2001年11月29日(木)「しんぶん赤旗」
日本共産党の志位和夫委員長は、二十八日放映のCS放送朝日ニュースターの番組「各党はいま」に出演し、米国によるアフガニスタン攻撃の現状、小泉内閣の特殊法人「改革」と第二次補正予算案などについて、朝日新聞の清原政忠政治部記者の質問に答えました。
清原 連日情勢が変化しているアフガン情勢ですが、どのように考えていらっしゃいますか。
志位 アフガニスタンでの戦争の推移は、タリバンによる支配が崩壊するという新しい情勢が生まれているわけですけれども、肝心のテロを根絶するということについていいますと、私たちは、「かりにタリバンが軍事的に破壊されても、あるいはビンラディンが捕そく・殺害されたとしても、米軍による軍事報復というやり方では問題は解決しない、テロの根は断てない、逆にああいうやり方というのは、テロの土壌を広げる結果になる」ということを言ってきたわけですが、本質はそういう事態が進んでいると思います。
これまでタリバンの圧政があった。ですから、その圧政から解放された人々からの喜びの声はあります。同時に、北部同盟もまた、同じような圧政をしいてきた歴史をもっていますから、それへの不安の声も聞こえてきます。
そして、間違いない事実というのは、軍事報復によって何の罪もないアフガンの民間の人々が、何百人、あるいは千人を超える規模で殺された。いまなお、そういう犠牲が出続けているということです。
自分の家族、あるいは親しい人が、まったく無関係なのに、空爆で殺されたということになれば、新しい憎しみが生み出され、新たなテロの土壌をつくることにつながる。
ですから、米軍の軍事的な行動の結果はわかりませんが、どういう結果になったとしても、こういうやり方ではテロの根は断つことができない。根本的な解決はできないと思います。
私たちは、こういうやり方ではなく、国連中心の国際社会の一致協力した制裁と裁きが大事だということを言ってきましたけれども、残念ながらそういう方向に事態が進まないで、こういう事態が生まれているわけですけれども、これでは問題の解決にはならないということを指摘したいですね。
志位 それからもう一点、私たちがいま、非常に強く危ぐしているのは、戦争の大規模化ということです。
これは、ブッシュ大統領自身が二十六日の記者会見で、「もし国家へのテロに使われる大量破壊兵器を開発する国があれば、責任を問われなければならない」という言い方で、対イラク攻撃を辞さずということを事実上宣言しました。
これまでのアメリカの論理でいけば、「テロリストをかくまう国はテロリストと同罪なんだ」ということで攻撃対象にしてきたわけです。今度は、それとは関係なくても、大量破壊兵器を開発する国は、同じように攻撃対象となる。テロリストをかくまおうがかくまうまいが、大量破壊兵器を開発する国は攻撃対象になるということで、イラクへの戦争の大規模化を強く示唆した。ラムズフェルド国防長官は、もっと踏み込んだ発言をしています。
米英政府高官筋の話では、ソマリア、スーダン、イエメンなどへの攻撃の拡大の見通しという報道もあります。そういうことになってきますと、戦争の性格が大きく変わってしまうことになります。
これまでの戦争も、国連による明確な手続きもないままで、アメリカが勝手に開始したという点で大きな問題をはらんだ戦争だったわけですが、かりに戦争が他の国に拡大するということになれば、これははっきりとした侵略あるいは干渉戦争に性格を変えていくわけで、これは絶対にやってはならないことだと思います。
清原 新しい局面に入る瀬戸際かもしれませんね。
志位 軍事アナリストのテイラーさんという人がいます。戦略国際研究センターというシンクタンクの上級副所長をやっていた人で、ブッシュ政権とも関係が深い人ですが、この人がかなりリアルな分析をしていて、「なぜアメリカが中東・南アジア地域に圧倒的な規模の兵力を築きあげてきたのか。四つの空母の機動部隊を展開したのか。それは、もともとアフガンへの戦争だけで終わらないで、中東、それもイラクに対する軍事作戦を当初から考えていたからだろう」と言っていますけれども、これは非常に危険な段階を迎えていると私は考えます。
清原 そういう悪循環にならないことをいのっています。
清原 内政の方ですが、七つの特殊法人の改革について政府・与党が大枠で合意をしました。とりわけ一番大きな問題になっている道路公団の場合は、国費の投入はやらないということは間違いないのですが、実際に、道路の整備計画をどのように見直していくのかということは、事実上先送りされたというふうに言われています。どうご覧になっていますか。
志位 これは、未供用の二千三百八十三キロの高速道路整備計画をこのままつくり続けるのか、それともこれは凍結し、無駄をやめるのかというのが一番の問題の焦点であるわけです。
ところが、今度の政府・与党の決着というのは、事実上、つくり続けるという方向に道を開く決着だと思います。
その最大のポイントは、高速道路の建設費用の償還期間を、当初、首相がいっていた「三十年」ではなくて「五十年以内」というふうに認めてしまったということです。これは、国土交通省の試算があるのですが、国費投入をやめて「三十年の償還」ということになるとほとんど新しい高速道路をつくれなくなる。しかし「五十年」となると全然計算が変わってきて、六割、七割はつくれるという見通しが出てくるわけです。
これは事実上、未整備の区間をやりましょうというゴーサインを与えたと(いうことです)。自民党の道路調査会長の古賀誠さん自身も、「五十年が担保されていたら、一年間で一兆円は投資できるから、大きな影響はない」とはっきりいっています。
ですから、結局無駄な道路について、ゴーサインが出てしまったという結果だと思います。
志位 国費削減の方もごまかしがあります。いまの道路公団に対する三千億円の国費というのは、道路特定財源から出ているわけです。
ところが、この道路特定財源が見直されるかどうか、これを一般財源化するかどうかは、その方針はまったくないわけですよ。
そうしますと、道路特定財源から公団への三千億円の国費投入をやめたとしても、三千億円があまるわけですから別の無駄な道路の整備に使われることになる。これも野中さん(元自民党幹事長)が「三千億円削っても別のところに使うんだから影響ない」と平気で言ってますよね。
結局無駄な道路をつくるという点では、従来の道を進むという決着だった。これは、小泉さんがまがりなりにも言ってきた、「無駄な公共事業をやめさせる」ということを、自分で覆す結果なんですよ。
清原 そう見ると、小泉さんがまるで勝利宣言したかのような、言いまわしをされているのが少しまゆつばということに…。
志位 まゆつばというか、全面的に無駄な道路行政を続けるということになりますね。
たとえば高速道路計画の中でも第二東名について、朝日新聞でも特集が出てましたけれど、「第二東名時速140キロで赤字一直線」。いかにこれは無謀な計画かということがマスコミでも取り上げられていました。
二十年後には(道路)需要が一・四倍になるという計算をしているのだけど、この五年間では道路での貨物の輸送量は減っているんですから、これはまったく成り立たない話です。こういうものもやることになるわけで、これはとんでもない決着をしたものだと思います。
やっぱり無駄な高速道路(計画)については全部いったん凍結して、抜本的に縮減するということをやってこそ本当の改革といえると思います。
清原 一方で、庶民に関係の深い住宅金融公庫を五年以内に廃止するということが書いてあるのですが、その中にただし民間の金融機関が円滑に融資業務を行っているかどうかを勘案して最終決定すると書かれているんですけれども…。
志位 そこは、住宅金融公庫が果たしている役割から、これを一気になくしてしまうということに対する批判が強いことを念頭に、そういうことが書いてあると思うのですが、基本的方向は廃止でしょう。
住宅金融公庫の特徴というのは、「長期・固定・低利」という、安心してマイホームのための融資を得ることができた。庶民にとってはマイホームを得るにはなくてはならない機関で、実際に五百五十万人が利用しているわけです。そういうものをつぶしていくという方向は明りょうに出た。
これもやることが本当に逆で、私は公的金融機関の改革をやるというのであれば、庶民のマイホームのための金融機関は改革して逆に使いやすくするということが必要であって、なくすのであれば大企業むけの、特別の長期・低利の融資をおこなってきた日本政策投資銀行――開発銀行と北東公庫が一緒になった――あんな銀行こそいらないですよ。
清原 私は石油公団は、そろそろお役ごめんの時期じゃないかなと思っているんですが、どうも決着の仕方があいまいですよね。
志位 そうです。石油公団がやってきたことは、本来石油会社がやるべき石油の開発などを肩代わりしてやってきた。これはハイリスクの仕事です。出るかどうかわからないわけですから。いろいろやってきたけどほとんど失敗して、大穴をあけて赤字つくってきたわけです。
もともと(公団が)こういう仕事をするのは間違っているわけですからきれいさっぱりやめる。背負っている借金は関連業界が負担するというのがあたりまえなのです。
一応今回は廃止(という方針)なんだけれども、業務は続けるという話でしょう。「金属鉱業事業団」というものに、高リスクの石油開発部門は移管する。結局(中身は)温存ですよ。石油公団つぶすんだといっているけれど、温存ですよ。
大企業向けの仕事はちゃんと温存する。無駄な公共事業、高速道路はつくりつづける。庶民のための金融機関はつぶしてしまう。これはまったく逆立ちしたやり方ですね。
清原 関連して、今年度の補正予算案がケリがついたと思った矢先に二次補正の話が出てきて、金額的にも固まってきたようですが、この一連の流れはどのように…
志位 第二次補正予算というのは、「小泉改革」の“自己破たん宣言”の予算になると思います。つまり、これまで「小泉改革」でともかく言ってきたのは、「景気対策としての公共事業積み増し政策はもう役にたたない、やりません」ということをさんざん公約してきたわけです。
党首討論会でも、私が「そうしたやり方は役にたたないと認めるか」と聞いたら、「それはもう役にたたないからやらない」とはっきり私の目の前で言いましたよ。自分で役にたたないというふうに認めてきた公共事業の積み増しによる景気対策というやり方――今度の第二次補正予算はそれが中心ですから――、それを復活させようというのはまさに、自分たちの言ってきたことの自己破たんです。
結局、「小泉改革」ということでやられてきたものは、一つは、「不良債権の早期最終処理」ということで、中小企業を無理やり国策としてつぶす政策をとる。もう一つは、リストラ応援をどんどん進めて、失業を増やす。それから社会保障については、医療についても介護についても負担を増やす。国民に対しては三重苦ですよ。
ですから、どんどん景気が悪くなる一方です。景気がどんどん悪くなるなかで、どうしようもなくなって、ついに公共事業の積み増しに手をつけざるを得なくなった。
志位 私は、財政支出をするというのだったら、公共事業を積み増すという、自分たちも破たんしたといっていたやり方を繰り返すのではなく、国民のみなさんが願っているのは、医療の負担増をやめてほしい、社会保障にもっと手厚い財政にしてほしいということですから、そちらのほうにこそ手厚い財政に切り替えていく必要がある(と思います)。
たとえば、今度二・五兆円の国費を第二次補正につけるというでしょう。そのなかの一・五兆円は、一般の公共事業ですよね。一・五兆円といいましたら、来年度予算で社会保障費の自然増から削るのが三千億円でしょう。(その)五年分ですよ。五年分のお金をぽーんとまた従来型の公共事業につけてやるというやり方です。それだけのお金を使うのだったら、社会保障の負担増を中止するというほうにお金をふりむける必要がありますね。
清原 いまの予算編成が公共投資の比率、配分がほとんど固定化して、福祉、文教とか少しまわしてもいいはずなのになかなか配分比が固定されて、それが構造改革をさまたげているのじゃないかという批判もあるのですが。
志位 それを(小泉首相は)自分で言ってきたわけでしょう。ところがそれをまた同じような配分で、同じようなところに流し込む計画を続けようとしている。
たとえば、そこに「環境」という“お化粧”をしてみても、実際は「環境」という題目で無駄なダムがつくられたりするわけですよ。「都市基盤整備」という題目をつけてみても、その名前で無駄な港湾をつくったり、空港をつくったりするわけですよ。同じやり方で無駄な事業をちょっと“お化粧”して続けるというやり方です。
従来型の自民党政治の、無駄な公共事業にともかくお金をじゃぶじゃぶ使って、借金を増やすという地金が出てきたなというふうに思いますね。
清原 小泉さんの場合は、旧来型の自民党政治を否定したかのように見えたからこそ、これだけの高い支持率を保ってきたと思うのですが。
志位 小泉政治というのは、いわゆる旧来の自民党、従来型の自民党を変えるんだということで国民の支持を獲得したわけですよね。ところが半年間やってみて、結局、内政を見てみても、無駄な公共事業は続ける。国民の福祉やくらしは切り捨てる。こういう従来型のものを続けるんだという地金がかなりはっきり見えはじめてきた。
やはり国民のみなさんはそれを見ぬいていくと思いますね。そしてこの政権に対する批判がどんどん広がる。そして何よりも、実体の経済はどんどん悪くなる一方です。失業をみてもGDP(国内総生産)を見ても、最悪の状況が進んでいるわけです。第二次補正のような手をうっても、これは効かないと自分たちが言ってきたような手ですから、これはなんの景気対策にもなっていかない。この面での悪循環も進んでいます。
やっぱり国民の家計消費、個人消費をあたためる政策に切り替えていく。社会保障に手厚い財政に切り替えていく。リストラをおさえて、雇用を本格的に増やす政策に切り替えていく、ということが大事になると思います。
清原 その辺の主張がだんだん説得力をもつようになるのじゃないですか。
志位 だんだんと私たちの対案のもつ値打ちが光ってくると思っています。
清原 日本外交が、田中真紀子外相就任後、どうもうまくいってないのじゃないかということが出てきているのですが、志位さんの目からみて、日本外交をどう(みますか)。
志位 田中真紀子さんの問題は、田中真紀子さんと外務官僚との間のいろんな矛盾がはたらいていてなかなか複雑な様相ですけれども、日本外交ということでいうならば、私は、田中真紀子さんがどうこうというよりも、小泉内閣自体にまともな外交はないと思うのですよ。
小泉外交がこの半年間やったことは、靖国参拝を強行してアジアの信頼を失墜させたこと。テロ問題での参戦法を強行して、ついに中東まで憲法違反の派兵を強行したこと(です)。これは私は中東の人々の日本に対するまともな信頼を失っていく(と思う)。そういう意味ではまさに“軍事一辺倒で外交なし”というのが、小泉内閣全体の特徴ですから、そこに変えなければならない問題があると思います。