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鈴木宗男逮捕と延長国会にのぞむ態度

CS放送・朝日ニュースター「各党はいま」6月19日(大要)



 日本共産党の志位和夫委員長は、6月19日、CS放送・朝日ニュースターの番組「各党はいま」に出演し、鈴木宗男衆院議員の疑惑や会期延長問題やその後の対応などについて質問に答えました。聞き手は、朝日新聞政治部・くらし編集部記者の梶本章氏でした。

 梶本 通常国会はきょう19日、会期末を迎えました。一方、検察当局から逮捕許諾請求が出されていた前自民党の鈴木宗男代議士も国会の手続きが終わりしだい逮捕される方向です。そこできょうは鈴木問題や国会対応などについて話を聞きたいと思います。

鈴木宗男逮捕をどうみるか

 梶本 鈴木問題なんですけれども、共産党は「ムネオハウス」の発掘ですとか、非常に政治的に力を入れてきたわけなんですけれども、いまの事態、どんなふうにご覧になっておられますか。
 志位 司直のメスがとうとう鈴木氏本人に入ったという点では、国会での私たちをふくめた追及と、国民世論、運動がここまで追い込んだという、前進だと思います。ただここで問題を幕引きする、あるいは司法まかにするわけにいかないわけで、国会としてさらに全容の究明と責任の追及ということを続ける必要があると思います。
 梶本 これまでは国会の方では疑惑の解明と同時に、議員辞職勧告決議案提出、それから証人喚問という形で追及してきましたけれども、逮捕されると身柄がなくなってしまいますけれども、どんなことが考えられますか。

金権・利権の自民党の体質全体に追及を広げる

 志位 大きく言いますと、鈴木問題というのは自民党の体質そのものの問題だと思うのです。
 第一に、今度の「やまりん」問題をとっても、結局、行政に圧力をかける、請託を受けて口利きをやる、その対価としてお金をもらう、そういうやり方ですね。公共事業に介入する、支援事業に介入する、行政に介入する、介入して口利きをやってお金をもらうというやり方。これは多かれ少なかれ、多くの自民党の議員が、あるいは与党議員が手を染めているやり方ですが、これがまさに犯罪だということで問われた。
 しかも「やまりん」問題というのは小さな問題のように見えるけれども大事だと思うのは、わいろとされた五百万というお金は、いちおう届け出た政治資金なんですよ。(届け出ているんだけれども、わいろとみなされた。
 これまで自民党は、〃このお金はちゃんと政治資金規正法にのっとって届け出ています、やましいところはないんです〃というふうに言ってきたけれども、たとえ届け出ていても、わいろなんだという認定がされたことは、たいへん大事な点です。
 そういう点では、企業献金自体の禁止を私たちは求めていますが、それがまさに問われていると思います。少なくとも公共事業を受注している企業からの献金は禁止するという法案を出していますが、これぐらい通さなかったら、いったいこれだけの疑惑に次ぐ疑惑の国会で、国会は何をしていたのかということが問われますから、これは強く求めていきたい。
 第二は、そうやって集めた疑惑のカネを自民党にばらまいているわけですよ。すでに明るみに出ているだけでも3年間で58人の自民党、公明党の議員にムネオマネーが流れていた。合計2億4000万円が流れていたと。しかもこのばらまいたお金の原資はどこか。いままで鈴木宗男さんが届け出ているお金だけで、だいたい年間4億数千万円を集めていた。それ以外に3年間に3億円のヤミ金を集めていたという報道がやられました。そうなりますと、ヤミ金を原資にして配っていたということになってくるわけで、これは受け取っていた側の政治的、道義的責任も深刻になってくるわけです。
 つまり自民党という党が、そういう公共事業などに群がって、利権を得て、お金を吸い上げて、「表」からも「裏」からもお金を吸い上げて、そしてそれを配る。配ることによって党内の地位を上げて、できれば派閥の領袖になっていこう、あるいは総理・総裁を目指そう。自民党という党はこういう党だということがまるごと明らかになった事件ですから、そういう問題としてさらに追及の手を広げていきたいと思っています。

自浄能力のなさをさらけだした小泉首相

 梶本 鈴木さんの前に、自民党の次の世代を担うといった、次の総理といわれていた加藤紘一さんも議員辞職されましたけれども、この方の秘書がやられたということでありますけれども、やはり同じような口利きで(志位「同じですね」)、同じようになっている。
 志位 加藤さん、井上裕参院議員、鈴木宗男さん、あれだけ出てくると、自民党全体がそういう体質で汚染されているということが深刻に問われているわけです。
 もう一つ問題は、これだけ問題が出ても、自浄能力がないわけですよ。今国会でどうして小泉さんに対する支持が離れたかという一番大きな原因の一つが、これだけの不祥事に対して、指一本動かそうとしなかったですね。
 彼から出てくるのは、疑惑が出てきたら、「疑惑をかけられた政治家は、ご本人が釈明することがまず重要だ」。もう一つは、進退が問題になったら、「ご本人が判断するのが重要だ」、これだけなんですよ。自ら党の総裁として、党の所属議員が起こした腐敗なんだから、そこにメスを入れようという姿勢はひとかけらもなかったですね。
 逆に、私たちがたとえば、再度の証人喚問を要求すると、これを妨害する。あるいは議員辞職勧告決議案の上程を妨害する。こういう妨害の役割を果たしてけれども、自ら究明する、自浄能力のかけらがないというところが、さらけだされました。これも大きな問題だと思います。
 梶本 一連の事件というのは、自民党の利権構造の体質がちっとも変わっていないということを示していると思うんですけれども、この十年間ぐらい「政治改革」といってきたんですけれども、こっちのほうも「失われた十年」というか、なんの効果も上がっていないんじゃないかなと…。

腐敗の拡大再生産の根源は企業献金

 志位 結局、政治腐敗の根源というのは企業献金にある。企業献金は、「表」のものであろうが、「裏」のものであろうが、企業の側からみれば見返りを求めてお金を出すわけですから、すべてわいろ性をもっている。だからこれは根本から禁止すべきだということを私たちは一貫して言ってきました。それをやらずに、問題を選挙制度にすりかえて、小選挙区制という悪い制度を通したり、政党助成金という国民の税金ーー(梶本「これは共産党はもらってません」)ええ、もらいませんーーこの憲法違反の(国民の税金を)山分けする仕組みをつくったり、ほんとうの悪の根源にメスを入れないできたという事態が、いまの事態をつくっていると思います。
 それが根源にあるわけですから、そこにメスを入れなければ、腐敗は拡大再生産されていつまでたってもなくなることはないですし、政治の信頼というのは回復できません。ですから、企業献金禁止というところに本格的に踏み出していくということを強く求めていきたいと思います。

国会の不正常な事態をつくりだした責任と原因はどこにあるか

 梶本 次に、会期末の話についてうかがいたい。防衛庁のリスト問題、健保法(改定案)を与党単独で委員会採決した、(鈴木議員の)許諾請求、会期延長の問題、議員辞職勧告決議案ーー五つぐらいの問題が一挙に出てきています。共産党はそれぞれどういう方針でどう臨んでいるか、理由などについて教えていただきますか。
 志位 一番最初の問題からいきますと、なぜ国会が不正常になったかといいますと、防衛庁の「個人情報リスト」の問題に関して有事特別委員会にたいして、政府がウソの報告をやったというところからきているわけです。
 つまり、4枚モノの「概要」を、「報告書」のすべてですというふうに防衛庁は偽って報告した。しかし実際には40ページ近いものがあって、それが「報告書」の本体だった。それを隠して、政府として4枚モノがすべてというウソを国会にたいしてついたわけですね。
 これは、国会と政府の問題なんですね。行政府が国権の最高機関にたいして虚偽の報告をしたということになりますと、国会と政府の正常な関係が根本から崩れるわけですよ。そういうことをされたら、その政府が出している法案の審議の土台自体が崩れるんですね。
 この問題について、なぜそういうウソをついたのか、そのウソをつく過程で与党三党も介在したと言われているけれども、どういうふうな力が働いたのか、それをきちんと明らかにして、経過と責任の所在と謝罪を求めるということを野党四党が一致して求めてきた。それが審議の前提となりますよという問題があったんです。
 ところがそういう事態のなかで、国会が不正常なままの状況をみずからつくっておきながら、健保という大事な、国民の命のかかわる医療費を値上げする法案を、野党不在のまま一方的に強行するという二重の暴挙をやってきたというのがいまの実態です。
 ですから、私たちは今日の本会議にたいする対応でも、鈴木議員の逮捕許諾請求についての本会議の問題は、これは当然のことですから別個の問題として応ずる。しかしその問題で、さっき言った国会をあざむいた罪は消えるわけじゃないですから、これはこれで別個に解決することが求められるという対応をしようと考えています。
 梶本 国会をいままでやっていたときは勧告決議の再上程を阻止したわけですけど、国会が異常状態になったら正常化するために鈴木問題を与党側が利用するという皮肉な結果になっています。
 志位 これはほんとうに厚かましいやり方なのですよ。もともと、鈴木議員は自民党の議員であって、自分たちの不始末なんです。自分たちがきちんとケリをつけなければならない問題なのに、それを自分たちが重ねた罪をごまかすために使おうとしているのは与党ですから、ひじょうに厚かましいやり方なわけで、きっぱりした対応を野党はとるべきです。

医療改悪法案強行は道理のない暴挙ーー廃案に全力をつくす

 志位 健保(法改悪案)の問題についても、だいたい健保の審議の過程を見てても、地方公聴会しかやっていないのです。中央公聴会もやられていない。あれだけの重要法案なのに。2600万人もの人たちが反対署名をしているわけです。国民の5分の1ですよ。そういうもっとも批判が強い重大法案で、ああいう強行採決は許されるものではありません。
 私たちは、健保の問題で、審議の過程のなかで二つの問題をいってきました。つまり、国が医療費のたいする国庫負担の割合を減らしてきた。20年間で30%から25%に減らしてきた。この責任を放棄してきたという問題と、高すぎる薬価という問題、この二つの問題にメスを入れて解決しようということをずっといってきました。
 そうしましたら、新しい動きなんですが、6月10日に厚生労働省が通達を出しました。国立病院にたいして、新薬偏重になっている。これを直して、もっと安い薬に切り替えるべきだという通達を出したのです。これは一歩なんですが、私たちがずっと言ってきた高薬価の仕組みを直せということを政府自身も認めざるをえなくなってきたという変化なんですね。
 この問題にメスを入れただけでも一兆、二兆という財源は出てくるわけですから、国民に負担を求めるということ先にありきでなくて、こちらのほうにメスを入れて、いかに負担を取り除くかという真剣な議論が必要なのです。
 そういう新しい変化があったら、新しい変化なりに議論が必要なのに、打ち切って一方的にやってくるというこのやり方自身も、ほんとうに道理のないもので、私たちは、これにきびしく反対という立場で廃案をめざしてがんばります。

野党の国会共闘のこんごの展望は

 梶本 いままで野党は比較的よく歩調をあわせて共同歩調をとってきましたが、若干会期末のところで、野党第一党の民主党と自由、社民、共産の三党の足並みがやや乱れてきたなという感じもするんですが、そのへんはどうですか。
 志位 戦術的な問題で、どういうふうに本会議で対応するかという点での違いがそれぞれあると思います。ただ、私たちの立場からいいますと、野党四党の合意にそくして対応しているというのが私たちの立場なんです。
 二つの合意がありまして、一つは、さっきいったように防衛庁のリスト問題での政府のきちんとした対処を求める。これがきちんと正常化の前提になってくる。もう一つは、許諾請求の問題は切り離して応ずる。セットでやらないという二つを四党で確認しているのですよ。ですから四党の確認にそくして、私たちは対応しているということですね。
 そこは対応は分かれたのは事実です。ただ、今後の問題についていいますと、やはり後半国会で野党共同でやっていく課題はたくさんある。リスト問題の追及は徹底してやる必要があります。それから有事法案と医療改悪法案、この二つの巨悪の法案をはじめとする悪法阻止という点ではかなり足並みそろっていますから、民主党も含めて有事法制は廃案を決めたようですから、火種を残さずきっぱり廃案という方向での協力はやっていかなくてはならない。
 もう一つ、政治とカネの問題では、鈴木疑惑の徹底究明、それから公共事業受注企業からの献金の一定期間禁止の法案、これは野党四党共同で出していますが、与党の方は審議に応じようとしていませんから、これこそ最優先で審議して通すべきだと、この共同は今後もやっていきたいと思っています。

4悪法の会期内不成立ーー「出した法案も、出した勢力も悪かった」

 梶本 延長国会の展望をおっしゃいましたけれども、いま会期末なのに、世に言う四大法が会期末になっても成立の目途がまったくたっていない異常な事態、そのへんはどうみておられるんですか。
 志位 まず、法案を出した政府・与党の腐敗と不祥事が噴出したこと、これが一つ大きな要因です。
 とにかくこの国会をふりかえってみましても、鈴木宗男疑惑、加藤紘一疑惑、井上裕疑惑、たくさんの疑惑がつぎからつぎへと出てきました。
 それから農水省はBSE(狂牛病)の問題でたいへんな失政が明らかになる。外務省は瀋陽の事件も対ロシア外交も、非核三原則の問題でも外交能力喪失という状態になる。防衛庁は防衛庁で個人情報リスト問題で思想調査やっているという体質があらわになる。
 ですから、もう政治も行政も頭から腐っているという状態が出てきた。それは基本の政治道義の問題ですから、まず国会で、徹底的に究明するということが優先されました。
 それから出してきた法律の中身自体が、やはり全部国民の利益にそわないというものだということが審議を通じて明らかになってきた。
 有事法案についても、日本が攻められての「備え」ではなくて、アメリカが世界で干渉戦争、介入戦争、場合によっては核戦争、これをやるときの応援のための「備え」だということが明らかになってくる。そういうなかで、法案上のいろんな矛盾や不備も次々出てくる。ほんとうに危険かつ出来ばえの悪い法案だということが有事三法案(の中身)が明らかになるなかで、急速に反対が広がりましたね。最初は反対が少数派だったんですが、いまはもう逆転して多数になっています。
 いまいわれた四つの法案、どれをとっても国民のなかでは反対派が多数でしょう。やはり出した法案も悪かった。出した勢力も悪かった。

自民党は国会運営でも当事者能力を喪失しつつある

 志位 もう一ついいますと、国会運営をやる与党なりの態勢がなくなったと思いますね。
 梶本 普通は四つ全部通せなんていうことではなくて、整理がなされるものなんですが…。
 志位 整理をしたり、彼らの段取りを踏んでやってくるものなんですが、たとえば今度の有事法制をめぐって公聴会の日程を一方的に決めたでしょう。あれはほんとうに暴挙だったんですね。私たちがこんな暴挙は認められないという話をやりましたら、結局引っ込めました。強行しようとしたけれど崩れる。強行という点で政府・与党が一枚岩でまとまっていたわけでもなく、ただなりゆきでやっちゃおうというやり方ですね。それが結局与党にとってかなり大きな打撃になる。
 国会を運営するまともな司令塔もなければ、見通しもなく、ただそれぞれの場所、場所でやっているということですね。
 とくに感ずるのは総理大臣自身が全部人ごとですませているということに加えて、自民党の幹事長がみずからスキャンダル抱えていて、動きがとれない。橋本派は橋本派で鈴木宗男さんが橋本派の中心のひとりでしたからこれもなかなか身動きがとれない。それぞれが身動きがとれないんで、国会運営について、当事者能力がなくなっている。
 私はこの前の四中総の報告で自民党は政権党としての統治能力すら失いつつある。外交、経済、いろんな分野でそうだといったけれども、国会運営するまともな力も失いつつあるということを感じますね。

アメリカのやることはなんでも結構の異常

 志位 自民党の崩れという点で、別の角度から感じることを一ついいますと、アメリカとの関係がすごく異常な関係になっていると思うんです。この間、私は、有事特と党首討論で二回、小泉さんと論戦する機会があったんですが、有事特では「例のラムズフェルド国防長官の先制攻撃論をどう思いますか」と聞いたんですよ。そうしたら、「これは選択肢の一つとして理解する」と言いきっちゃうんですね。
 党首討論では、アメリカの「核態勢の見直し」という、いわゆる非核保有国に核攻撃をやるという、これ(方針を)どう思いますか、こう聞きましたら、「これも選択肢です」というんですね。
 ここまでアメリカの無法な戦争を理解する、この立場を表明した総理というのはないですね。橋本首相のときは、「先制攻撃のアメリカ戦略、どう思いますか」聞くと、「アメリカは無法な攻撃をやるとは想定していません」という〃想定しない論〃だったんですよ。
 いまはアメリカのやることはなんでも結構、財界の言い分はなんても取り入れます。この姿勢がずっと半世紀つづいてきて、とうとうここまで自民党がまともな国政運営能力の喪失というところにきているというのがいまの状況じゃないでしょうか。