2002年6月14日(金)「しんぶん赤旗」

CS放送朝日ニュースター 志位委員長語る

被爆国の政府として、核兵器への姿勢の根本が問われている

──アメリカの「核態勢の見直し」とかかわって


 日本共産党の志位和夫委員長は、十二日放映(収録十日)のCS放送・朝日ニュースターの番組「各党はいま」に出演し、福田官房長官の「非核三原則」見直し発言と米国の核政策、国会会期末への対応などについて質問に答えました。そのなかから核兵器問題にふれた部分を紹介します。聞き手は、朝日新聞編集委員の佐々木芳隆氏でした。

印・パで核戦争の危険が憂慮されていたさなかに、被爆国政府から逆流もちこむ発言

 佐々木 こういう会期末の重要な時期に、与党の人たちからいうと怒っている人もいるようですが、首相官邸の二人の首脳が核兵器に関連した不用意な発言をして物議をかもしていますが、どうご覧になっていますか。

 志位 核兵器というおそるべき兵器、日本の国が二度にわたって耐えがたい苦痛を押しつけられた兵器に対して、ひどい無感覚と無責任ということを感じます。

 とくに福田官房長官の発言というのは、日本の政府ですら将来にわたっての「国是」としてきた「非核三原則」の「見直し」に言及するという内容ですから、これはきわめて重大な発言で、韓国、中国、アジアのメディアはもとより、アメリカのメディアまで「日本の核政策の変更か」という衝撃がはしるような大問題になっています。

 いま、世界をみますと、インドやパキスタンでの戦争が危ぐされている、あるいはアメリカがいっそう危ない方向に核政策を切りかえる、こういう状況のなかでの発言であるだけに、ほんとうに危険きわまりない暴言です。私たちは長官の罷免を強く要求しています。

 佐々木 インドとパキスタン、両国があいたたかうようなことにでもなれば、核戦争みたいな悲劇が想定されると非常に緊張していますね。

 志位 これはたいへん心配な問題です。これまでもインドとパキスタンというのは、戦後ずっと対立関係にあって、三回の印・パ戦争があったのですが、今度は双方が核を持つ状況のもとでの緊張だということで、なりゆきが非常に心配されているわけです。

 わが党は、不破議長と私の連名の書簡で両国の政府の首脳にあてて、ただちに戦闘行為をやめるということ、話し合いのテーブルにつくということ、どんなことがあっても核兵器は使ってはならないということを、被爆国の党として要請しました。それぞれの大使館に私どもの代表が持っていきますと、この三項目については一致できるということを双方の大使がいうわけです。両国とも非同盟諸国の構成員ですから、紛争の平和解決あるいは核兵器の使用禁止・廃絶という精神に立って、問題を解決してほしいと強く願っています。

 佐々木 こういう時こそ、日本が戦後生きてきたやり方、考え方、非核に徹するという立場を生かして、国際的役割が十分に果たせるいいチャンスだと思うのですが、逆のことをやっているような感じがしますね。

 志位 そうですね。こういう時こそ、日本政府は、両国に対して、被爆国の政府代表として、核兵器不使用ということを、もっと目に見える形でいうべきです。ところが、逆のメッセージを世界に発信しているわけですから、これはいまの国際情勢に対しても逆流を持ち込むという点からも、とんでもないことです。

 佐々木 日本の役割をほんとうに期待したいものですが、この一件(福田発言)を見ておりまして、ある人はかなり知識不足の粗雑な議論だというふうに見る人もいます。

 志位 ええ。ICBM(大陸間弾道弾)と核兵器の区別もしないで、いったんは「合憲」といってしまうとかね。

「核態勢の見直し」──非核保有国にも核兵器使用を拡大する新しい危険な道

 佐々木 一方、これはアメリカの核戦略の変更を生かじりして、若干呼応しようとしてそういう言葉が出たのではないかと疑ってみる向きもあるわけです。アメリカ政策の動向が影を落としている可能性はありますか。

 志位 私は、核兵器という非道の兵器に対する無感覚の根本には、アメリカの核政策への追随という問題があると思います。

 一月にブッシュ政権が米議会に対して「核態勢の見直し」(NPR)という報告書を提出していますが、これがたいへんな内容だということがだんだん明るみに出ました。最初は「序文」の部分しか公表されなかったのですが、実は、機密扱いとされていた「本文」があって、それが最初は、断片的にアメリカのいくつかの有力紙に出たのですが、三月にかなりまとまった形で明るみに出るという事態になりました(注1)。

 そこには、中国、ロシアという核保有国に対する核兵器使用の計画だけではなくて、北朝鮮、イラク、イラン、リビア、シリアの五つの非核保有国に対しても核兵器使用の計画の策定を指示するという内容がはっきり書いてあります(注2)。

 これまでアメリカの核政策というのは、クリントン時代までは、まがりなりにも非核保有国に対しては核兵器の使用はやらないということを、一応の公約にしてきたんですよ。「核保有国、ならびに核保有国と軍事同盟の関係にある非核保有国をのぞいては、核兵器を使わない」というようないい方をしていました。これは「消極的安全保障」という言い方で説明されてきたものでした。

 これをすべて投げ捨てて、非核保有国に対する一方的な核使用を公式な方針としたということなのです。これは非同盟諸国から非常に強い批判の声明があがっています。世界中から批判と懸念の声があがるのは当然です。

 佐々木 アメリカ側としては、核兵器のほかに生物兵器、化学兵器といったもの、あるいはそれらがテロの手段に使われる可能性というふうなことを前提にして、そうであれば核の使用もあり得ると…。

 志位 あの報告書を読みますと、一つは「対テロ」―「テロに対する対抗」ということ、もう一つは「大量破壊兵器の開発を思いとどまらせる」ということが強調されています。つまりテロを支援している疑いがある、あるいは大量破壊兵器開発の疑いがある、その対抗手段としても核兵器を使うことがあるという宣言です。これはほんとうに一方的、先制的な核兵器使用ということになります。

 これまでのアメリカの核政策からも、さらに一歩深刻な危険の道に踏み込んでしまった。たいへんな政策にいま足を踏み出しつつある。

 たとえば、イラクへの軍事攻撃――戦争についてもあり得るのだということを言っていますけれども、イラクへの戦争でも核兵器を使うということが現実のものになってくるわけです。

 こういう方針がアメリカで出されてきたら、それこそこれに対して日本政府としてきちんと批判の立場をいうべきです。被爆国の政府として、核兵器を持っていない国にまで核兵器を使うような無法なことをやってはいけないということをはっきりいうべきなのですが、まったくいおうという姿勢はないですね。

米国の“覇権主義の暴走”と、それを許さない国際世論とのせめぎあい

 佐々木 いまのパレスチナの惨たんたる状況、あるいは欧州の消極論、反対論などを踏まえると、現にイラク開戦に踏み切るとアメリカが孤立するだろうとみているんですが、したがって軽々にやれまいとみているんですが…。

 志位 軽々にやれないというのはおっしゃる通りです。あのブッシュ大統領の「悪の枢軸」論に対しては、EU(ヨーロッパ連合)も反対。非同盟諸国は「こういういい方こそ政治的なテロリズムだ」と非常にきびしい弾劾の声明を出しています。世界中が批判しているわけですから、もし踏み切ったら、アメリカに対するたいへんな世界中の批判と(アメリカの)孤立という事態は避けられないと思います。しかし、いまのブッシュ政権の姿勢をみていますと、それも意に介さず暴走するという危険も感じますね。

 たとえば、アフガンでかなり精密誘導兵器を使ってしまって、在庫が少なくなったから、今度はイラク用にどんどんつくっているんだというようなことも報じられますでしょう。そういう状況をみますと、現実の戦争として想定し、準備しているということは、十分念頭において、この危険を食いとめるということを、国際社会としてしっかりやる必要がある。

 日本はどうかというと、インド洋に対する自衛隊の派兵は今年の十一月まで延長するということになった。そういうやり方がズルズル続きますと、アフガンの戦争を手伝っていると思っていたら、今度はイラクの戦争に日本が自動的に参戦ということすら現状ではあるわけです。

 佐々木 イラクがアルカイダないしは九月十一日のテロリズムに関係があるという立証が起こったり、新しいデータが出てきたり、そういう話になるといまおっしゃったような流れが現実化する可能性がありますね。

 志位 関係が立証されなくても、アメリカがことをおこす可能性はありますよ。これまでだって、イラクに対して、湾岸戦争の後も、何度も一方的な軍事攻撃をやっていますから。

 アメリカのいまの“覇権主義の暴走”はたいへんなところにきている。さっきいった核兵器の問題でも、「悪の枢軸」論でも、両面でたいへんなところまできている。ここはよく直視する必要があります。

 ただ、おっしゃられたように、それに対する批判も強いですから。簡単には許さない国際世論も広がっています。そのせめぎあいになっているのがいまの国際情勢だと思います。

“実際に使う核兵器”の開発──地下施設破壊のための新型核兵器開発も

 佐々木 アメリカの核態勢の見直しにかかわって、もう一つ、ミサイル防衛のときに迎撃ミサイルの弾頭に小型核をつけるとか(構想されています)。要するにあたらなくてもまわりを全部いっぺんに吹き飛ばせるということですね。

 志位 “実際に使う核兵器”の開発という方向にアメリカは踏み出しています。

 「核態勢の見直し」では、地中の深いところにある地下の戦略施設を破壊する核兵器も開発する―いままでのものでは能力不足だからもっと効果的なものを開発するとしています。世界にだいたい千四百以上のそういう地下施設がある。そういう地下施設を破壊できる核兵器を開発するんだという(注3)。

 実際に、“核兵器を使う”ということを想定においている。非常に核兵器を使うハードルが低くなってしまっている。そのための核兵器の開発ということを、今度のNPRでもはっきり打ち出しているところが、きわめて危ないところだと思います。

 それから、「核インフラストラクチャーの整備」ということもいうんですね。インフラストラクチャーというと、普通、下水道とか電気とかそういうものを連想するけれども、柔軟にいろいろな核兵器がつくれるような態勢をいつもつくってなくてはいけないという方針をたてて、いろんな新しい核兵器の開発をやる。核兵器の実験の再開も公言していますし、未臨界核実験はどんどんやるという方向ですすめています。いまのアメリカの核政策というのはほんとうに危ないところに来ているわけですよ。

米国の核政策にたいする追随が、核兵器への無感覚・無責任をうみだしている

 志位 そのアメリカに対する追随の姿勢が根っこにあるもんだから、核兵器を使うこと、あるいは核兵器を持つこと、それに対する被爆国としては絶対あってはならない無感覚が、わが国政府の首脳の中に生まれて、ああいう発言がどんどん出てくる素地になっていると思いますね。

 日本は唯一の被爆国なんですから、核兵器をなくせ、核兵器を絶対に使うなという目にみえるアクションを世界で起こすべきです。とくに、アメリカの非核保有国に対する核兵器の使用拡大という方針に対して、被爆国を代表してきっぱり反対するべきです。


 (注1)「核態勢の見直し」報告書(NPR)とは この報告書は、二〇〇二年一月八日に、米国防総省が、連邦議会に提出したものですが、そのときに公表されたのは、ラムズフェルド国防長官の署名のある「序文」のみで、報告書の「本文」は秘密あつかいとされました。

 その後、米紙ロサンゼルス・タイムズとニューヨーク・タイムズが、あいついで秘密報告書を入手したとして、その内容を明らかにする記事をのせましたが、中身は断片的なもので、報告書の全容が十分にわかるものではありませんでした。しかし、三月十四日に、アメリカの民間軍事問題研究所「グローバル・セキュリティー」が、秘密報告書の長文の「抜粋」をインターネットをつうじて公表しました。これによって、報告書のかなり詳しい内容が明らかになりました。

 米国政府は、報じられている秘密報告書の内容について、否定も肯定もしていません。しかし、ボルトン国務次官が、非核保有国への核兵器の不使用という米国のこれまでの政策について、「全体的な見方を変えようとしている」「その大部分は、『核態勢の見直し』の結論に盛り込まれている」(米軍備管理協会ホームページ、二月二十日)とのべるなど、事実上、その内容を認める発言をしています。

 (注2)七つの国への核兵器使用計画の策定 「核態勢の見直し」では、アメリカが備えるべき「非常事態」に対して、「核攻撃能力の所要を確定する」必要があるとして、「非常事態」を、(1)「即時の非常事態」、(2)「潜在的な非常事態」、(3)「不意の非常事態」に分類しています。

 そして、「北朝鮮、イラク、イラン、シリア、リビアは、即時の非常事態、潜在的非常事態、不意の非常事態のいずれにも関連する国」とし、「中国は、……即時の非常事態、もしくは潜在的な非常事態に関連する国家」とし、「ロシアにかかわる(核攻撃の)非常事態は、可能性としてはあるものの、予期されるものではない。……にもかかわらず、ロシアの核戦力と核計画は、いぜんとして懸念すべきものである」とのべています。

 さらに、「入念な計画立案は、予測される非常事態に対応する、事前に準備された、実行可能な戦争計画をうみだす。……これまで順応性のある計画がたてられたことのないような非常事態に対しては、十分に順応性をもたせた作戦立案が必要である」として、「順応性のある」――現実に即応した核兵器使用計画の策定の必要性を強調しています。

 (注3)地下施設破壊のための新型核兵器の開発 「核態勢の見直し」では、つぎのように、「地中深くに構築された堅固な目標の破壊」をたいへん重視し、そのためには、現在もっている核兵器では能力が不足しているとして、新型核兵器の開発を強調しています。

 「いまや七十以上の国が地下施設を軍事目的に使用している。国防科学委員会地下施設にかんする特別委員会は一九九八年六月に、世界中に一万カ所以上の地下施設があると報告している。約千百カ所の地下施設は(大量破壊兵器、弾道ミサイル基地、指揮所あるいは最高指揮・管制所などの)戦力的基地として知られているか、あるいはそうであると疑われてきた。国防情報局が明らかにしている最新の推定値では、この数字は現在千四百カ所以上に増加している」

 「アメリカは現在、唯一の地中貫通核兵器であるB61―11型重力投下爆弾という非常に限られた地中貫通能力をもっているだけである。この爆発威力を調節できない、非精密兵器は、堅固な地下施設が存在している多様な地層を貫通することはできない。……非常に深い地下施設や、規模がもっと大きい地下施設を破壊するためには爆発威力のもっと大きい貫通兵器が必要である」