2002年7月5日(金)「しんぶん赤旗」

CS放送朝日ニュースター

志位委員長語る

当面する政治問題と、日本共産党の立場について


 日本共産党の志位和夫委員長は、四日放映のCS放送・朝日ニュースターの番組「各党はいま」に出演し、国会情勢や「政治とカネ」、十月の中間国政選挙などについて、インタビューにこたえました。聞き手は朝日新聞編集委員の星浩氏。

延長国会──4つの悪法を、きっぱり廃案においこむ

  延長国会が残るところ一カ月弱ということになりました。法案の優先順位を自民党が勝手につけてしまって、健康保険法の改正案と郵政関連の法案(が優先)ということになってきました。終盤国会、共産党としてはどういうスタンスでのぞむのか、からまずお話を。

 志位 ちまたではそういう優先順位をつけたということが言われているんですが、公式には四つの悪法――有事法制とそれから個人情報保護法も含めて――四つ(の悪法)とも成立させるというのを(政府・与党は)崩していませんから、われわれは、どの法案についても、火種を残さず、きれいさっぱり廃案においこもうということで、がんばりどころだと思っています。

郵政法案──民営化への一歩、新旧の利権拡大、国民には“一利もなし”

  その郵政法案ですが、自民党の方の修正で一部、公社化の法案が手直しになるということですが、この法案の問題点については、どうとらえていますか。

 志位 今度の政府と自民党の最終合意なるものを見たんですけれども、一言でいいますと、結局、郵政三事業の民営化に向けて一歩進めるというものだと思うんです。首相自身が(郵政関連法案を)「民営化の一里塚」といってきたわけですけれども、その通りの方向になったと思います。対立、対立といわれているんですけれども、中身はそういうものではないんですね。

 たとえば、いわゆる信書の定義が問題になりましたが、その問題について政府の答弁が出てきたんですけれども、問題になったダイレクトメールについて、基本的には信書とみなすとしながら、公開しても構わないようなもの、チラシに類するものは、これは信書でない、という仕分けをしました。

 ダイレクトメールというのは後者に属するものがほとんどなので、これでは、いいとこどりの民間参入をどんどん進めることになる。そのもうかるところに民間の大手が入ってくれば、効率の悪いところは切り捨てられたり、値段があがったりする。ユニバーサルサービス(全国均一のサービス)が郵便というところで崩されるという方向での合意ですよ。

 そういう点でも、郵貯を中心とする民営化に向けた一歩を進める。民営化というのは本当に国民にとって“百害あって一利なしだ”と(思います)。結局、国民にとっては安心して預けられる小口の貯金先がなくなる、安心できる全国一律の郵便が崩されるということですから、大銀行にとって「新しい利権」になっても、国民にはいいことは一つもない。

 もう一つ、大事な側面があると思うのは、いわゆる「古い利権」――これは温存するだけでなく、拡大の方向だと思うんですよ。これは、これまで特定郵便局長会が自民党をまるごと応援する、カネも票も出して応援する、この癒着と利権が問題になっていました。こっちはメスを入れない。

 メスを入れないだけでなくて、今度、(与党が)郵政公社法案の「修正」案を出したでしょう。これを見ますと、二つ目の項目のなかに、今度の新しい郵政公社は出資金を出して、子会社をつくれるという仕掛けになっているんですよ。こうなりますと、道路公団と同じになります。

 いま、道路公団というのは、道路公団が出資して子会社をつくり、さらに孫会社をつくり、そこに天下りして利権の巣くつにしてきた。こっち(子会社)でうんともうけて、親会社の方の赤字は、税金で穴埋めする。孫会社、子会社は利権の巣くつになっている。これは、もう大問題になっているんだけど、同じ仕掛けを郵政事業を食い物にしてつくる。つまり、「古い利権」の方は温存・拡大なんです。

 だから、首相の方は大銀行が郵政事業を食い物にするという、「新しい利権」を手にする。それから、いわゆる「族議員」の方は旧来の「古い利権」を温存し、さらに出資金をつくって新しい会社をつくるという方向で拡大する。両方が利権の分け前にあずかろうという話で共通していて、対立じゃないんですね。

 (首相と「族議員」の)どちらとも(に)抜けているのが、いかに郵政事業を国民にとって使いやすいものにするか、このサービスをいかによくしていくか、それから、これまであった癒着や利権の関係をどうなくしていくか、という(点です)。今度の「修正」でさらに大きな問題が出てきたと考えておりまして、きちんとした審議で問題点を明らかにしたいと思います。

有事法制──強行も、継続も許さず、火種残さない廃案へ、ここががんばりどころ

  防衛庁のリスト問題が出まして、有事法制の中でも、防衛庁の体質が出てきているわけですけれども、これについてはどうご覧になっていますか。

 志位 これは、まず、防衛庁・自衛隊というものが国民の命や人権を守る組織ではなくて、人権を監視し、国民を敵視するということが体質的にしみついている組織だということが出たということが一つ。

 それから、問題が出たときに、きちんと国民に真実を明らかにするのではなくて、隠ぺいする。できるだけ、傷を小さく見せてごまかしていく、こういう隠ぺい体質ということがもう一つ。これが両方出てきたわけですね。この問題一つとっても、法律を提出する資格もないという問題です。

 そして、出た法律(有事法案)自体は、私たちが、国会論戦でも明らかにしてきたように、結局、日本が攻撃を受けて、それに対する対処ではなくて、米軍の海外での戦争に武力行使をもって参加する、国民を強制動員する、こういう中身がもう明りょうです。

 ですから、この問題の最後の扱いについて、もちろん、強行を許さないというのは当たり前なんですが、継続もダメだ。そして、廃案にする場合も、火種を残さず廃案にする必要がある。

 かつて、九〇年にPKO法の前身の国連平和協力法案が廃案になったとき、当時の自公民、三党が「三党合意」を結んで火種を残す形にしたんですね。それがその後、PKO法につながる。あるいは、中曽根内閣の売上税(廃案)のときに、「議長あっせん」ということになって、これが火種となって、その後、(「議長あっせん」のなかに明記された)「直間比率見直し」で消費税につながる。そういう例もありますから、私たちは継続もダメ、廃案にして、そして火種も残さず、というところまで(おいこみたい)。いまががんばりどころだと思います。

  この国会ですが、与党側のどちらかというと自損事故といいますか、敵失で、野党共闘はなんとなくうまくもってきたという感じもしますが、野党のスクラムについてはいまのところどう総括していますか。

 志位 今度の国会、戦術上の違いはいろいろな局面であった場合もありますけれども、全体としては自民党の利権と腐敗の追及などを中心として、野党共闘がずいぶん成果をあげた。そして、効果的に相手の問題点を浮き彫りにしていく上で力を発揮したと思っています。これは大事にしていきたいですね。

「構造改革」──モデルにしていたアメリカ資本主義の腐敗と堕落

  さて、一年二カ月がたってきた小泉政権。「構造改革」ということでスタートした政権ですが、どうもこの数カ月、変調といいますか、もともと内在していたのが出てきたという面もありましょうが、最近の乱調ぶりをどうご覧になっていますか。

 志位 私たちは最初から、「構造改革」の路線というのは、国民に痛みをおしつけるだけでなくて、それ自体非常に矛盾をはらんでいて、日本経済の立て直しにも役に立たない、必ずいろんな悪循環がこのなかから生まれてくるとはじめから指摘してきました。そのとおりにことがすすんでいるというふうにみています。

 たとえば、「不良債権の早期最終処理」というのが一枚看板みたいに強調されたわけですけれども、一年間たって不良債権は、逆に大手行で一・五倍に増えるという事態です。結局、そういうむちゃな中小企業からの資金引きはがしをやれば、大量の倒産、失業がおこって、社会全体の需要を冷やして、そこで新規の不良債権が発生する、この悪循環に入ってしまっています。完全な破たん状態にいま陥っています。

 やはり大銀行や多国籍企業に軸足をおく経済運営から、雇用や社会保障、そういう庶民の暮らしに軸足を移すところに転換をはからないと、どうしようもないところにきていると思います。

  政府の方の見通しでは、景気は底を打ったという話であるにもかかわらず、アメリカの経済の変調に合わせて、日本経済もなかなかそう簡単に底を打ったといえる状況じゃないようですね。

 志位 そうですね。「底を打った」という判断自体のときに、主に根拠にしていたのは輸出が増えたということでした。あのときも内需の中心である個人消費と民間設備投資は冷え込んだままだという状態だったわけですね。私たちは「底を打ったというけれども内需は冷え込んでいるじゃないですか。もっぱら外需、アメリカ頼みという弱さを抱えているじゃないですか」というコメントを出したんですけれども、そのあとさらにアメリカの経済がひどいことになって。

 アメリカの経済をみていますと、去年のエンロンの破たん、今度のワールドコムの粉飾決算。ひどい腐敗の状況ですね。“アメリカの経済が非常にフェアでフリーで透明だ、日本のモデルにするんだ”ということで竹中さん(経済財政担当相)なんかが中心に、アメリカでやっていることをモデルにして、これこそグローバルスタンダードだからと、日本にもあてはめて、そして企業の株主の利益だけを最優先させて、株価がどんどんあがるような、そういう規制緩和の政治をやれば日本も栄えるんだ、とさんざんいってきた。

 (ところが)本家の方が実は粉飾決算と目を覆うばかりの乱脈と腐敗に覆われていた。しかも大手企業を監査するアンダーセンという監査企業、これも腐っていた。その監督が必要じゃないかという話でしょう、いま。

 彼らがモデルにしていたアメリカ型資本主義の腐敗ということが明りょうになったという点でも、私は「構造改革」路線を、本気になって見なおす必要があると強くいいたいですね。

「税制改革」──大企業・大金持ち減税、庶民増税をセットで

  「構造改革」のなかでも、小泉さんが今年になって打ち出してきた税制改正はどうも政府・与党の方でも諮問会議だ、政府税調だ、党税調だということでどうも乱打戦になって(笑い)、収拾がつかなくなったとみているんですが…。

 志位 これも、対立というより役割分担ではないかと思います。

 やはり政府・与党がずっと一貫しているのは庶民には増税、そして大企業と大金持ちには減税と、これをずっと九〇年代、そういう税制改悪を続けてきたわけです。その結果、税の空洞化が非常に深刻になってきてしまった。それをもっと進めよう(ということです)。

 主に減税の方を声高に言っているのが、経済財政諮問会議の方です。これは法人税の引き下げをもっとやれとか、所得税の最高税率を引き下げろとか、金持ち・大企業減税を言いますね。

 増税のほうを主に受け持って(言って)いるのが政府税調の方で、こちらは消費税の増税、外形標準課税、それから所得税の控除の縮小という形での大増税ですよ、これは。

 消費税増税もたいへんですけれども、外形標準課税はかなり、実行段階として準備されていて、これをやられますと本当に第二消費税になります。

 いままでの法人税というのは利益にかかっていたわけですけれども、今度はたとえば人件費などにかかってきます。はっきりいえば、人減らしをやった企業の方が税が軽くなる、あるいは賃下げをやれば税が軽くなるという形でひどいリストラの促進にもつながりますし、中小企業にたいする非常に深刻な打撃にもなるような大増税計画です。

 これは任務分担ではないかと思います。小泉さんからすれば、両方に言わせておいて、大企業・金持ち減税と庶民増税をセットで進めようということではないか、と私は見ているんですが。

「政治とカネ」──企業献金と機密費問題にみる居直りの姿勢

  政治とカネの問題で、自民党はスキャンダルが起きると、政治資金の見なおしとか、選挙制度改革とかで、一応しのいできた面があるんですが、今回、そういう動きさえでてきていないことについてどうご覧になっていますか。

 志位 おっしゃるとおりで、これまでいろんな事件があったときに、とにかくなんらかのごまかしの策を出しましたよね。たとえば九〇年代初頭のゼネコン疑惑のときは「疑惑がかけられたら党として究明する」といったもんですよ。

 ところが今度は、小泉さんの口から出てくるのは、まず疑惑政治家の問題が起こってくると「疑惑はご本人が解明する」と、進退の問題が起こってくると「進退はご本人が判断する」、だいたいこの二つしかないでしょう。企業献金については、“スポーツでも音楽でも企業が寄付するから、政治家にも寄付するのが当たり前だ”と、まったくの開き直りです。スポーツや音楽に寄付するのは広告になるから寄付しているわけで、自民党に寄付しても広告にならないですよね。政治をゆがめるために寄付しているわけですから。これを同列において、企業献金を開き直るという立場ですから、ほんとうにこの点での自浄能力がまったくなくなったということを強く感じます。

 それからもう一つ、「政治とカネ」という問題でいいますと、私が注目してみたのは機密費の問題なのです。私たちは機密費の問題について、かなり詳細な使途について、私的・党略的な流用がやられているということを事実をもって示しました。この問題について、政府側からいっさい反論も調査もありませんでした。

 四月一日付で官房長官名で出された「基本方針」、「取扱要領」なる文書をみたら、なるほどと思うことがあるのです。だいたい私たちもそうではないかなと思っていたのですけれども、機密費は二重構造になっている。つまり、全体が秘密なのですけれども、秘密の中でも秘密のカネがあって、つまり「官房長官扱い」というカネがある。これは、まったく、自由勝手に使える部分です。それがあるということが、政府の方針でもハッキリしました。

 つまり、官房長官自ら使う分については、これはだれに出したかという記録を内部的にも残す必要がないという仕掛けになっているということがあの文書でハッキリした。それ以外のものについては、一応内部的な記録は五年間は残ることになっていますが。

 去年、「古川ペーパー」というのを私たちは示しました。いわゆる「上納」が明らかになっている官房文書です。この中にも、仕分けがありました。政府の賓客が来たときの接遇費とか、政府の会議費とか、いわば、機密費のなかでも機密の度合いが低いだろうと思われるような、出しても恥ずかしくないだろうと思われるものは「経常経費」としている。

 それとは別に「官房長官扱い」というのがあって、これにかなりの額のカネがあって、その「予備費」から、たとえば消費税のために一億円がボンと出ているとかいう話が入ってくるわけですね。だから、機密費というのは全体がダーティー(汚い)なのだけれども、ダーティーの中でももっともダーティーな部分が「官房長官扱い」というカネで、これが二重構造になっているというのが分かったのですね、あの文書で。なるほどなと思いました。

 このヤミを本格的にきちんと究明するという仕事は、息長くやっていきたいと思います。

十月の国政補欠選挙、いっせい地方選挙などについて

  政局は国会が七月いっぱい、九月になると内閣改造があるかどうか、十月には統一補選があり、そのあとには統一地方選挙が控えています。この「秋の陣」はどういうかまえでいくのですか。

 志位 十月二十七日の五つの国政選挙の補欠選挙では、五つともわが党の候補を擁立して、躍進・勝利を期すという取り組みを確認しています。五つとも候補者は、内定を含めて決まっています。七月から遊説開始ということで、どんどん準備をすすめていきたいと思っています。

 これは、五つのうち三つが「政治とカネ」の関係でやめた補選ですから、その点ではこういう利権・腐敗政治自体が問われますし、小泉政権が続いていれば一年半が問われるという大事な選挙になってきます。今後の国政・地方政治に与える影響も大きいですから、全力をあげて良い結果が出るようにがんばりたいと思います。

  選挙では野党共闘はとりあえず、置いておいてということでしょうか。

 志位 私たちは原則をもっていまして、選挙協力ということについては、一つは政策協定がきちんとできること、もう一つはギブ・アンド・テークで、これは一方的におすということはないですから。そういう条件はないですね。

  その後に統一地方選挙が控えていて、これについてはどういう位置付けですか。

 志位 今度の統一地方選挙は、やはり国の政治が非常に荒れて、とくに暮らしを粗末にする政治が横行しているというなかで、そういう国の悪政からほんとうは防波堤になって住民の暮らしを守らなければならないのが自治体なのですね。この役割が問われると思いますね。

 医療や介護や、自治体単位で運営しているさまざまな問題、そこでは国の政治が悪くても、自治体で住民を守る政治をしっかりやっていかなければならない。

 それから、たとえば中小企業の問題でも、これは残念ながら私たちは選挙では善戦、力戦したけれども、及ばなかった東大阪(市)でやったことですが、中小企業の全事業所訪問とそれにもとづく創意的な施策の開始というすばらしい業績を残しているのです。自治体としてやれる仕事が、こういう不景気のなかでもあるわけですから、どういうふうに中小企業をしっかり守る仕事をやっていくか、これも大事なことになるわけで、そういう問題も大いに問題提起してやっていきたいと思います。

  石原都知事、石原都政についてはどうご覧になっていますか。

 志位 やはりきわめてからい点がつきますね。

 二つの問題がありまして、革新都政時代につくりあげた、いろいろな福祉のための、暮らしのための諸制度をねこそぎ、かなりの部分をとりはらうような大改悪をやってしまったというのが、都政の面での一番の罪悪として残りますね。

 もう一つは、いわば都知事の地位、立場を利用して、いろいろなタカ派の発言を平気でふりまく。これは都知事であっても、日本の有力政治家がそれをいうことによって、近隣諸国との関係がどれだけ障害になったか分からないぐらいの問題をつくりだしている。これももう一つあります。

 この両面で、私たちは、いまの石原都政のあり方にたいして、正面から対峙(たいじ)するたたかいが必要になってくると思います。