

 志位 九兆円負担増のときはだいたい三・八兆円、今度は五・五兆円。今度のほうが所得の減少が大きいんですね。つまり、九兆円負担増のときは、上り坂のところを突き落とされた。今度は下り坂のところを後から背中をどーんと押して経済を突き落としちゃうようなものが、いまやろうとしていることですね。

 くわえてもうひとついいますと、増税という問題があるんです。政府税調が六月に答申を出しまして、これは全部やったらたいへんな増税になるんですけれども、そのうち総理が指示して来年にやらせようとしているものが二つある。一つは所得税の控除見直し。配偶者特別控除とか特定扶養控除の廃止・見直しなどです。もう一つは、中小企業、とくに赤字で苦しんでいるところに、がばっと増税になる外形標準課税です。

 早野 外形標準課税ね。すごい反対ですけれどね。

 志位 すごい反対ですけれども。この二つが増税要因となってかぶってきますから、(社会保障の負担増と)あわせたら五兆円という負担増になる危険があります。

 早野 小泉さんはある程度、景気が悪くなって場合によってはマイナスもやむをえないといっているから、ある意味では、その方向で公約通りなのかもしれませんが。これは国民生活に耐えがたいものになりそうな感じですか。

 志位 まず国民生活に耐えがたい、我慢の範囲を超えてしまうという問題と、これをやれば景気の悪化で、結局、税収も落ちるし、保険料も入ってこなくなるわけですよ。私は、党首討論でも、だいたい二〇〇一年度の決算をみても、政府の見通しより税収は三兆円も少なくなっているじゃないか、すでに景気の悪化で税も入ってこなくなっている(といいました)。だから財政がたいへんだというけれども、ますます自分で自分の首を苦しめるような悪循環がおこるのです。

 やっぱり税を立て直し、社会保障を立て直していくといううえでも、経済全体をどうやって内需を中心によくしていくかという道筋をつけなかったら立ち直れませんね、これは。

 早野 来年度予算も歳入欠陥になりそうですけれどね。それでもまたもう少し緊縮財政を組もうとしているわけですが、志位さんたちはやっぱり多少国債を増やしても景気をあげるべく、予算の規模を増やしたほうがいいと考えてますか。

巨大開発と大銀行には税金をつぎこみ、削るのは社会保障というやり方をただすこと

 志位 単純にそうではありません。やっぱり(予算は)つけるべきところをつける。しかし、きるべきところをきっていないんですよ。

 たとえば、(日本共産党は)公共事業のなかの巨大開発の無駄づかいを削ろうじゃないかといってきたわけです。「削る、削る」と小泉さんはいってきたけれども、結局なんのことはない。今年度予算をみたら、本予算では(公共事業費を)一兆円削りましたけれども、同じ日に(予算案を)決めた昨年度の補正予算で二・五兆円増やしているでしょ。結局一・五兆円増なんですよ。そういうやり方でちゃんとこっちの方は浪費を続けるわけですね。銀行の方にも税金をどんどん入れて、とうとう三十兆円の税金を入れた。そういうところは浪費を続けるわけですね。結局削るのは社会保障と暮らしということになっているのが一番の問題です。そのやり方をたださないといけません。

 (このほか、秘書給与、国政補欠選挙、長野県知事選挙、新党本部ビルなどの問題に話題がおよびました)




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