2001年10月12日(金)「しんぶん赤旗」

一部の国による軍事攻撃と戦争拡大の道から、国連を中心にした制裁と“裁き”の道へのきりかえを提案する

各国政府首脳への書簡


 米軍は英軍とともに、十月七日夜(現地時間)、アフガニスタンにたいする武力攻撃を開始しました。

 私たちは、九月十七日に各国政府にあてた書簡で、米国への大規模テロを糾弾するとともに、その解決にあたっては、性急に軍事報復を強行するのではなく、国連が中心になり、国連憲章と国際法にもとづいて、テロ犯罪の容疑者と支援者を告発し、身柄引き渡しのための必要な制裁をおこない、“法による裁き”をくだすことが必要だと、訴えてきました。

 国連を中心とした告発と制裁という手段をつくさないまま、一部の国によってアフガニスタンへの軍事攻撃が開始されたことは、無関係の人々のあいだでの犠牲者の新たな拡大という点でも、テロ問題の道理ある解決のうえでも、大きな危険をはらむものだと指摘せざるをえません。

 諸国民のテロ根絶と平和への願いにたって、貴国政府にふたたび書簡を送り、私たちの見解と提案をお伝えするものです。

(1)

 軍事攻撃は、報復戦争という様相を色濃くしています。アフガニスタンでは、今回の攻撃によって、国連の人道援助にたずさわる非政府組織事務所が爆撃され、職員に死傷者が出たのをはじめ、民間人の新たな犠牲者が生まれています。軍事行動の継続と拡大によって、罪のない市民の犠牲がさらに広がることは、けっして許容できることではありません。

 米国政府は、十月七日に、国連安保理事会に提出した書簡で、軍事攻撃の対象が、今後、アフガニスタン以外の諸国に拡大される可能性をのべていますが、これは戦争の大規模化への強い危惧(きぐ)をいだかせるものです。

 軍事攻撃によって、それまでテロ根絶で固く一致していた国際世論に、亀裂と矛盾が入りつつあることも重大です。一連のイスラム諸国政府からは、武力行使への反対の声があげられ、イスラムの民衆からは激しい抗議の行動が広がっています。これらの亀裂が、テロ勢力に、破壊活動を拡大する絶好の条件をあたえることは、疑いありません。この点でも、事態は、憂慮すべき方向にむかっています。

 しかも、この軍事攻撃をいつまで続けたら、容疑者の拘束およびテロの根絶という目的に有効にむすびつくのか、そのたしかな見通しはどこにもありません。

(2)

 米国への憎むべき大規模テロを、だれが引き起こしたのか――その容疑者の特定は、問題解決の大前提となるものですが、この点で、ウサマ・ビンラディンが、十月八日に放映されたビデオ演説のなかでおこなったつぎの言明は、重大な意味をもつものです。

 ――米国へのテロを、犯罪でなく、神のくだした断罪として、全面的に賛美する立場を表明していること。

 ――世界から容疑者の疑いがかけられている事実を前にしながら、長い演説のなかで、自分にかけられたこの容疑を否定する言明を、まったくおこなわなかったこと。

 ――今後も、米国などにテロをおこなうことを、事実上予告していること。

 これらは、ビンラディンと、彼が組織した「アルカイダ」が、米国へのテロ攻撃を実行し、それに関与した、重大な容疑を、みずから裏づけたということにほかなりません。

 タリバンは、これまで米国へのテロを犯罪と認め、ビンラディンの容疑が明らかになったならば、身柄を引き渡すと言明してきました。ビンラディンをはじめテロリストのグループの身柄の引き渡しは、国際社会にたいするタリバンの義務であることは、いまや明白です。

(3)

 私たちは、以上の諸点をふまえて、いま必要なことは、テロ勢力との闘争を、一部の国による軍事攻撃と戦争の拡大という道から、国際社会の責任による制裁と“裁き”という道にきりかえることだと考え、そのことを国際社会に提案するものです。そして、この立場から、現在おこなわれている軍事攻撃は中止することを求めるものです。これによってこそ、テロ反対の国際的な大同団結を再建し、テロ勢力を徹底的に包囲し孤立させつつ、テロ根絶の道をすすむことができます。

 私たちの提案は、つぎのとおりです。

 第一に、国連として、今回のテロ事件にたいするビンラディンの容疑を公式に確認し、その身柄の引き渡しをタリバンに要求することです。

 第二に、タリバンがそれを拒否した場合の制裁の措置も、国連が主体になって、国連憲章第七章にもとづく強制措置という形でおこなうべきです。まず、アフガニスタン国民への人道的配慮を十分におこないながら、国連憲章第四一条にもとづく経済制裁などの「非軍事的措置」をとるべきですが、これを徹底してもなお不十分と国際社会が認定した場合には、第四二条にもとづく「軍事的措置」をとることも、ありうることです。

 第三に、ビンラディンなどのテロ容疑者にたいしては、厳正な裁判による真相の全貌(ぜんぼう)の徹底糾明と、処罰が必要になります。今回のテロ事件がたんに米国への攻撃にとどまらず、国際社会全体への攻撃であることを考慮して、国連のもとに特別国際法廷を設置することも、検討すべきです。

 これらのすべての手段は、国連が主体になって、国連が中心に、国連の管理のもとに、国際社会の一致協力した努力によって、おこなうべきです。国際テロを根絶するためには、国際社会の一致した包囲によって、テロリストの逃げ場が、地球上のどこにもなくなるという状況をつくることが不可欠です。それをなしうる主体となり、権限をもっているのは、国連しかありません。

 私たちは、ここに、今回の事態を、道理と理性をもって解決する道があることを確信するものです。

 貴国政府が、事態の解決のために、こうした方向で積極的な対応をされるよう、心から訴えるものです。

 日本共産党中央委員会議長・衆議院議員 不破哲三

 日本共産党幹部会委員長・衆議院議員 志位和夫

 2001年10月11日




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