2001年8月12日(日)「しんぶん赤旗」

日本共産党創立79周年記念講演会

参院選の結果と「日本改革」の展望(大要)

幹部会委員長 志位和夫


 十日の日本共産党創立七十九周年記念講演会で、志位和夫委員長がおこなった講演の大要は、つぎの通りです。

 みなさん、こんばんは。CS通信をご覧の全国のみなさんにもごあいさつをおくります。日本共産党の志位和夫でございます(拍手)。きょうは、暑い夏の盛りにこんなにたくさんのみなさんがお集まりくださいまして、まことにありがとうございます。私からも、心からのお礼を申し上げさせていただきます。(拍手)

 こんどの参議院選挙というのは、「小泉旋風」という私たちが体験したことがないような、政治的な突風が吹き荒れるなかでのたたかいでした。この「旋風」は私たちの前進をはばむ大きな圧力になり、困難な条件をつくりました。

 選挙の結果は、改選八議席を五議席に、残念ながら後退させるという結果になりました。比例代表選挙では、四百三十三万票の得票となりました。これは六年前の参院選挙の三百八十七万票を上回るものですけれども、九八年の参議院選挙、昨年の総選挙に比べますと、得票を減らす結果となりました。

 選挙をふりかえってみますと、今度の選挙ほど、「この深刻な暮らしの実態、暮らしの不安をなんとかしてほしい」という、国民のみなさんの痛切な思いを肌で感じた選挙はありません。それだけに、力が及ばず後退したことは、たいへんに残念であり、党中央として責任を強く感じています。選挙戦全体の総括については、党内外の方々の意見を広く受けとめて、つぎの中央委員会総会でおこないたいと考えています。

 私は、まず、ご支持いただいた全国の有権者のみなさん、猛暑のなか大奮闘してくださった党員、後援会員、支持者のみなさんに、心からのお礼を申し上げたいと思います。ほんとうにありがとうございました。(拍手)

選挙戦の総括の基本――

歴史の検証にたえうるたたかいをしたかどうか

 みなさん、今度の選挙戦の総括をするときの政治的基本はなんでしょうか。

 私たちは、こういう「旋風」が吹き荒れたもとでの選挙戦では、その「旋風」にどう立ち向かって、後で試されたときに政治的な検証にたえうる――歴史の検証にたえうるようなたたかいをやったかどうかが、一番大切だと思います。

 なにしろ、たいへんな「旋風」でしたから、これに“便乗”するという動きもありました。「旋風」の“おこぼれ”にあずかろうという動きもありました。しかし、そういうことをやって、ある程度の地歩をしめたとしても、後で矛盾がふきでれば、運命をともにすることになるではありませんか。

日本共産党の訴えは今後の展開のなかで必ず力を発揮する

 日本共産党は、選挙戦を通じて、小泉政治に対して、恐れず、正面から対決し、自民党政治をおおもとから変える「日本改革」の提案を、経済でも、外交でも、あらゆる分野で語りぬいた唯一の政党でした。

 私たちは、この政治的な訴えは、今後の政治の展開のなかで必ず生きて力を発揮するという確信をもっています。

 小泉政治の破たんは、選挙戦のなかでもすでに始まっていました。景気の深刻な悪化になすすべを持たない、国民への耐えがたい「痛み」の押しつけ、外交の大失態などであります。これは、わが党の攻勢的な論戦のなかでつくってきた変化でした。

 あるマスコミの関係者は、こんどの選挙での論戦について、つぎのような感想をよせてくれました。

 「小泉改革が国民に何をもたらすかという、肝心の問題について、一番もっともな中身のある論戦をしたのが共産党だった。それが他の党にも大きな影響をあたえ、選挙の終盤の様相はかなり変化が生まれはじめていた」

 投票率が予想されていたよりも低い率にとどまったことは、国民のなかに小泉政治に対する不安と戸惑いが広がったことを反映していると思います。この生まれつつあった変化を、日本共産党の前進に実らせるには、力が及ばず、時間が足らなかったというのが率直な実感です。しかし、小泉政治の問題点に真正面から切りこんだ論戦は、ほんとうに価値あるものであったと、私たちは思います。(拍手)

小泉政治の中身に、国民は白紙委任を与えたわけではない

 朝日新聞が選挙後の八月四日に世論調査を発表しました。さしもの猛威を振るった内閣支持率も69%に落ちました。「構造改革推進と景気雇用対策のどちらを優先してほしいか」という問いに対しては、「改革を進めてほしい」が35%に対して、「景気雇用対策を優先させてほしい」が56%と多数になりました。「小泉改革を信頼しているか」という問いに対しては、「信頼している」が37%に対して、「不安を感じている」が52%で、これも多数であります。「失業者が増えても不良債権処理をすすめることに賛成か」という問いに対しては、賛成が40%に対して、反対が44%、これも多数になりました。「靖国神社参拝をどう思いますか」という問いには、「慎重にした方がよい」が65%です。

 みなさん、ここには国民が、小泉政治の中身にけっして白紙委任を与えたわけではないということが、はっきりあらわれているのではないでしょうか。(拍手)

 そして選挙後のわずかな期間にも、わが党が主張してきた方向に世論が動きつつある、このことがはっきりしめされていると思います。

 自民党の山崎幹事長が、選挙後に、連合のトップ・セミナーで講演して、「構造改革」について、「国民全般に、これは何かと聞かれて答えられる人は一人もいない。一種のお経みたいに、『構造改革、構造改革』といっておれば人気があがった」といいました。この発言は問題になりまして、山崎さんは「ジョークだった」と弁明しましたけど、だいたいこういうのは最初に出た言葉が真相でありまして、後から何をいってもムダであります。(笑い)

 私は、この発言を聞いて、「小泉改革」の中身を国民が信任したわけではないことの、当事者の口からの正直な告白がここにあると思いました。

 私たちが、選挙で訴えたことが、今後の日本の政治にとってどういう意義をもっているのか。私はきょうはこの問題について、三つの角度からお話ししたいと思います。

経済の改革――

「国民の家計を応援して経済をたてなおす」、これ以外に道はない

 第一は、経済の改革についてです。

国策としての中小企業つぶしに、悲痛な声がよせられている

 私たちは、「小泉改革」が最優先の課題にしている「不良債権の早期最終処理」という方針について、“これは大銀行のもうけのために、国策として中小企業を無理やりつぶし、大倒産、大失業をまねく間違った政治だ。景気をよくしてこそ不良債権の問題を解決する道も開かれる”と訴えてきました。

 政府の方針はすでに深刻な事態をひきおこしつつあります。選挙中、選挙後、党本部や国会議員団にたくさんの悲痛な声が寄せられています。その一つを紹介したいと思います。

 「いままで毎月決められた分は返済してきたのに、急に不良債権処理ということで全額の返済を求められています。できなければ担保を競売にかけるという。これでは生活もできなくなります。こんなことでは、国民は自殺する以外ありません。こんなことではダメだといっているのは共産党だけです。共産党さん、ここは本当にがんばってください」

 こういう悲痛な声です。こうした声が、たくさんいま寄せられています。

 一方で、『エコノミスト』という雑誌の八月号(十四・二十一日合併号)に、東京三菱銀行頭取のインタビューが掲載されているのですが、そこではこういうことをいっています。“これからは借金をちゃんと返している会社でも、銀行がその会社の経営が難しいと判断したら、不良債権に分類し、廃業してもらうこともある”。大銀行が、政府の方針に力を得て、まさに冷酷な切り捨てを宣言してはばからない。こういう実態がすでに進行しています。

 不況がいっそう深刻化するなかで、この方針を強行したら、日本経済の破局をまねく。「共産党さん、ここは本当にがんばって」という声にこたえて、この悪政から中小企業の営業と雇用を守り、景気をよくして不良債権問題を解決するという道理ある政策に転換させるために、私たちは全力をつくしたい。この決意を申しあげたいと思います。(拍手)

需要拡大、家計応援の必要性の指摘は、立場の違いをこえて広がる

 日本共産党は、選挙戦を通じて、「国民の家計を応援して経済をたてなおそう」という訴えをしてきました。消費税の減税、雇用の拡大、安心できる社会保障――まとまった景気回復の提案をおこなったのは、日本共産党だけでした。私は、この提案は、今後に生きる大きな値打ちを持っていると思います。

 第一に、深刻化の一途をたどる不況を打開しようとすれば、これ以外には道はない、ということであります。

 私は、最近接した、二つの興味深い文献を紹介したいと思います。

 一つは、七月二十四日に発表された経済産業省の産業構造審議会のリポートです。ここでは、「経済停滞の本質的な原因」として、「九〇年代にほぼ一貫して需要不足の状況が続いていた」ことをあげています。そして、「家計消費の活性化が経済浮揚のカギ」と明言しています。政府の審議会ですから、「構造改革」推進の立場に立っているわけですが、「需要不足が原因」だという認識も、「家計消費の活性化がカギ」という認識も、私たちの認識と一致するではありませんか。

 いま一つ、『週刊東洋経済』の八月号(十一・十八日合併号)で、アメリカの元連邦準備制度理事会(FRB)――日本でいえば日本銀行にあたる機関の副議長をやっていたアラン・ブラインダーさんという方が発言しています。この発言でも、「不況長期化の最大の原因は需要不足であった」として、「可能なあらゆる手段を使って需要を喚起すべきだ」とのべています。そして、「車の通らない橋をかけたり、何もないところに道路をつくる」ことはもうやめて、「その分を消費税減税に切り替えるべきだ」と(拍手)、こういう提案をしています(拍手)。この発言も「構造改革」の推進論の立場に立つものですけれども、それ一本やりでは経済に破局をもたらすということが、強く警告されています。

 つまり、いまの経済の危機的状況を打開しようとすれば、需要を拡大することが不可欠であること、需要を拡大しようとすればその六割を占める家計消費を活発にすることが不可欠であること、そのもっとも効果的な方法は消費税の減税であること――この声は経済危機が深刻になればなるほど、立場の違いをこえて広がらざるを得ない、私はこう確信するものであります。(拍手)

大企業中心から国民生活中心へ――大きな政策転換の裏づけをもった提案

 第二に、わが党が訴えた経済提言というのは、ただ当面の緊急策だけでなく、大企業中心の経済政策から、国民生活中心の経済政策への大きな政策転換の裏づけをもった提案であるということです。

 私たちは昨年の大会で、日本経済は一九八〇年代以降、大企業はリストラによってばく大な利益をあげるけれども、それが賃金と雇用を抑えつけて、家計消費の拡大にはつながらない、こういう経済構造の変化が生まれているという分析をしました。つまり、“大企業が利益をあげれば、めぐりめぐって家計もよくなる”という議論はもはや通用しない、ということであります。このことは、私たちの国会論戦で、政府も認めました。そうであるならば、家計を直接応援する政策への転換が、経済のまともな発展にとってどうしても必要になります。

 ところが、自民党政治が、不況のこの十年間にとった政策というのは、あいかわらず大企業応援の一点張りでした。「景気対策」としてやってきたことといえば、ゼネコンむけの公共事業の積み増しと、大銀行をもうけさせるための超低金利政策、こういう「対策」しかやってきませんでした。国民には、増税と社会保障切り捨てとリストラが押しつけられました。

 いまの深刻な経済危機というのは、そういう大企業中心のゆがんだ政策が行き詰まり、破たんした結果です。小泉政権の「構造改革」というのは、「改革」、「改革」といいますけれども、このゆがんだ政策をさらに乱暴にすすめようとするものであって、これは「改革」でもなんでもありません。(拍手)

 「家計を応援して経済をたてなおそう」――このわが党のよびかけというのは、破たんしたこれまでのやり方、大企業応援一点張りのやり方とはもう決別して、国民生活応援の政治へ、経済政策を大改革しようという立場としっかり結びついた提案です。

 二十一世紀の日本経済を真剣に考えれば、これこそいま求められている本物の改革ではないでしょうか。(拍手)

財政の改革――

国民の暮らしを良くすることと財政再建との両立の探求

 第二に、財政の改革ですけれども、国と地方で六百六十六兆円にまで膨れ上がった借金財政をどう解決するかも、大きな争点となりました。

 端的にいいまして、国民の暮らしをよくすることと財政再建を両立してとりくむ道を探求するのか、国民の暮らしを犠牲にした「財政再建」か――二つの道の選択が問われました。

 小泉政権の「財政再建」論というのは、「来年度予算の国債発行を三十兆円以内に抑える」という量的目標だけしかなくて、国民の暮らしを守るという立場がどこにもありませんでした。私たちはこれでは国民の暮らしにたいへんな「痛み」が集中する、わけても社会保障の切り捨てが深刻になる、という批判をしてきました。きょう政府が来年度予算の概算要求基準を決めましたけれども、私たちの危ぐしたとおりの展開になってきています。

 政府の方針では、「公共事業の削減」も盛り込まれていますが、新しく重点的に予算を使う七つの分野というのがあって、そこには「都市の再生」などという名前での新しい公共事業も含まれていて、こっちの予算をそっちへ移すだけで、公共事業の浪費を削減するという保障はまったくありません。

「医療の大改悪を許すな」――国民的な大運動をよびかける

 はっきりしているのは、社会保障関係費を抑制するということです。お年寄りが増えることによって一兆円程度の自然増が見込まれる社会保障関係費の伸びを、三千億円削減する。この方針がきょう決められました。このしわ寄せは、医療に集中します。

 私たちは選挙中に、「小泉医療改革」というとんでもないことがやられようとしている、お年寄りの医療費の自己負担を二割に引き上げるとか、サラリーマンの自己負担を三割に引き上げるとか、所得の少ない方も含めてすべてのお年寄りから医療保険料を取り立てる新しい制度をつくるとか、とんでもないことがたくらまれているということをきびしく告発してきましたけれども、この危険が迫っています。

 三千億円の国費削減というのはたいへんな額です。思い出していただきたいのですが、九七年に押しつけられた二兆円の医療費の負担増というのがありましたね。あのときの国費削減はやっぱり三千億円あまりでした。どういう形になるかは、さだかではありませんけれども、大きな制度改悪ぬきには、三千億円もの社会保障の国費削減はできません。

 この改悪が、今年秋から来年の初頭にかけて具体化されようとしている。事態は切迫しております。みなさん、国民の命と健康を守るために、「医療の大改悪を許すな」――この国民的な大運動を起こしていこうではありませんか(大きな拍手)。このことを心から呼びかけたいと思います。(大きな拍手)

「逆立ち財政」転換の訴え――2つのごまかしにこたえる

 日本共産党は、「『公共事業に年間五十兆円、社会保障に年間二十兆円』という逆立ち財政の転換を」という提案をおこなってきました。相手にとっては一番痛いところをついている提案だけに、いろいろなごまかしもやってきました。

 一つは、「公共事業は十兆円しかない、これを削ってもたいした財源にはならない」というごまかしです。小泉首相は、討論会などで、口を開くと繰り返しこれをいいました。私は、その度に反論したんですが、十兆円というのは国の分だけであって、地方自治体の分が三十兆円、公団でやっている分が十兆円。これをあわせたら五十兆円になる。これは小学生でも簡単に計算できる算数です。だれも否定できない事実です。ムダな公共事業は、国だけでなく、地方にもあれば、公団でもやっています。その全体の改革が必要です。わが党が主張しているように、五十兆円を段階的に半分に減らす改革をやれば、国と地方であわせて二十兆円ちかい財源がでてきます。これは明りょうなことです。

 だいたい、政府のどんな統計をみても、事業計画をみても、国と地方と公団の合計を公共事業の総額としています。アメリカに約束した、二〇〇七年までの十三年間に六百三十兆円――毎年五十兆円を公共事業に使うという、「公共投資基本計画」というのがありますが、これも国と地方と公団の総額です。自分で「年間五十兆円を使います」という計画をつくっておいて、選挙になると「十兆円しかありません」。これはあまりにも国民をばかにした、ごまかし以外のなにものでもないではありませんか。(拍手)

 いま一つは、「公共事業を半分に減らしたら、建設業に働く業者と雇用が半分になる」、こういうこともいろいろ言われました。しかしこれも選挙中にも解明したように、巨大開発の浪費をやめて、福祉・生活型に転換すれば、中小建設業者の仕事と雇用を確保することは十分に可能であります。政府の統計でも、工事費百万円あたりの就労者数は、五億円以上の大きな工事では八人にたいして、一千万円未満の小さな規模の工事では十八人。つまり小さな規模の工事では、二倍以上の雇用効果があります。

 それにくわえてもう一つ、ムダな公共事業を削減して、暮らしと福祉にまわせば、景気がよくなる。景気がよくなれば、民間の建設需要が引き上がります。じっさいこの十年間の不景気によって、民間の建設需要はなんと二十兆円も減っている。とくに民間の住宅建設は七兆円も減っている。つまり民間の建設需要が減った分を、公共事業の積み増しで数字上の穴埋めをしてきたというのが、この間のやり方です。家計を応援して景気をよくすれば、住宅を建てるようになります。民間の建設需要が活発になります。ここでも大きな雇用効果が働くようになる。

 ですから、「逆立ち財政」をただすという私たちの改革の提案は、暮らしをささえる財源をつくるうえでも、財政再建のうえでも、中小建設業のみなさんの営業と雇用を守るうえでも、どの角度から見ても、考え抜かれた合理的方針ではないでしょうか。(拍手)

 国民の立場で、財政再建に取り組もうとすれば、この方針しかない。ここにも確信をもって、この実現のために力をつくそうではありませんか。(大きな拍手)

外交の改革――

“アメリカいいなり”“侵略戦争への無反省”をただして

 第三に、外交の問題ですが、小泉外交というのは、これまでの自民党外交のなかでも最悪のものだと思います。

 私たちが選挙戦のなかで根本的転換をもとめた外交の二つの問題は、まさにいまの熱い問題となっています。

国際ルール無視するブッシュ米政権に追随する小泉外交

 一つは、“アメリカいいなり外交”をただすということであります。

 アメリカはブッシュ政権になって、自分たちの「国益」のためだったら、どんな国際ルールも平気で無視する姿勢をむき出しにしています。地球温暖化防止の京都議定書からの一方的離脱という態度、「ミサイル防衛」構想の推進、包括的核実験禁止条約(CTBT)の「死文化」をはかる動き。すべて国際ルールを投げ捨てる暴挙です。あまりのルール破りのひどさに、ホワイトハウスの記者会見ではこんな質問がでたと聞きました。「第二次大戦後に結ばれた条約で、破棄しようと思わない条約はあるのか」(笑い)。そういう質問がでるくらいルール破りがひどい。

 ところが小泉政権がとった態度で、一つでもアメリカの横暴への批判があったでしょうか。京都議定書でもアメリカいいなりに交渉を引き延ばして、環境保護に最も不熱心な国だというらく印を押されました。

 「ミサイル防衛」構想の問題でも、「理解」「支持」を表明する。CTBTの問題でも、首相は「アメリカにはアメリカの事情がある」といって弁護する。なさけないかぎりではありませんか。唯一の被爆国の政府ならば、原水爆禁止世界大会の圧倒的総意として確認されたように、緊急の核兵器廃絶のための国際的イニシアチブを発揮する、これがなすべき仕事ではないでしょうか。(大きな拍手)

 私は、小泉外交では、日本は世界からいよいよ相手にされない国になってしまう。この“いいなり外交”の転換が急務だと思います。

「靖国」「教科書」――戦後の立脚点、従来の政府見解をくつがえす暴挙

 二つ目は、“侵略戦争への無反省”をただすということです。靖国神社への公式参拝、歴史をゆがめる教科書という二つの問題は、二十一世紀の日本の進路、日本とアジア諸国との関係を、深刻な危機におとしいれる、きわめて重大な問題に発展しています。

 日本の政治と社会のなかに、かつての侵略戦争を「大東亜戦争」と呼んで“正義のたたかい”と描き出し、植民地支配を合理化し、歴史の事実を百八十度ゆがめて描き出す潮流が、台頭跋扈(ばっこ)し、この流れに政府が事実上のお墨付きをあたえ、また首相みずからが同じ立場に身を置く、これがいま起こっている事態であります。

 日本共産党は、戦後の日本政治の出発点、憲法の立脚点を根本から否定するこうした動きに、きっぱり反対してたたかい抜く、この決意を申し上げたいと思います。(拍手)

 そして、いま進められていることは、これまで政府が公式にとっていた立場をも、すべて投げ捨てるものです。

 歴代自民党政府は、過去の戦争について、戦争の全体の性格を侵略戦争だとして、きっぱり反省する態度をとってきませんでした。しかしともかくも、一九九五年の村山首相の談話にあるように、「侵略と植民地支配への反省」ということを述べてきました。

 教科書問題については、一九八二年に官房長官の談話を出して、韓国との「過去の関係」を「反省」した「日韓共同コミュニケ」、「戦争を通じて中国国民に重大な損害を与えたことの責任を痛感し、深く反省する」とした「日中共同宣言」の精神を、教科書検定にあたって尊重するということを言明してきました。

 靖国神社の公式参拝についても、一九八六年の官房長官談話で、参拝を「合憲」としながらも、「諸国民との友好増進を念願するわが国の国益にも、そしてまた、戦没者の究極の願いにそう所以ではない」として、事実上、参拝は中止していくということを、国際的にも約束してきました。

 いま小泉首相が進めようとしていることは、こうした一連のこれまでの政府の公式の立場をもすべて投げ捨て、足で踏みつけることになる。アジア諸国にたいする国際公約のはなはだしい蹂躙(じゅうりん)そのものであります。

アジアとの友好の道を現在、未来にわたって壊す権利はだれにもない

 シンガポールの新聞の「聯合早報」が、最近、このような記事を書きました。「教科書は若い世代の人たちの《を形づくるものだ。歴史を改ざんした教科書がもたらす影響は、国と国との間の関係にとどまらず、同様に不誠実な次の世代を育てることになる」。そして現政権が「歴史の責任を次の世代に引き継がせたうえ、次の世代がひきつづき歴史につきまとわれたうえ、隣国の同世代の人たちと争うように導いている」と述べています。痛烈な批判です。

 私は、小泉首相がいまやろうとしていることは、今日の日本とアジアとの関係を破壊するだけではない、未来の私たちの子どもたちの世代にわたって友好の道を閉ざそうとするものだと思います。

 アジア諸国との友好の道を、現在だけではなく、未来にわたって破壊する権利は、だれにもあたえられていないということを、私ははっきりと言いたいと思うのであります。(拍手)

 日本共産党は、二十一世紀には、日米安保条約をなくして、本当の独立国といえる日本をつくることを、「日本改革」の大目標にしています。しかし、それ以前にも、日本の外交をむしばんでいる“アメリカいいなり”と、“侵略戦争の無反省”というこの二つの病気をただして、自主・自立の外交、歴史の教訓を踏まえた外交への転換をはかることは、ただちに取り組むべき課題です。

 わけても内外から批判が集中している靖国神社への公式参拝は中止すること、歴史をゆがめる教科書の検定合格措置は取り消すこと、私は、このことをあらためて小泉首相に強く求めるものであります。(拍手)

 経済、財政、外交と三つの分野でみてきましたけれども、どの分野でも国民の立場で未来を開こうとすれば、日本共産党のしめす方向しかありません。これは明りょうであります。

 私は、選挙後、連合のトップ・セミナーに初めて招かれる機会がありました。わが党の「日本改革」の提案をお話ししたのですが、予想を超えて共感の反響が寄せられました。わが党の提案が、これまで接触したことのなかった初対面の人たちにも説得力をもっていることを、私はあらためて実感しました。

 みなさん、この「日本改革」の提案に自信を持って、選挙で掲げた公約の実現に、新しい国会で、そして全国津々浦々で、全力をつくそうではありませんか。(大きな拍手)

この10年間の流れのなかで政治的到達点、展望を考える

 さて、いま私たちが立っている政治的到達点、展望はどういうものでしょうか。

 この十年間、自民党政治は、みずからの危機の深まりのなかで、さまざまな延命作戦をおこなってきました。十年間の流れのなかで、現状と展望をみることが大切だと思います。

「非自民旋風」――筋をつらぬいた党のがんばりが躍進につながった

 まず第一にとった延命作戦というのは、一九九三年のいわゆる「非自民」作戦であります。これは一時的に政権の担い手を変えて、自民党政治の延命をはかるという作戦でした。

 九三年の総選挙をふりかえりますと、「自民か非自民か」という偽りの争点がつくられました。そして「非自民旋風」が吹き荒れました。この選挙で、自民も「非自民」も、「自民党政治の継承」という点では少しも違いがないということを、正面からこの「旋風」に立ちはだかって、堂々と訴えたのは、日本共産党ただ一党しかありませんでした。テレビの討論会に出ても、「共産党はカヤの外」などと言われて、なかなか大変でしたけれど、「たのまれてもきたないカヤの中には入らない」(笑い、拍手)といって、がんばり抜いたのがあの選挙でした。

 九三年の総選挙では、その「非自民旋風」に押されて、わが党は得票でも議席でも、七〇年代以降で最低に落ち込みました。しかしその後、「非自民」政権が崩壊し、これに参加した党は、みんな崩壊、衰退の道をたどりました。調べてみましたら、「非自民」政権に参加したのは、八つの会派です。社会党、公明党、新生党、日本新党、民社党、さきがけ、社民連、民改連。ずいぶん懐かしい昔の名前が(笑い)ならぶわけですけども、このうち党として名前を変えずに残っているのは公明党だけで、後はみんな党そのものがなくなったり、名前を変えたりしました。反対に日本共産党は、唯一の野党として筋を貫いた立場が評価されて、九五年の参議院選挙で前進に転ずる第一歩を踏み出し、九六年の総選挙、九七年の都議選、九八年の参議院選挙と、躍進の波をつくりだしました。

「小泉旋風」――正面から立ち向かった党の値打ちが広く明らかになる時が必ずくる

 今回のこの「小泉旋風」を起こした作戦というのは、それに続く第二の自民党政治の大掛かりな延命作戦だと思います。

 今度は、自民党自身が、「自民党を変える」と(笑い)、言葉のうえだけではあっても、過激な「自己否定」をやっているわけです。これは、「非自民」作戦のさいには、「自民党政治の継承」をとなえたということと比べても、もっと捨て身といいますか、もっと追いつめられたといいますか、後がないといいますか、切羽詰まった作戦です。それだけに国民へのインパクトも、強烈なものがあって、空前の期待が集まって、「小泉旋風」になりました。しかし、もともと自民党が「自民党を変える」ということは、絶対無理な公約であって、早晩、破たんせざるをえません。そして、破たんした時の激動は、もっと大きなものになることも、間違いないのではないでしょうか。(拍手)

 私は、日本共産党が、今度の選挙で正面からこの「旋風」に立ち向かってきたことの値打ちが、必ず広く明らかになる時が来ると、確信をもってみなさんにいいたいと思うのであります。(拍手)

選挙結果を歴史のダイナミズムのなかでとらえる

 今回の結果を、固定的に見るのではなくて、こういう歴史のダイナミズムのなかでとらえることが大切ではないでしょうか。

 そして、歴史というのはただ繰り返されているだけではありません。この十年間に、自民党政治の危機は、はるかに深刻になりました。日本共産党について言えば、今回残念な後退をしたとはいえ、「非自民」作戦のあとで、後退から前進に転じた第一歩となった六年前の参議院選挙で獲得した三百八十七万票よりも、今度得た、四百三十三万票という得票は、高いところにあります。

 力をつくして奮闘するならば、私は、新たな前進への道は開かれていると思います。ここにしっかり確信を持って、つぎのたたかいにのぞもうではありませんか。(拍手)

どんな政治的突風がふいても、前進できる量・質ともに強大な党を

 もちろん、前進への道はたんたんとしたものではありません。私たちの主体的な取り組みも含めた全体の総括については、冒頭述べたように、つぎの中央委員会総会でしっかりと教訓を引き出したいと考えています。

 ただ、私たちが選挙結果についての常任幹部会の声明で、「どんな政治的突風がふいても、それにたちむかって前進できる、量・質ともに強大な党をつくることの重要性を、痛感しています」と述べたことは、選挙をともにたたかった、多くの方々の共通の気持ちではないでしょうか。

個性豊かに説得力ある働きかけができる党に

 「質」という点では、どんな突風、逆風が吹いても揺るがない、強じんな党をつくりたい。よく学び、国民の気持ちにかみ合って、それぞれの党員が個性豊かに、柔軟で新鮮に、説得力ある働きかけができる党への前進をかちとりたい。これを、中央委員会が先頭にたって、全党が努力すべき課題として取り組みたいと考えています。

反共攻撃に負けない党という点での前進

 反共攻撃に負けない党をつくるという点では、私は前進があったと思います。

 公明党・創価学会が、今回も謀略的な大量宣伝を企てて、いろいろな謀略ビラも、一部でまかれましたけれども、私たちの攻勢的な取り組みで、全体としてこれを許さなかったことは、大きな、つぎにつながる成果といえるのではないでしょうか。(拍手)

 後でもお話があると思いますが、不破議長が発表した、「創価学会・池田大作氏に問う」という論文は、この反共集団の根底にある問題点をえぐったものとして、大きな反響を呼んでいます。これは、選挙戦の問題ということにとどめず、日本の民主主義を守るたたかいとして、大きな大義を持つたたかいとして、今後も私たちは全力をあげて取り組んでいきたい、この決意を申し上げたいと思います。(拍手)

日常の活動で広大な有権者と結びついた党を

 「量」という点では、広大な有権者の方々と、日常的に結びついた大きな党をつくりたい。私たちは、昨年の党大会の決定で、この間の選挙戦で獲得した約八百万人という支持者の中で、党が日常的な結びつきがあるのは、その一部であること、党の政治的影響力の広がりに比べて、組織的地歩が、大きく遅れているという問題点があるということを、率直に自己分析しました。

 今度の選挙で、私たちが、党が日常的に結びついている人々の支持については、だいたい確保することができたことは、各種の調査でもしめされています。これは、全国のみなさんの奮闘のたまものです。

 しかし、日常的に手が届いていない人々の支持を獲得することは、「小泉旋風」の中で十分にできなかったことも事実だと思います。

 日常的に、人間と人間との心の通う結びつきをどう広げ、党をしっかり支持してくださる堅い支持層をどう増やすか。その地道な取り組みを、広い無党派の方々に大胆に働きかける取り組みとしっかり結びつけてこそ、どんな突風、旋風の中でも前進できる党に成長することができると思います。

 わが党が、全国に二万六千の党支部を持ち、草の根で国民の利益を守って、支部のみなさんが奮闘していることは、わが党の宝であり、誇りであります。今度の結果も、草の根での大奮闘があってこそのものだと思います。

 しかし、二十一世紀の早い時期に民主連合政府をつくるという、私たちの大きな目標の達成のためには、ここに安住するわけにはいきません。“民主的政権への道を開く、量・質ともに強大な党をつくろう”――この旗印をしっかりかかげて、新たな気持ちで挑戦しようではありませんか。(拍手)

79年の歴史に誇りと確信をもってつぎのたたかいでは必ず勝利者に

 みなさん、この集会は、党が創立されてから七十九年目の記念の集会です。

 七十九年の党の歴史の中には、山もありますけれども、谷もあります。しかし、歴史の道程は、大局的には、正義と道理に立つものが、さまざまなジグザグをへながらも、最後には勝利者になることを教えています。

 戦前の暗黒政治のもとでの国民主権、侵略戦争反対をかかげた、私たちの先輩たちのたたかいは、戦後、憲法の中にしっかり刻まれました。

 戦後も、あらゆる大国の干渉をはねのけた自主・独立のたたかいは、旧ソ連・東欧の崩壊にさいしての世界的な大逆風でも党を持ちこたえ、発展させる基礎となりました。

 党綱領を確定してからの四十年の中にも、風波はあり、山あり谷ありです。しかし、四十年間にかちとった党の全体としての前進の足跡は、この路線の正しさを実証しています。

 みなさん、この七十九年の党の歴史、わが党の路線に自信と確信を持って、つぎのたたかいでは必ず勝利者になるためにがんばり抜こうではありませんか。(拍手)

 以上をもって、お話とさせていただきます。ありがとうございました。(大きな拍手)




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